COLUMN 2019年9月6日

「県人寮」の魅力とこれからに迫る

 「県人寮」の名前を聞いたことがあるだろうか。主に首都圏の大学に進学する地方出身の学生に向けて、安心して学業に専念できる場を提供するために設立された、各道府県出身者限定の学生寮のことだ。さまざまな大学に通う学生と交流でき、低廉な家賃と食事付きのサービスが魅力だが、近年は寮生不足に悩まされる県人寮も少なくない。県人寮での暮らしの様子や業界の現状について、実際に県人寮で暮らす東大生や県人寮の管理者組合の会長に話を聞いた。

(取材・撮影 大西健太郎)

 

左から山中理事、飯寮長、料理人の細川二郎さん。肱水舎を背景に

 

大学や出身地を超えた交流を

 京王線つつじヶ丘駅から歩くこと10分。小高い丘の上の閑静な住宅街にあるのが、愛媛県は旧大洲藩の男子学生寮「肱水舎」だ。その歴史は古く、明治34(1901)年、旧大洲藩主が郷土の男子学生のために屋敷の一部を解放し、育英寮としたのが始まりだ。現在は公益財団法人として運営されており、住み込みで働く料理人による朝夕2食の食事付きで寮費は月5万5千円とリーズナブル。各居室にはベッド、収納棚、机、エアコンが付いており、浴室、洗濯室、トイレや食堂が共用となっている。

 

 肱水舎の寮長を務める教養学部4年の飯雅樹さん(愛媛県松山市出身)は、入寮した理由について「寮費の安さと食事が付いてくることが決め手でした」と話す。1、2年の間はアパートで一人暮らしをしていたが、3年生に進学する際、県人寮への引っ越しを決意。寮の存在は、先に入寮していた高校時代の友人を通して知ったという。       

 

 県人寮の魅力は「やはり毎日おいしい食事が出てくることですね」。一人暮らしの頃は眠気に負けてしまい、朝食を取らずに大学に向かうことも少なくなかったというが、寮に来てからはそうした事態も減り、健康的な生活を送ることができているという。

 

 また気軽に話し合える友人がいることも寮に来て良かったことの1つだと話す飯さん。「同郷ということで同じバックグラウンドを共有しながらも、いろいろな大学に通う学生と語り合えることは、大学が運営する寮では得られない魅力ですね」。新入生歓迎会や納涼会など、寮生同士の交流を深める行事も季節ごとに用意されている。

 

 県人寮ならではという点では、地元の企業説明会や愛媛県にまつわるイベントへの参加がある。飯さんも先月、寮生を代表して愛媛県知事との意見交換会に参加したという。

 

 そんな肱水舎だが、一昔前までは寮生不足に悩まされていたという。寮の管理・運営を行う山中暹常務理事は、少子化のみならず寮を持つ大学の数が増えたことも原因の1つではないかと推測する。そのため肱水舎は、従来の大洲市をはじめとする愛媛県出身の学生に入寮者を限定する姿勢を転換し、日本全国から学生を募集するなど門戸を広げている。さらに現在では中国や韓国からの留学生も在籍している。その結果、現在の満室率は90%まで回復したという。

 

時代に合わせ、より良い生活空間へ

 そもそも県人寮とは一体どのような学寮制度なのだろうか。また、その現状と課題はどういったものか。県人寮の多くが加盟する管理人組合である全国学生寮協議会の会長で、自身も静岡県人寮で寮長を務める山田耕司さんによると、県人寮の沿革は大きく分けて2種類あるという。1つは肱水舎のように、江戸時代以降の藩の流れを汲むもの。その名残は現在も見られ、例えば石川富山明倫学館(文京区)は石川、富山両県から学生を受け入れているが、これは両県がもともと加賀藩に当たるためだ。

 

山田耕司さん(全国学生寮協議会・静岡県学生会館富士寮)

 

 もう1つは、1955年ごろ、地方出身の学生の住居問題を憂慮した当時の文部大臣の号令のもと整備されたものだ。自治体が直接運営している場合もあるが、多くの県人寮は公益財団法人化しているという。

