文化

2021年5月12日

新しい「オトナ」のドリンク クラフトコーラの魅力とは

 最近さまざまなメディアで取り上げられ、SNSでも話題になっている「クラフトコーラ」。若者に人気のあるジャンクドリンクという従来のコーラのイメージを覆し、健康的な大人のドリンクとして認識され始めている。そんなクラフトコーラの専門店を世界で初めてオープンしたのは、東大大学院修了のコーラ小林こと小林隆英さんだ。東大とも縁のあるクラフトコーラの魅力に迫った。

(取材・黒田光太郎)

 

クラフトコーラは味だけでなく、デザイン性にも優れているものが多い(写真は伊良コーラ提供)

 

世界初のクラフトコーラ専門店

 

 「クラフト」は「手作りの」という意味で、クラフトコーラとは手作りコーラのことだ。そう聞くと「コーラは手作りできるのか」「大手飲料メーカーのみが作ることができる秘密の方法があると思っていた」と思う人も多いだろう。しかし、コーラは個人で作ることも可能だということは、コーラの歴史を振り返るとよく分かる。

 

 コーラの起源は19世紀にさかのぼる。当時、南北戦争で戦った兵士らは、薬物中毒になることが多かったという。その状況を解決しようとした薬剤師のジョン・ペンバートンが、微量のコカインをスパイスと調合した栄養ドリンクとして1886年に開発したのがコーラの元である。

 

 こうして生まれたコーラはその独特の風味が主に若者に人気だ。しかし、人工甘味料などを気にする人はコーラを遠ざけていた。

 

 そこでクラフトコーラの登場だ。開発された当時のようにスパイスからコーラを作り出すことで、人工甘味料を気にする必要のない手作りのコーラが完成した。そして、クラフトコーラ専門の販売を世界で初めて開始したのが「伊良コーラ」代表で「クラフトコーラ発祥人」のコーラ小林さんだ。

 

 東京都下落合の神田川沿いにある閑静な街並みの中に伊良コーラの店舗はある。ロゴマークのカワセミが印象的だ。この「伊良コーラ下落合総本店」ではその場でクラフトコーラが飲めることに加え、瓶詰めされたコーラシロップを販売している。工房を兼ねており、クラフトコーラ製造の様子を見ることもできる。

 

 伊良コーラが作るクラフトコーラの一番の魅力は香りだ。自社の工房で特殊な火入れをするため香りが引き立つ。およそ1週間かけてコーラシロップを作ることになるが、その手間こそがおいしさを生み出すのだ。

 

 小林さん自身が素案を手掛けるデザインも伊良コーラの魅力の一つだ。商品はもちろんのこと、店舗や移動販売車まで統一されたデザインで、洗練されている。

 

 伊良コーラが作るコーラのおいしい飲み方も聞いた。小林さんのお薦めは、「ミル®」と呼ばれる、ミルクにコーラシロップと炭酸を入れた新しいコーラの飲み方だ。

 

 伊良コーラは初め、店舗を持たず、移動販売車でファーマーズマーケットに出店していた。渋谷のキャットストリートをリアカーで売り歩くなどする中で、世界初のクラフトコーラ専門店として多くの人の注目を集め、満を持して店舗を開店した。店舗の場所に下落合を選んだのは、下落合で生まれ育った小林さんがその場所の魅力をよく知っていたからだ。

 

移動販売車「カワセミ号」にて、伊良コーラ代表で「クラフトコーラ発祥人」のコーラ小林さん(写真は伊良コーラ提供)

 

 伊良コーラの在り方には、小林さんが東大大学院で魚群に関する研究をしていた当時、世界各地を巡り歩いた経験が影響しているという。伊良コーラの特徴であるパウチでの販売も、東南アジアでの飲料の販売方法を参考にした。海外の建築物を見て歩いたことは店舗のデザインに役立った。このように、学生時代の経験は現在の伊良コーラに生きている。

 

 今年4月には渋谷に新しい店舗をオープンした。さらに2024年にはコーラの本場、米国ニューヨークにも店を構える予定だ。次々と店舗を増やすのは、一対多数の販売ではなく、一対一のやりとりをしたいからだと小林さんは言う。その一環としてクラウドファンディングも活用した。「多くの人に伊良コーラの『当事者』になってほしいです」と熱く語る。

 

 伊良コーラの商品は店舗の他、オンラインストアやさまざまな小売店でも購入できる。新たに自動販売機での販売も始めた。現在は東京駅などに設置しており、今後はその数を増やしていく予定だという。

 

地方でもクラフトコーラ

 

 流行は地方にも広がっている。島根県を拠点とする「出雲SPICE LAB.」のコーラの一番の魅力は自農園栽培された原材料だ。出雲地方の特産品である出西ショウガを種芋から栽培して用いている。一般的なショウガの4分の1程度の大きさで、繊維が少なく、香りや辛みが強い。このショウガを使ったコーラは、ショウガはさほど強くないが深みのある味だ。今後はコリアンダーなども栽培し、材料に用いることを検討中だという。古民家の台所を活用し、2日から3日かけて製造するクラフトコーラはスパイスのバランスが絶妙だ。

 

出雲地方の特産品である出西ショウガを使ったクラフトコーラは味に深みが出る(写真は出雲SPICE LAB.提供)

 

 元々スパイスの栽培を通して地域の農業課題に取り組んできた出雲SPICE LAB.がコーラの開発を始めたきっかけは、世間で話題になり始めたクラフトコーラを目にしたことだった。出雲SPICE LAB.代表の山田健太郎さんは学生時代に世界を回ってスパイスの魅力に気付き、スパイスドリンクの開発に取り組んでいた。しかし売れ行きは芳しくなかった。そこで独自のスパイス配合で製造されるクラフトコーラを参考にしたという。当時取り組んでいたコメ加工業に限界を感じていたこともあり、島根県のショウガ農家と手を取り合い、クラフトコーラを作り始めた。

 

 おすすめの飲み方についても山田さんに聞いてみた。そのまま飲むだけで十分おいしいクラフトコーラだが、スパイスのバランスでうまみを出す出雲SPICE LAB.のクラフトコーラは、味のはっきりしているラム酒などに混ぜて飲むのがお薦めだそう。まずラム酒だけを飲み、途中でコーラシロップを入れれば味の変化を楽しめる。コーラシロップで肉を煮たり、アップルパイを作ったりすることもできるという。

 

 出雲SPICE LAB.の商品は、企業ECサイトの他、日本百貨店や東京にある島根県のアンテナショップ「日比谷しまね館」などでも販売している。

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