インタビュー

2021年2月20日

【受験生応援】藤垣裕子教授が語る、学問の魅力とは

 

 入試本番も目前だ。残り時間を存分に生かすためにも、息抜きに入学後のイメージトレーニングをしてモチベーションを高めたいところ。しかし、そもそも入学後に待っている学びとは一体どんなものなのか。哲学を研究する國分功一郎准教授(大学院総合文化研究科)と、科学技術社会論(STS)を研究する藤垣裕子教授(大学院総合文化研究科)へ取材し大学の学びの魅力を探るとともに、受験生へのメッセージをもらった。

(取材・鈴木茉衣)

 

入学後に出会った分野を選んだ

 

──東大を志望した理由、文理や受験科類をどのように決めたかを教えてください

 

 高校生の頃から物理学者になりたいと思っていました。高校では物理部の部長をしていましたし、湯川秀樹京都大学名誉教授(当時)がまだご存命で、憧れでした。研究者になるならば日本で一番の大学が良いだろうと思い、東大の理Ⅰを受験しました。

 

──なぜ物理に興味を持ったのでしょうか

 

 中学生の時に『科学史物語』(角川書店)を読んだのがきっかけだったと思います。数式で表すということ自体が好きなのかもしれません。当時は物理とまとめて理科第一分野と呼ばれていた化学も好きでした。

 

──受験生時代をどのように過ごしましたか

 

 高校に入った頃にはすでに志望を決めており、特に迷いもなく勉強していました。女子校だったのですが、女性ばかりの環境から抜け出したかったというのもあります。というのも、女性が多い環境には物理が好きな人が少なかったからです。理系の人自体はいましたが、医者を目指しているケースが多かったです。

 

──高校での学びと大学での学びの違いはどのようなものだと思いますか

 

 まずは科目の分類のされ方が違いますよね。特に文系科目ではそれが顕著で、例えば倫理・政経と一括りにされていたものが哲学、政治学、社会学などに分かれています。そのおかげで高校の頃よりも細かく深い内容を学習することができるのだと思います。それに、分野の越境や融合も多いです。ですから、受験勉強ではつまらないと感じていた科目の面白さに大学で勉強してから気付ける、ということはあると思いますよ。

 

 あとは、受験では短時間で答えを出すことを求められますが、大学では問い続けることが大事だということです。簡単には答えが出ないことについて、長時間考え続ける必要があります。

 

──受験勉強は大学以降の勉強や研究にどのような影響を与えたと思いますか

 

 忍耐力や集中力が身につきました。目標に向かって計画を立て、集中して作業をする訓練は勉強以外にも役立つ財産だと思います。

 

──受験生時代に思い描いていた東大での学びと実際の学びを比べてみてどうでしたか

 

 授業は予想していた以上に面白かったです。自由にいろいろなことが出来ました。例えば、全学自由研究ゼミナールの「人間形成のための教養と学問」という授業は少人数で色々な本を読んで話し合うという内容で、学問の責任論などについて考えました。

 

 ある程度予想していたとはいえ、例えば理Ⅰでは1クラスに0人か2人という女性の少なさなど、高校までとの環境の違いにはやはり驚きました。キャンパスが汚いのには閉口しましたね…。当時より今の方がきれいだと思います。

 

──学部時代、面白かった授業や興味を持って取り組んでいた学問領域などはありますか

 

 理系でしたが、社会科学系の授業も受けることができ、とても面白かったです。自主的な学習としては1、2年生の頃に、物理学研究会に入って量子力学に関するテキストを読んだり、公害問題に関する読書会に入っていたりしました。

 

──科学技術社会論(STS)を研究することを決めたのはいつ、どのような思いからですか

 

 公害問題に関する読書会や「人間形成のための教養と学問」を通じ、科学者の社会的責任についての本を読むようになりました。憧れの湯川秀樹が批判されたりもしていて衝撃を受けました。それはなぜなのか、本当にそれでいいのか、などと考えているうちに科学と社会の関係について勉強したいと思うようになりました。ただ当時はSTSをやれるところがなく、近いところで科学史や、初志貫徹ということで物理と迷っていました。学科選択には苦労したんです。

 

 結局、新設学科だった教養学部基礎科学科第二(当時)に進学し、科学技術と社会の関係について学ぶことになりました。大学に入った後に興味を持った分野を選んだことになります。

