インタビュー

2021年11月14日

失敗しても良い、打席に立ち続けよう Flatt Security代表取締役CEO・井手康貴さんインタビュー

 

 文IIに入学した後、大学3年生で起業し、現在はFlatt Securityというサイバーセキュリティー関連のサービスを取り扱う会社を経営する井手康貴さん。高校生の頃には18歳選挙権の成立に関わる活動もしていた。そんな経歴を持つ井手さんに、メルカリでのエンジニアとしてのインターン経験や、起業をした理由、駒場祭の思い出など学生時代の経験を聞いた。起業は「成功するまで振れば良い」世界だと語るわけとは。(取材・安部道裕)

 

政治から一転 「ビジネスは世界を動かす」

 

──現在はビジネスをされていますが、高校生の頃には18歳選挙権の成立に関わる政治活動をしていました

 

 政治に興味を持ったきっかけは中学校の社会の授業です。食料自給率について授業で取り扱ったのですが、習うのは「大豆の自給率は何%です」や「農業で日本は海外に押されています」といった知識ばかり。私が気になったのは一歩掘り下げた、なぜ作物の自給率が下がっているのか、なぜ海外の作物に対して優位性がなくなってしまったのかといった問題でしたが、授業でそのような問題に触れて議論することはありませんでした。そこでいろいろと調べて、どうしたら海外の農作物に勝てるようになるかなどを自分なりに考えてみました。まだ中学生だったので視野も狭く、自分のアイデアをぶつける先がなかなか分からなかったのですが、パッと思い浮かんだのが政治家でした。そのようなきっかけで議員の方と政策などについてお話をする活動をするようになりました。迷惑だと思われていたかもしれませんが、時にはアポを取らずに突撃したこともあります(笑)。そういった活動の中で政治に興味がある同年代の人と交流するようになったのですが、そもそも若者が理想とする政策を通すためには、若者が投票しないといけないという事実が見えてきました。そこで行ったのが18歳選挙権の成立に関わる政治活動です。他にも高校生を集めて議員さんと議論を交わす機会を作ったり、実際の若者の投票割合がどのくらいなのか調査したりする活動などもしていました。

 

高校時代には政治家と議論を交わした(写真は井手さん提供)

 

──政治の世界ではなくビジネスの世界を選んだ理由を教えてください

 

 これは構造上の問題ですが、日本の政治は何を決めるにも多数決で、一人の力で何かを変えることはできません。政界には年功序列の風潮や派閥もあるため、自分のやりたい政策を実現するのに何年かかるのだろうかということを考えたとき、ビジネスの方が世界を動かせるのではないかと思い始めました。また当時、米国で家の貸し借りをするサービスをやっているAirbnbという会社が伸びてきている時期で、生活の様式を変えるのにビジネスがすごく関与しているんだなと実感し、ビジネスの道に進もうと決めました。

 

──東大を志望した理由や、文IIを選んだ理由を聞かせてください

 

 東大は、その世代の一番優秀な人たちが集まる大学だと思っています。数学がものすごくできる人や哲学に精通している人など各分野にすごい人がいて。そういう人たちとつながりを持って、刺激を受けながら大学生活を送ることに価値があると思ったのが東大を志望した理由です。実際、大学12年生の時に同級生だった人たちが卒業して現在社会人数年目になっていますが、各業界に進んだ同級生と各自の業界の話をする機会が増え、刺激をもらっています。学内でのつながりが社会人になった後も生きてくるのだな、とここ1年ぐらいで実感していますね。文IIを選んだのは、やはりビジネスをやりたかったからです。今の仕事をしていても感じますが、文IIの卒業生は経済界にいる方がとても多いんです。もっとも、コンピューターサイエンスにも興味があって、また理系出身の起業家も増えてきていたので、理系に進もうかとも悩んでいましたが。

 

出店で体感 駒場祭は「小さなビジネス」

 

──東大の授業はどのような姿勢で受けていたのでしょうか

 

 何をやるにしても教養は重要だと思っています。現実のことばかり勉強していても、最後に教養が足りなかったために物事を成し遂げられないという例も聞きますから、ビジネスの土台として12年生の時はアカデミックなことをしっかり学びました。一見ビジネスとは全く関係ない哲学なども、組織の在り方を考える上で生きることもありますよ。

 

──TNKという起業サークルと、TSGというコンピューター系サークルに所属していました

 

 TNKでは、経営者の方や上場企業の社長さんが話をしに来てくれて、ディスカッションや勉強会をしていました。時にはチームでビジネスコンテストに参加することもありましたね。ビジネスだけでなく技術も学びたかったので、2年生からはTSGにも所属していました。1、2年生の時はその二つのサークルの活動が生活の軸でした。

 

──駒場祭の思い出は何でしょうか

 

 一番思い出に残っているのは、クラスで出店したことです。文化祭での出店って小さなビジネスですよね。他にも出店するクラスは多くありますから、他のクラスとかぶらないものにするとか、駒場祭が開催される11月下旬の寒い時期に合わせた食べ物にするなど、クラスメートといろいろ考えました。アイデア出しの時にやっぱり優秀な人が多いなと感じましたね。結局ケーキのお店を出したのですが、考えを巡らせたかいがあって多くの利益を出すことができました。それはクラスのみんなで山分けしたのですが、一つの成功体験として記憶に残っています。他には、自分が運営に深く携わった年の話ではないのですが、TSGでハッキングコンテストをやったことも覚えています。お客さんの目の前でハッキングをして見せるのですが、どうしても地味に見えてしまうので集客に苦労しました。いかにエンターテインメントとして成立させるかというところで、バトル形式にするなどの工夫をしましたがなかなか大変だったのを覚えています。

