受験

2022年1月17日

受験生に知ってもらいたい教育と受験の問題 ~教育格差の現実とどう向き合うべきか~

 

 近年、社会問題としての教育格差が話題になることが増えている。子どもの生まれという本人にはどうすることもできない初期条件によって教育の結果に差が生じてしまうこの問題は、東大でも顕著な形で現れているのではないか。受験を巡る問題について社会問題といった角度から考え直す。(取材・川田真弘)

 

教育格差とは何か

 

 「東大生の親の6割以上は年収950万円以上」。このフレーズをどこかで聞いたことのあるという人も多いのではないだろうか。東大が行った「学生生活実態調査」(2018年)によれば、世帯年収が950万円を超える家庭は回答者全体の60.8%に上る。経済的に裕福な家庭の生徒が東大に進学している様子が見て取れる。

 

 同じ資料によれば、実家の所在地について、東大生の7割近くが東京を含む関東にあると回答している。東大を身近に感じやすい関東地方の高校生に比べて、地方の高校生はそもそも東大が現実的な選択肢となりにくい可能性がある。

 

 「2割の壁」。こちらも東大の男女比率を問題にする際によく耳にする言葉だ。東大の学部入学者のうち、女子学生は全体の2割に満たない状態が長く続いてきた。21年度入試で女性の合格者数は全体の21.1%と過去最高となったが、依然として2割前後だ。

 

 こうした状況をどう捉えればよいのか。それを紐解くカギは「教育格差」にある。教育社会学が専門の松岡亮二准教授(早稲田大学)は教育格差を「本人が変更できない初期条件(生まれ)によって最終学歴を含む教育の結果に違いがある傾向のこと」と定義する。「通塾など機会の差の一断面に注目するのではなく、初期条件によるさまざまな機会の長年にわたる差の総体として格差を捉えることが重要だと考えます」

 

 育った家庭の社会経済的地位(保護者の学歴、職業、収入など)や本人の出身地域、性別によって、学力や最終学歴といった結果の差が存在する。また大学に行くか否かといった将来の選択も生まれによって異なると語る。「生まれによって大学進学の現実感に差があります。個人が能力に応じて進路を選択するという建前の下、社会経済的に恵まれない子どもたちは学力があっても大学進学を選択肢に入れない傾向があります」

 

 こうした教育格差は日本では第二次世界大戦直後に貧困問題として認識されるも、高度成長の中で長らく忘れ去られてきた。2000年代に入って再び「子どもの貧困」の問題として浮上してきているが、教育格差全体の正確な認識はまだ広がっていないと指摘する。

 

格差是正の意義

 

 教育格差を是正する意義は何か。松岡准教授は、個々の子どもの人生の可能性を広げることは、社会全体の利益につながると語る。「個々人が潜在可能性を追求することでイノベーションが起こるなど、社会全体にとって便益があると考えられます。経済的な側面だけではなく、政治参加の促進なども期待できます」

 現代社会では選択は本人の意思によるものとされ、自己責任を強調する声も多く聞かれるが、生まれによって人生の可能性が制限されている実態がある以上、日本は「緩やかな身分社会」だという。

 

 ではどのようにすれば教育格差の問題を社会全体で共有できるのか。まずはデータに基づいた実態の把握が必要不可欠だと語る。「自己責任を強調する人も、データとともに実態と向き合えば見方が変わるのではないでしょうか」。また「自己責任」を問えば人々の行動や能力が改善するわけでもない。どういう政策であれば望ましい状態にできるのか考えることが重要だと語る。

 

 教育格差が解消された理想状態として、松岡准教授は親の社会経済的地位や出身地域、本人の性別などと教育の結果が関連していない状態、すなわちどんな生まれでもあらゆる選択が可能な状態をイメージする。また「しんどい層」の支援だけでなく「できる人」を伸ばすことも重要であり、単にギャップを埋めればよいというわけではないという。「一人一人が自身の可能性を追求するために何歳になっても学び続けることが現実的に許容される社会であってほしいと願います」

 

今後教育格差とどう向き合うか

 

 教育格差是正に必要な政策は何か。現行の政策の多くは経済的支援が中心だが、教育格差は経済だけの問題ではなく社会・文化的な格差とも深く結びついている。そもそも学習や進学の意欲の有無は生まれによって大きく異なる現状がある。

 

 そのため松岡准教授は、子どもの学習意欲を高め、それを長期的に維持するためにどのような教育プログラムが必要か、データを収集して検証するべきだと語る。「実際に教育的介入を行い、効果を検証する必要があります。今までと同じような教育の継続であれば、戦後ずっと続いてきた教育格差が突如縮小することはないはずです」

 

 また大学の教職課程において教育格差を必修とすることも提唱。同じく教育社会学が専門の中村高康教授(東大大学院教育学研究科)と共に、テキストとなる『現場で使える教育社会学:教職のための「教育格差」入門』の編集に携わった。本年度の A セメスターには東大の前期教養課程で、このテキストを用いた授業を開講。受講生が教育格差を学ぶ過程を授業中の議論に基づいて新書としてまとめ、刊行するという。

 

『現場で使える教育社会学:教職のための「教育格差」 入門』(共編著、ミネルヴァ書房)。教職課程の学生が 教育格差を学ぶためのテキストとして編集された

 

 教育格差の是正は、ともすれば勉強や大学進学の押し付けとも取られかねない。「時代によって知識や技能の水準は変わります。個人の便益のためだけではなく社会全体の成熟度を高めるためにも、多くの人が現在の学部教育水準の教養などを身に付けることが望ましくはないでしょうか」

 

 さまざまな要因が複雑に絡み生じる教育格差。冒頭で見た東大の現状も、生まれによって東大入学のしやすさに違いがあるという意味で教育格差の一つと捉えることができるだろう。それどころか、東大受験は教育格差が最も如実に現れる場面と言えるのかもしれない。受験勉強の傍ら、我々はこうした問題に少し目を向けてみてもよいのではないだろうか。

 

 

松岡亮二(まつおか・りょうじ) 准教授(早稲田大学) 12年ハワイ州立大学マノア校博士課程修了。博士(教育学)。早稲田大学助教などを経て、18年より現職。著書に『教育格差:階層・地域・学歴』(ちくま新書)、編著に『教育論の新常識:格差・学力・政策・未来』 (中公新書ラクレ)や『現場で使える教育社会学:教職のための「教育格差」入門』(共編著、ミネルヴァ書房)がある。
『教育格差:階層・地域・学歴』(ちくま新書)。新書大賞2020にて第3位を受賞。教育格差の問題を圧倒的なデータ実証に基づいて読者に提起する

 

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