 

──ということは、文理融合分野であるSTSを選んだことには前期教養課程の存在が影響しているのでしょうか

 

 そうですね。「人間形成のための教養と学問」では文Ⅰから理Ⅲまで全ての学生がそろって学問の責任について議論しましたし、理Ⅰにいても社会学を学べて、視野を広げられました。だからこそ文理融合分野を選ぶことにもためらいはありませんでした。学生はあまり意識していないと思いますが、広い分野を学べて、文理の違う学生と交流もできる駒場の環境は恵まれていると思います。

 

──学生時代に、勉強以外で特に印象に残っていることなどはありますか

 

 普通運動系の団体は1年生から入ると思うのですが、4年間ずっと駒場にいることになったので3年生から競技ダンス部に入りました。1年生の頃は運動にそれほど興味はなかったのですが、進学して余裕が生まれたのかもしれません。

 

 競技ダンスというのは社交ダンスを競技でやるというものですが、皆大学に入ってから始めるので東大生でもそれほどハンデがなく、六大学の大会でよく優勝していました。男女がペアになるので人数の問題で他大女子も所属していて、その交流が楽しかったです。高校では女性ばかりで逃げたいと思っていたのですが、いざ入ると女性が少なすぎて…。

 

大学は思考を深められる場

 

──Sセメスターに教養学部後期課程で開講していた「科学技術社会論」はどのような授業ですか

 

 科学技術と社会の関係についての授業です。STSのバックセオリーは欧米で生まれたため事例も現地のものがベースなのですが、それではなかなか自分ごととして考えられないことが多いです。ですのでこの授業で取り上げたのは日本における問題です。水俣病をはじめとする公害病や遺伝子組み換え食品の不買など、社会との接点にある問題について実際の事例分析を通して考えてもらいます。同様の授業を前期課程にも開講していましたが、文Ⅰから理Ⅲまで色々な科類から学生が集まり、最後は議論の時間を設けました。例えば著作権法違反でソフトウェア利用者だけではなく開発者も逮捕されたWinny事件では、法律のロジックとソフトウェア開発者のロジックの差が争点になりました。実際にも、文Ⅰ出身の学生が裁判官に、理Ⅰ出身の学生が裁判に出廷する科学技術者になるようなケースは考えられますよね。

 

──その他、東大ではどのようなことを教えていますか

 

 同じく3、4年生向けの「異分野交流・多分野協力論」というさまざまな専攻の学生が集まって議論をする授業も担当しています。後期課程に進学してから必要性の分かる教養科目もあるということで、2015年頃から始まった後期教養科目の1つです。毎回の授業で「グローバル人材は本当に必要か」「芸術作品に客観的価値はあるか」「代理母出産は許されるか」「飢えた子どもを前に文学は役立つか」などの、簡単には答えの出ない問題をテーマにします。

 

 教員側でテーマに関する4000字ほどの資料を事前に提示し、予習をしてきてもらって実際に授業内で思考を深めるということをしました。学生は受け身の講義には慣れていても自分の中で思考を固めていくのは難しいのですが、13回の授業を経てだんだんできるようになっていくんですよね。最終課題ではレポートを出しましたが、読むのが面白かったです。

 

──大学の学問の魅力はどのようなものだと思いますか

 

 答えが簡単には出ない問いについてずっと問い続けることができることです。SNSの影響もあり即答の癖がついている人が多いですが、即答ばかりしていては思考が表面化してしまいます。じっくり考えてこそ、メタ的な視点で深めることができるのだと思います。

 

──最後に、受験生へのメッセージをお願いします

 

 受験勉強は大変ですが、頭の基礎訓練だと思って取り組んで欲しいと思います。細かい知識だけでなく、忍耐力や集中力も後々役に立ちますよ。入学したらそれらをもとに学問の土壌を耕せます。

 

 学問を極めたいと思ったら、東大は日本では一番適しているのではないでしょうか。性別や出身地域を問わず、大志ある人はぜひ最高の環境に刺激を受けに来てください。とはいえ世界は広いですから、東大は踏み台と思っていいと思います。あとは身体に気をつけて、頑張ってください。


藤垣裕子(ふじがき・ゆうこ)教授(東京大学大学院総合文化研究科)

 90年東大大学院総合文化研究科博士課程修了。東大大学院総合文化研究科助教授(当時)を経て10年より現職。

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