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2023年2月10日

【教員の振り返る東大生活】赤川学教授 「声が出なくなる時もあった」━━長い苦悩を経て気付いた研究の楽しさとは

 

 

 「高1の時は剣道に打ち込み、ほとんど勉強できませんでした」。そう振り返る赤川学教授(東大大学院人文社会系研究科)は、石川県にある剣道強豪校出身だった。学業不振を親から心配され勉強か剣道のどちらかを選ぶことになり、泣く泣く剣道をやめたという。「これは人生最大の挫折でしたね」。勉強を始めると成績が伸び、東大を志望することにした。

 

 文Ⅲに合格し70数人ほどの中国語クラスに所属すると、そこでカルチャーショックを受けることとなる。「同い年なのに考古学を詳細に知っていたり、イスラムの本を原典で読む人がいたりして、なんじゃこの世界は! と(笑)」。1年次は彼らが薦める多様な本をとにかく読んだ。「印象的なのは三島由紀夫。『仮面の告白』や『豊饒(ほうじょう)の海』など大体読みました。彼の派手でかっこいい文章に憧れましたが、今は、誰にも分かりやすい文体が好みです(笑)」。そんなクラスメートとの付き合いは深く、現在も続く。「正直に話せる関係でした。渋谷や新宿で安いお酒を飲み、恋愛の話や議論、けんかもしながら始発を待ちましたね」

 

 進学振分け(当時、現・進学選択)では当初、国史学専修課程(当時)で日本史を学ぶつもりだった。しかし日本史関連のゼミで、古文書を楽々読める人に多く出会い「これでは国史学専修で、自分はびりっけつかも」と思うように。そんな中、故・見田宗介教授(当時)の授業などをきっかけに社会学に興味を持った。「現代社会の成り立ちと特徴を知ることが歴史(日本史)を学ぶ動機でしたが、これを直接扱う社会学に惹(ひ)かれていきました」。そうして文学部の社会学専修課程(当時)に進学。背中を押したのは、ある友人の「社会学を学べば、いずれ歴史も学べるよ」という一言だったという。進学後、本を読む中で研究関心は「性」に絞られた。しかし当時の社会学は「社会とは何か」というような大きなテーマを扱うのが主流で、性といった個別テーマを扱う研究は少なく、暗中模索の状態だった。

 

 大学院進学を決めたのは4年次の春休み。「ただ、進学の理由は特になかった」という。「試しに1度だけ受けてみて、ダメだったら就職しようと思っていました」

 

 卒業論文執筆を行う4年次は「人生で一番鬱(うつ)な時期」だったと振り返る。フロイトやレヴィ=ストロースなど、性について書かれた本を広く読むも、理論がまとまらず苦悩した。「性を社会学的に捉える方法について書いた卒論は、枚数はあるけれど満足感はありませんでした」

 

学部の卒業式後に(写真は赤川教授提供)

 

 こうした苦悩は修士1年の秋ごろまで続き、2週間大学に出られない時や、声が出なくなる時もあった。「今の自分の社会学のやり方では、現実の社会問題を何も語れないと悩みましたね」

 

 そんな中、ポルノグラフィを性差別的だとして規制する議論に違和感を覚え、興味を持つようになる。「アダルトビデオを見る自身の感覚と、ポルノ規制派が用いる論理の間に違いを感じました」。そこでポルノグラフィに研究テーマを絞ることにした。理論中心の従来の研究スタイルから大幅に変更し、ポルノグラフィに関する歴史や論争など、より具体的な分析研究を行うようになる。すると研究が前に進むようになった。「学部1年で読んだ時には意味が分からなかったミシェル・フーコーの『性の歴史』を再び読み、この本に書かれている理論を援用して、ポルノを対象に分析を行えばいいんだ! とやっと理解しました。するとやるべきことが見えてきて。研究のやり方と面白さを体感するようになりました」。こうして楽しさに気付いた研究を今も続けている。

 

 学生時代の後悔は「ヨガを始めていなかった」ことだという。特殊な呼吸法で力を抜きながら、自らの体重を用いて体を柔らかくできるヨガ。「もっと若い頃から体の柔軟性を高めていれば、体の凝りに悩まされることもなかったのに……と思います(笑)」

 

 東大生に対するメッセージ。「東大生への偏見がある一方で、東大生だからこそ受けられている恩恵もあります。そうした恩恵を自覚しつつ、一方で偏見を跳ねのけて取り組みたいと思えるようなことを見つけてもらいたいです」(取材・葉いずみ)

 

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