 

 現在同協議会に加盟しているのは全部で41寮。かつては60寮ほど加盟していたというが、定員不足や老朽化などで廃寮になるケースが多かったのだという。とはいえ、廃寮となった県人寮の中には、千葉県人寮のように、交通網の発達から寮が不要になったというものも含まれているため、必ずしも人気低下や少子化の影響が大きいとは一概には言えないようだ。

 

 「いくら少子化が進んでいるとはいえ、上京する学生は今でも多い。大切なのはいかに学生のニーズにあった運営をするかですね」と山田さん。運営する静岡県人寮は寮内設備の更新や運営規則の変更などの他、寮のウェブサイトを一新するなど時代に即したPR戦略を取ったことで、現在でも常に満室状態が続いているという。

 

 県人寮はその成立時期や背景から、男子専用寮が多くを占めているのが現状だが、時代の変化に合わせて新たに女子寮を開設する県人寮もますます増えてきている。

 

 県人寮の魅力はその安さや食事の面だけにとどまらないと話す山田さん。急な病気や交通事故、ブラックバイトに詐欺被害など、学生には様々なトラブルが生じる可能性があるが「身近に相談できる人がいると、そうしたトラブルも未然に防いだり、適切に対処したりできると思います」

 

 山田さんも勉学や課外活動といった日常生活から就職活動に至るまで、普段から学生の相談相手になり、有意義な学生生活が送れるようサポートしているという。山田さんは「共同生活を送ることで、社会人としての礼儀やマナーも身に付くはずです」と県人寮に住む意義を強調する。

 

 京都府や宮城県など、県人寮を持たない府県もあるが、「県出身にこだわらずに外から学生を募集している寮もあるので、まずはインターネットで調べてみてください」

 

全国学生寮協議会に加盟している東京大学周辺の主な県人寮

この記事は、2019年8月27日号からの転載です。本紙では、他にもオリジナルの記事を掲載しています。

ニュース:レジ袋利用率が減少 有料化の影響を検証
ニュース:七大戦 28種目を終え総合2位 女ラク・陸上ホッケー全勝
ニュース:駒場イタトマ改修工事 9/16まで休業 新たなカフェへ
ニュース:ラクロス 秋リーグ黒星発進 格下・中大に9失点
ニュース:110億年前の巨大銀河 宇宙の進化の謎深まる
ニュース:東大は2件採択 卓越大学院 博士人材育成に補助金
ニュース:新たな磁性材料開発 次世代デバイスへ応用
企画:「海洋ごみ対策プロジェクト」始動 プラスチックごみの行方を追って
企画:地元の絆、忘れていませんか? 「県人寮」の魅力とこれからに迫る
推薦の素顔:湊杏海さん(理Ⅱ・1年→農学部)
飛び出せ!東大発ベンチャー:Builds 長期インターンのの魅力広める
著者に聞く:『人間と機械のあいだ 心はどこにあるのか』池上高志教授(総合文化研究科)
赤門恋愛相談室:悩める東大生にプロの処方箋
キャンパスガール:平田裕子さん(理Ⅱ・1年)

※新聞の購読については、こちらのページへどうぞ。

同じ記者の記事

関連記事

合わせて読みたい

COLUMN 2017年10月19日

【世界というキャンパスで】額田裕己さん① 大自然での一人旅へ

COLUMN 2018年09月25日

新しい「オフライン就活」の場 知るカフェ東京大学前店

COLUMN 2017年03月02日

【東大受験生応援連載】第二外国語を決めよう!履修者から見たフランス語の姿

INTERVIEW / FEATURE 2018年10月01日

【若き研究者たち②】松藤圭亮さん 研究者の人生はマラソン、寄り道しゴールを探す

COLUMN 2017年03月05日

【東大受験生応援連載】第二外国語を決めよう!履修者から見た韓国朝鮮語の姿

TOPに戻る