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2019年10月18日

共通ID申込開始目前も課題山積 新共通テスト開始で大学入試はどうなる?

 センター試験に代わり、2020年度から始まる大学入学共通テスト(新共通テスト)。英語の民間試験を利用する受験生に向けた共通IDの発行申込が、11月1日から開始される。しかし、これまで指摘されてきた構造的欠陥などが解消する目途は立っておらず、学校現場などでは混乱が続いている。

 そんな新共通テストの課題について議論するシンポジウム「新共通テストの2020年度からの実施をとめよう!10・13緊急シンポジウム」が10月13日、本郷キャンパスで開かれた。台風19号が関東地方を直撃した翌日にもかかわらず、会場は約300人が集まる盛況。活発な意見が交わされた。

(取材・一柳里樹 撮影・中野快紀)

 

 冒頭、呼び掛け人の1人である大内裕和教授(中京大学)は開会挨拶の中で、新共通テストを巡り最近話題になった文部科学大臣らの発言を取り上げた。柴山昌彦前文科相のTwitter投稿「サイレントマジョリティは賛成です。」 に対しては「調査結果を見れば、高校生、受験生、保護者、高校教員など、サイレントマジョリティは反対です、と断言できる」、荻生田光一文科相の「初年度はいわば精度向上期間です」との発言には「現時点では精度が低いと認めたに等しい。精度の低い試験を入試選抜に使うのは政策担当者の責任放棄。受験生を実験台にしてはならない」と切り捨てた。さらに、予定通りの民間試験実施を求めた日本私立中学高等学校連合会の要望書には「ここでやめたら混乱すると主張しているが、もう既に十分混乱している。このまま強行すれば、大混乱、大破綻が起こる」と強調。会場の喝采を浴びていた。

 

 中村高康教授(教育学研究科)の基調報告では、民間試験、国語・数学で導入予定の記述式問題、会話形式の新たな出題傾向のそれぞれについて問題点を整理。実際の試行調査の問題文を示した上で「実用主義と言うが、問題文の設定は架空かつ非実用的だ。不自然な状況設定が本当に必要なのか」と疑問を呈する。民間試験については、多くの問題点の中から初年度の受験日程の混乱を強調し「高2までに受けた民間試験の結果が使えないことなど試験制度の情報が受験生や保護者に伝わっていない上、半年後にやるはずの試験の日時、場所さえ決まっていない。制度的欠陥を抱えたままタイムリミットが来てしまっている」と指摘。高校教員や高校生の多くが新共通テストへの不安や問題を感じている数々のデータを示した上で「緊急避難的措置として、今すぐ立ち止まるべきだ」と主張した。

 

基調報告を行う中村教授

 

 続いて、残りのシンポジスト4人がそれぞれの立場から新共通テストの課題を挙げていく。日本近現代文学が専門の紅野謙介教授(日本大学)は、試行調査の国語の問題を「記述式問題の長所を殺し、短所を伸ばす形になっている」と指摘。会話形式、複数資料の利用など問題作成方針の「二重三重の拘束」の結果、試行調査の問題は「現行のセンター試験よりはるかに質が低い」問題になっていると分析した。英文学者の阿部公彦教授(人文社会系研究科)は「新聞記事を書くにはトレーニングが必要なように、日本語でも『読み』と同じレベルで『書き』をできる人はほとんどいない。それなのに英語では4技能均等の能力を付けようとするのは無理がある。大事なのは4技能の分断より統合・連携であり、単語・文法などの中核部分だ」と、英語の教育改革・入試改革で「4技能」が叫ばれる現状を問題視。予備校で数学を教える大澤裕一さんは「少ない基本原理からいろいろなことを発展させるところに面白さがあるのが数学。応用面に特化し、どうしても誘導に乗らなければいけない新共通テストの問題は、本来の数学の在り方から離れているのではないか」と批判した。愛知県の公立高校で英語教員を務める松本万里子さんは、新共通テストを巡り学校現場が混乱している状況を発信。「英検2020 1 day S-CBT」の20年4〜7月受験分の予約申込締切が11月11日に迫っていることを受け、「受験する大学・学部によって利用できる民間試験も違う中、どの大学、どの学部を受験するか決まっていない高2の秋に、どの民間試験を受けるか決めさせるのは酷だ。こんなにひどいことはない」と戸惑いを見せる。

 

 来場していた高校生や保護者らも、次々と現場の声を届けていく。高校生の保護者は、高3の夏まで留学している生徒や高卒認定試験の受験者など「サイレントマイノリティーの声が代弁されていない」と指摘。新共通テスト1期生となる高2の生徒からは「目的もやり方も違う複数の民間試験を一つにまとめるのはいかがなものか。どの民間試験を受けるか今決めろと学校から言われており、困惑している生徒がいることを知ってほしい」と悲鳴が上がった。別の高2の生徒も「状況を把握できている生徒は周りに誰もいない。決まっていないことが多くて現場にしわ寄せが来ているし、センター試験の2倍以上の受験料に対策本や過去問を加えると金銭面の負担も厳しい」と訴える。

 

 第2部の全体討議は、司会の大内教授が残り4人のシンポジストに質問を投げ掛けていく形で進行。大内教授が「一連の入試改革からは、『読む』ことへの攻撃、大学の知性に対する権力側の憎悪が感じられてならない」と喝破すると、阿部教授は「『実用』という言葉が安易に使われすぎている。実用的な英語力は、学校で基礎を学んだ上で、実際に英語を使って初めて身に付くもの。学校を出ただけで英語が完成するなど夢物語にすぎない」と指摘する。松本さんも「『4技能』と言うが、そもそも学校は技能を教える場なのか」とした上で、試行調査や民間試験で見られる、航空券の購入や外国人の道案内などの問題設定を「皆がスマートフォンを持っている今、大半の高校生は試験問題のような状況に置かれないだろう。どこが実用的なのか」と批判した。

 

 大内教授は、高額で受験地が限られる民間試験の受験に伴う経済格差、地域格差にも言及。「住んでいる地域によって有利不利が出てしまう。政策当局は、日本全国で公平な入試を行わなくてもいいと思っているのではないか」と疑問を呈する。大澤さんも、小中学校受験が過熱する現状を受け「民間試験の導入が、進行中の階層化を助長するのでは」と応じた。紅野教授は、2006年の教育基本法改正以降、「先天的な性質・才能」を意味する「資質」の「育成」が掲げられている点に「試験が人の全てを判断するという試験万能主義的な発想につながる」と問題視。大澤さんと同様、階級・経済的な問題への波及も懸念した。

 

 

 今回のシンポジウムを主催した予備校講師の吉田弘幸さん、大内教授らは「入試改革を考える会」を結成し、今後も新共通テストの実施阻止などを目指して活動していくという。11月1日の共通ID発行申込開始までに、新共通テスト実施の延期に向けた「実効性のある新たな行動を取る」ことを宣言し、シンポジウムは幕を閉じた。

 

 今回のシンポジウムの模様は、YouTubeで動画配信された。現在も入試改革を考える会のYouTube チャンネルから閲覧できる。

 

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