 

──文系ですが、エンジニアとしてインターンの経験があります

 

 私が深く感じていることですが、会社を経営する上で、もっと言えば現代を生きていく上でコンピューターサイエンスは文系でも最低限は理解できないといけません。ですから情報系の勉強をしつつ、実践として開発の現場を知ることのできるメルカリでインターンをしていました。メルカリでは過去の資料などを必要に応じて自由に参照することができました。創業期のミーティングの資料を見て、その時社長がどんなことを考えていたのかをのぞいてみたり(笑)。そういう資料をあさりながら、自分はどうしていこうかなということをすごく考えていましたね。

 

エンジニアとしてメルカリでのインターンを経験(写真は井手さん提供)

 

──インターンの中で得た一番の学びは何でしょうか

 

 メルカリがやっているアプリのアイデア自体も、ユーザー同士が物をやり取りするという、誰でもまねしようと思えばできるもので、インターンをしていた当時は競合他社がたくさんありました。しかし最終的にはメルカリが競争に勝っています。ビジネスにおける競争にはいろいろな要素が絡んできますが、どうしてその競争に勝てたのかという思考をたどっていくと、ユーザーが本質的に求めているものは何かということを「学ぶ」というのが一つ重要な要素であることを知りました。アイデアを出してビジネスモデルを立てていくというよりは、実際に作ってみて、それをユーザーにぶつけることで得られる「学び」というのが本質的に重要だと感じましたね。

 

打率関係なし! 起業は「成功するまでやれば良い」

 

──起業という選択をしたことの理由は何だったのでしょうか

 

 幼少期の原体験が大きいですね。小さい頃は親の教育方針で海外に行くことがよくあり、その時に実感したのが、身の回りの物の多くが日本製であるということでした。そこで「言語も通じないところで愛用されているってかっこいいな」と感じて、海外でも躍動する日本のものづくりに憧れを抱き始めました。そこからビジネスで世の中を変えたいと思い始めた上で、外貨を稼いで国に貢献できる会社で、かつ時価総額が1兆円規模の「一兆円企業」をつくりたいと思ったのが起業のきっかけです。入学前から、大学で2年間勉強した後に起業する、と決めていたので、3年生になったタイミングで起業をしました。

 

──当時、まだ20歳という若さでした

 

 20代の若いうちから起業などに挑戦すると、実際の実力よりも高く評価されやすいというボーナスがあります(笑)。そのボーナスを使って有名な経営者の方といろいろとお話をさせてもらったり、お世話になったりすることができたので、そこのメリットは大きかったですね。各分野に強い方たちとのお話からいろいろと学び、後から実力を付けていくという考え方もありだと思うので、早めに挑戦した方が良いというのは感じています。

 

──今はFlatt Securityというサイバーセキュリティー関連の会社を経営しています

 

 最初はインターネット上で物やサービスを売買する事業をしていたのですが、そちらは売却して今はセキュリティーの事業をやっています。セキュリティーを選んだ理由はいくつかあって、一つ目はセキュリティーという分野が「一兆円企業」を目指せる市場であるということです。二つ目は自分が好きな技術系の分野であること。三つ目の、最も大きな理由はセキュリティーの分野が自分たちにしかできないと感じたからです。私の所属していたTSGの分科会の一つは、CaptureTheFlagというハッキング大会で社会人に混じりながらも高順位を叩き出すなど、世界的に見ても強いチームで、セキュリティーに強い人が多くいました。セキュリティーの技術者というのは世の中でも数少なく、本当に貴重な存在なので、その人たちが周りにいたのは大きなチャンスだと感じ、セキュリティーの事業ができるのではないかと思いました。

 

現在経営している Flatt Security の社内写真(写真は井手さん提供)

 

──最後に、現役の東大生に向けてメッセージをお願いします

 

 実際に起業をした先輩などに話を聞くと、ほとんどの人が最初はうまくいっていません。外から見ると、うまくいったところだけ、うまくいっている人だけが目に付いてしまうので、自分には起業なんてできないんじゃないかと思う人もいると思います。もちろん成功には運という要素も一定の割合で関わるので、運良く最初の挑戦で成功する人もいますが、起業のタイミングなども含めて大多数の人は最初に失敗しています。ですから大切なのは「打席に立ち続ける」ことです。元メジャーリーガーのイチローは天才と言われますが、かといって6割打てたりはしません。3回に1回打てれば良いバッターというのが野球の世界ですが、起業では細かい事業などを含めれば打率がもっと低くても良くて「成功するまで振れば良い」という世界です。その際たる例がメルカリの創業者である山田進太郎さんです。もちろん山田さんはメルカリを創業する以前にもビジネスで成功していましたが、メルカリという大きな企業を立ち上げたのは30代後半になってからでした。正しい方向に努力しながら、諦めずに打席に立ち続ければきっとうまくいきますよ。

 

井手康貴(いで・こうき)さん

 東大在学中の17年にFlatt(現・Flatt Security)を創業。18年に当時の事業を売却し、19 年からサイバーセキュリティーの領域で事業を始め る。起業後休学していたが、現在は復学。

 

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