キャンパスライフ

2021年8月20日

【教員の振り返る東大生活】出口智之准教授 自然体で生きてほしい

 

 「東大は全国から優秀な学生が集まっていて刺激をもらえるのはいいことだったけど、一方で苦しくもありました」。そう語る出口准教授は大学時代、電車や授業中など自由に動けない状況で吐き気を覚える高校時代からのパニック障害に悩まされていた。吐かないように全く食事を取らなくなり、1カ月で体重が10キロ以上減ったこともあったという。症状を我慢しながら過ごした大学生活は、楽しいことだけでなく苦悩も多かった。「東大の中でこうありたい自分の姿と優秀な周囲の環境とのずれや、それによる不安からバランスを崩していたんだと思います」と当時の自分を振り返る。

 

 課外活動としては幼少期から歌を習っていたことから合唱サークルでバスを担当し、3年生になると学生指揮者も担当するなど積極的に、楽しんで活動に参加していたが、演奏会のステージはやはり苦手で吐き気と戦いながら歌っていた。教員となった現在も症状は完治していないが、授業への周到な準備や学生との積極的なコミュニケーションにより、潜在的な不安を小さくすることで落ち着いて授業に取り組めるようになったという。「ハンディキャップがあっても上手く自分と付き合うことでちゃんと道は開けてきます」

 

出口准教授の小学校時代の同級生が学芸員をしている戸嶋靖昌記念館にて(写真は出口准教授提供)

 

 文Ⅲから文学部の言語文化学科日本語日本文学(国文学)研究室(当時)に進学。高校時代から歴史や文学が好きだったが特に明確な志望動機はなく、現在のように研究者になる展望もなかった。しかし大学院生の先輩の誘いで3年生の春から勉強会に参加し、院生に混ざって専門的な国文学を学び始めると研究の面白さに気づいた。多くの学生が研究テーマを決めるのは早くても4年生の春だが、3年生の夏には明治の文豪幸田露伴を対象に決めて早々に研究を始めたという。院生の多い勉強会の雰囲気に後押しされて大学院に進学し、幸田露伴とその周辺の「根岸党」と呼ばれる文人ネットワークについて研究を続けた。 

 

 大学生時代にやっておいて良かったと思うのは、研究分野にとらわれず本をたくさん読んだことだと振り返る。「今は仕事の一環として本を読まないといけないので、無心で本を読めるのは時間のある学生時代だけだと思います」。一方で心残りもある。「もう少し友人と遊んでいたら良かった」。東海大学に赴任し海水浴や山登りなどさまざまな遊びをする学生に教員として同行した際、こういうことに学生としてもっと参加したかったと感じたという。

 

 最後に、東大生に対して「上を目指して頑張り続けることは一つのやり方だと思うが、それで辛さが出てくる人もいる。科目と学習範囲を定められて得点を競う入試は終わったのだから、あまり肩肘張らず自分の好きなことや得意なことにありのままに取り組んで自然体で生きられると良いと思います」とメッセージを送る。「東大生は過酷な競争社会に身を投じてきた人が多い。その競争が大学でも継続するとつらく、他者同士を比較し序列化して見ることにもなる。自然体でいることが他者を尊重することにもつながる気がします」

(葉いずみ)

 

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