部活・サークル

2023年6月6日

【寄稿】赤十字国際人道法模擬裁判アジア・大洋州地域大会 日本代表の道のり

 3月8〜11日、香港で第21回赤十字国際人道法模擬裁判アジア・大洋州地域大会が行われ、日本代表として東大の黒須開さん、Jihyun Leeさん、北川拓人さんが参加しました。今回は黒須さんと北川さんに、大会までの道のりについて寄稿してもらいました。(寄稿=黒須開、北川拓人)

 

 ウクライナにおける戦争犯罪が懸念される中、国際刑事裁判所(ICC)は3月17日、プーチン露大統領ら2名に逮捕状を出しました。ニュースの見出しだけを読めば衝撃的ですが、実際にこの逮捕状がどの様な意味を持つのか、またICCをはじめとする国際司法のシステムは一体どういうものなのか、疑問に感じた方も多かったのではないでしょうか。ロシアによるウクライナ侵略という文脈の中で、日々報道される一般市民への攻撃、戦闘に関わる人達の残虐な行為、これに関わる国際法や秩序は機能しているのだろうか、そんな疑問から、私達の国際法と国際人道法の学習、そして国際人道法模擬裁判への参加までの道のりは始まりました。

 

 国際法の一つの分野に、紛争時における文民の保護や武器の使用などについて定める国際人道法という法体系があります。その違反については、東京裁判やルワンダ国際刑事裁判所(ICTR)などの臨時法廷で裁かれてきましたが、1998年に「ローマ規定」が採択され、2002年に発効し、オランダ・ハーグに常設のICCが創設されました。このICCにおける裁判を模し、架空のシナリオに対して、検察側と弁護側になって競う「国際人道法模擬裁判」が毎年開かれており、東大チーム(黒須開、Jihyun Lee、北川拓人)は、2022年12月に行われた国内大会で優勝し、2023年3月に香港で行われたアジア・大洋州地域大会に日本代表として参加しました。

 

東京大学IHLチーム(ICRC駐日代表部)(写真は東京大学IHLチーム提供)

 

北川さん:日本育ちから英語での議論に一歩踏み出す

 

 私(北川)は普段、主に国際関係論を勉強しているのですが、授業の中で国際人道法を知り、興味を持ち始めました。ロシアのウクライナ侵略についての報道に直面し、初学者ではありましたが、実際に自らの手と頭を動かしながら議論を交わす体験は、理論と現実を結びつける貴重な機会でした。国際人道法では、「戦闘」そのものは否定されておらず、戦闘に参加しない一般市民やその生存に不可欠な施設に対する攻撃などが禁止されています。現実的でありながらも、戦闘下における理不尽を許さないという崇高な理念に基づいており、その理念を体現すべく、学生が集まり、白熱した討論を交わす大会に参加できたことは今でも胸が熱くなる思いです。

 

 私自身、これまで普通に日本国内の学校に通い、日本語で教育を受けてきたので、全てが英語で行われる模擬裁判に参加することにはハンデを感じていました。専門書や判例を読むのも一苦労でしたし、何より、実際に検察官や弁護人の役になって裁判官と対峙し、質問に随時答えながら進められる口頭弁論は、これまでの人生で最高に緊張したのを覚えています。ただ、コンフォートゾーンを抜け出さねばと、自らの限界を突破する気持ちで挑んだことはかけがえのない経験になりました。筆者自身、「自分が思う程、周りは私のミスを気にしていないので、これまでの練習の成果を出し切るのみ」と開き直ることができたので、英語で議論することに不安があって参加を迷っている方は是非、一歩を踏み出して欲しいと思います。

 

黒須さん:PEAKから本格的な国際法に挑戦

 

 かなり興味が偏っている私(黒須)は法律や政治学、国際関係論などに以前から関心を持っていて、所属しているPEAK(教養学部英語コース)でこれらの科目をあまり深掘りできず困っていました。そこで自分の興味を全て組み合わせたような国際人道法という分野、そして赤十字国際委員会(ICRC)が主催する大会の話をPEAKの先輩方から聞き、私はすぐに参加することを決めました。

 

 この大会は法学生向けに主催されるものですが、東大チームの3人はいずれも法学生ではありません。そのため国内大会に向けては国際人道法やICCの基本的な原則や機能を学びながら、ICCや他の国際法廷の判例も調べ、模擬裁判の架空紛争について弁論趣意書をまとめるという、全て同時進行で行うかなり大変な作業でした。右も左も分からない初段階でしたが、キハラハント先生や模擬裁判に出場経験のある先輩方のサポートに大いに助けられ、自信を持って国内大会に臨み優勝することが出来ました。

 

 私は国内大会ではLeeさんと検察、そして北川さんと弁護側として模擬裁判に参加し、アジア太平洋大会ではLeeさんと検察・弁護の両方を2人で担当しました(北川さんはリサーチャーとして大会に参加)。英語には自信を持っていて、弁論のスピーチ内容は完璧に準備していても、判事の鋭い質問の対応に追われ壇上でパニックになる場面は何回かありました。特にアジア・大洋州地域大会に参加した各国の代表チームの弁論のレベルは非常に高く、強豪のチームは緊迫した状況の中でも冷静さと自信を失わずに判事の質問に答えていました。母国語が英語の参加者もそうでない参加者も、言語のレベルではなく法的な主張の明瞭さと自信の表れこそが強さだという印象を受けました。悔しい結果には終わってしまいましたが、アジア各国の代表チームや判事と親交を深め、良い仲間も沢山作りました。

 

 「平和主義」、「法の支配」などといった抽象的なスローガンを掲げる日本の一国民として、今まで国際人道法をよく知らなかったことを今となっては恥ずかしく思います。持続的な平和や「法の支配」には国際人道法の学習、そして厳守こそが不可欠であり、今回国際人道法を学ぶきっかけを作ってくださった皆さんには貴重な経験と多くの学びをさせていただいたことを心から感謝しています。

 

左から北川拓人、黒須開、Jihyun Lee(写真は東京大学IHLチーム提供)

 

 東大チームは、超(!)多忙のキハラハント愛教授(総合文化研究科)の監督を受けられる最高の環境ですし、これまで参加した先輩たちもメンターとして指導してくれます。また、今回、一緒に参加したチームメンバーの謙虚に努力する姿にも大きな刺激をもらいました。大会を運営してくれた赤十字国際委員会(ICRC)と香港赤十字会の方々や、分厚く重い資料の手配をサポートしてくれた図書館職員の方々、大会の応援に来てくれた友人など、本当に多くの人に支えてもらい、筆者の血となり肉となる、かけがえのない経験ができたことに心から感謝しています。

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