キャンパスライフ

2021年6月1日

コロナ禍での海外大学院、そこで見えたものとは? 五十嵐祐花さん(東大理学部→MIT Ph.D.課程)

 こんにちは、五十嵐祐花と申します。私は2020年度に東京大学理学部情報科学科を卒業し、マサチューセッツ工科大学(MIT)コンピュータサイエンス学科の博士課程(Ph.D.)に入学しました。入学から現在に至るまで、安全で高性能なAIの学習環境を様々なハードウェアに提供するプログラミング言語を研究・開発しています。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、秋学期・春学期を全てオンラインで過ごし、Ph.D.生活の1年目を終えようとしているところです。今回は機会を頂き、コロナ禍での留学先での生活やその中で考えたことについて寄稿させていただいています。

 

 

MIT Ph.D.課程を選択したわけ

 

 アメリカ大学院留学を決意し、MITに来た一番大きな動機は、コンピューターサイエンスの分野で世界一の場所に来て、どんな世界が見えるのか、自分がどう成長するのか、知りたかったからです。世界トップの大学でストレスで死にそうになりながら博士号を取る過程で、自分が人間として、また研究者としてどのように思ってもいなかった方向に成長するのか、世界一の研究者達の仲間として認められた先にはどんな世界が広がっているのか、強い興味と期待がありました。

 

期待の渡米、コロナ禍でオンライン中心に…

 

 渡米前は、尊敬できる賢い友達をたくさん作り、色々なイベントや授業に参加することで分野外の知識と興味を広げ、優秀なラボ同期達と切磋琢磨しながら研究プロジェクトを進めるぞと意気込んでいました。しかしながら、入学から今に至るまで授業も研究も全てオンラインで、当然対面のイベントなど開催されるわけもなく、期待していたのとは大幅に異なる生活を送っています。

 

コンピュータサイエンス学科が入っているStataというビルですが、数えるほどしか入っていません。

 

 基本的にずっと家にいてパソコンの前に座っており、毎日平均4時間弱あるオンライン研究ミーティングの嵐に疲弊した生活を送っています。「なぜ自分はわざわざアメリカまで来てこんなに面白くない生活をしているんだろう」、「Ph.D.に入学したのは本当に正解だったのか」と自分に問うことも正直少なくないです。大学にも行けずイベントも無いので友達も作れず、少数の日本人の集まりにたまに顔を出す程度の交流しか出来ていません。もしMITがこの先もずっとオンライン中心だとしたら、留学に憧れる事も、留学を決意して努力することもなかったでしょう。

 

 そんな中でも、明るいニュースも沢山あります。アメリカはワクチンの摂取開始が早く、4月19日には16歳以上すべての人間が対象となり、私もファイザー社のワクチンを打ち終えることが出来ました。マサチューセッツ州では5月29日を境に「全ての制限を解除し、通常に戻る」という宣言も出されました。大統領選挙や暴動でこの国は大丈夫かと不安になることも多いですが、ワクチンは無料でシステムも洗練されており、こういうところはさすがアメリカだなと思いました。また、MITも秋学期からは対面授業を再開すると発表しています。

 

ワクチン会場はとても効率的に組織されていました。ブースが沢山あり、看護師の方がワクチンを打ってくださるのですが、少し「コミックマーケットみたいだな」と思いました。

 

大学院=モラトリアム期間?

 

 大学がオンライン中心になったこと以外で、想像していたことと一番違ったことは、多くの新入生は大学院卒業後のキャリアパスが明確になく、大学院はやりたいことを見つける場所だと思っている人が多いことです。私が学部生の時はPh.D.はやりたいことが明確に決まっている人が行くものだと思っていたし、日本人で留学している人も教授になりたい、研究者になりたいなど明確な目標がある人が多い気がします。しかし、周りの同期はアカデミアに残りたいのか、企業に研究者として就職したいのか、起業をしたいのか、分野を変えたいのか等々、卒業後のキャリアについては全くの白紙の状態で入学しているようです。また、教授も学生は何がやりたいか分からないことを前提で指導しているので、研究の方向性を含め探索させてくれる度量を感じます。入学の願書に、どんな研究をしたいかを記入するStatement of Purposeと呼ばれるエッセイがありますが、そこに書いた研究からは外れるのが当然であり、教授側もそれを期待しています。

 

 別に研究者になりたくなくても、自分が何に興味があるかを探るモラトリアム期間のつもりで大学院に進学しても良いのだと感じました。日本では大学院に行くのは、専門性を深堀りして、将来の選択肢がむしろ小さくなるイメージがあると思います。一方、アメリカでは、専門性を深めつつ、将来の選択肢も広げ、自分の好きなことを見つける期間であると感じています。

 

2019年MIT Ph.D.課程修了生の進路 (2020 MIT  FACTS)を基に東京大学新聞社が作成

 

 また、MITの特徴として、東大よりも横・縦のつながりが強いと感じます。東大は研究室で世界が完結しており、横のつながりはほぼありませんが、MITでは学科単位のイベントが盛んに行われ、オフィスも他の研究室の人と一緒であるなど横の繋がりを強くする環境が整っていると思います。

 

 2月に学内の小規模なワークショップを主催する機会がありました。学生による短いショートのあとに招待講演をして頂くという流れでしたが、指導教員を通して分野で非常に有名な教授たちをお呼びすることが出来ました。アメリカは研究者の層が非常に厚く、みな知り合いの小さな輪の中にいるという印象を受けました。その輪の中に入れただけでも論文になる前の進行中の研究の話を聞くことができ、日本にいるより最先端の研究を早く知る事が出来るのかなと思います。

 

 大学生、特に去年や今年に入学した大学生は私と同じように、自分でコントロールできないことの多さに無力感を抱いている人が多いと思います。今はオンライン授業が中心ででつまらない日々が続きますが、耐えれば次の学期にはもっと楽しくなっていると信じています。同じような状況にいる方も多いかもしれませんが、一緒に頑張りましょう。

 

海外大学院留学説明会を開催します!

 

 

 私が副代表として関わらせて頂いている米国大学院学生会主催の東京大学留学説明会が7月11日(日)13〜15時にオンラインで開催されます。東京大学から世界中の大学院に留学した先輩から大学院留学のメリット・デメリットを直接聞けるチャンスですので、ぜひ学生会のウェブサイトで最新情報をチェックしてみてください。

 また、私は「旅する情報系大学院生というブログをやっており、留学生活や出願の経験について記事を書いています。コロナ禍での留学や、私の出願プロセスについて詳しく知りたい方は是非ご覧ください。

 

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