COLUMN 2019年11月8日

個人、企業、社会全体が取り組みを 女性の健康問題への向き合い方

 昨今、女性の多くが毎月経験する月経について理解されやすい社会になりつつある。月経前の3〜10日間ほど、心身に不調が現れる月経前症候群(PMS)をはじめとした女性の健康問題に対して社会はどうあるべきなのだろうか。周産期医学の専門家と経済産業省の担当者に、女性の健康問題への向き合い方と、健康問題への取り組みについて話を聞いた。

(取材・鏡有沙)

 

PMSの主な症状。症状が重い場合はPMS以外の病気の可能性がある。我慢せず早めに医療機関を受診することが望ましい(甲賀准教授への取材を基に東京大学新聞社が作成)

 

気軽に産婦人科に相談を

 

甲賀 かをり(こうが かをり)准教授(医学系研究科)

 

 「PMSを診断するための客観的な指標はありません。症状が生活にどれだけ影響するか患者さんの主観的な症状により治療方針を決めることが多いです」と話すのは甲賀かをり准教授(医学系研究科)。甲賀准教授は同研究科の産婦人科学講座で周産期医学を研究している。症状が生活に支障がない場合は自分で体調を管理すれば十分だが、仕事や家庭に影響がある場合は医師に相談するのが良い。

 

 東大病院を紹介される患者の多くは症状を自覚しても受診を先延ばしにし病気が悪化したというケースがほとんど。後悔する前の早期受診が重要だ。産婦人科の受診をためらう主な理由として、毎月月経前後に症状があっても受診しようとした時には症状が改善してしまうことが挙げられる。「例えばPMSの症状にお困りの患者さんに処方するのは、経口避妊薬や漢方など本来健康体の人が服用してもほとんど問題のないものです。症状が重くなる前に気軽に受診してほしいですね」

 

 PMSは月経周期に伴い女性ホルモンの分泌量が大幅に変化することが原因だと考えられている。経口避妊薬はホルモン分泌を抑えるので月経周期に伴うさまざまな症状に効果がある。ただし、症状の有無に関わらず定期的な服用が必要となる点に注意が必要。一方、原因であるホルモンには働かないが、頭痛や精神の乱れなどといった症状を緩和する効果がある漢方の場合、症状が出た時に服用すれば良い。

 

定期的な検診を受けることが勧められている。初経や思春期を過ぎ、閉経しても不正出血などの症状が出る可能性があるので、かかりつけの病院があることは重要である(甲賀准教授への取材を基に東京大学新聞社が作成)

 

 甲賀准教授は検診などをきっかけに産婦人科にかかることの重要性を強調する。健康な人でも検診を受けておけば、将来何か病気になっても、検診した時の記録が正確な診断につながる。子宮頸がん検診など自治体が無料券を配布していることもある。初経のタイミングで検診を受け、かかりつけの病院をつくっておくことが理想。「初経のタイミングを逃しても性交渉の経験がある人には検診は必須」と話す。

 

 受診以外にはセルフモニタリングを推奨している。セルフモニタリングとは自分の体調を記録・観察することで、月経周期を把握することから始めると良い。肌荒れや精神の乱れなどの症状が月経に伴うものだと気付くきっかけになるかもしれない。

 

 他にできることとして、月経前には大きなイベントや重要な決定をするのを避けるといった体調に合わせたスケジュール管理などがある。月経周期を意識して体調管理を行うことで、生活の質を上げていくことができるだろう。

 

企業主導の環境作りが急務

 

紺野 春菜(こんの はるな)さん(経済産業省)

 

 経済産業省では企業の健康経営(従業員の健康保持・増進の取り組みを経営戦略として捉えること)における女性の健康への取り組みを推進している。月経や不妊など健康に関することから将来のキャリアプランまで、女性特有の悩みに寄り添う企業がここ1、2年で増えている。担当者の紺野春菜さんは「働く女性を対象とした取り組みについて何かやらなきゃという意識を持っていても、何からやればいいのか分からない企業さんが多いです」と話している。

 

 

 企業が行う取り組みは多岐にわたる。入社5年目の女性とその上司が女性の健康の課題と結婚などのライフステージを学びながらキャリアプランを考えるセミナーや、女性社員が気軽に産業医に相談できる窓口の設置などを行っている企業もある。女性の健康について知る機会が限られる男性から「会社の取り組みが役に立った」という意見があるだけでなく、女性からも「今まで知らなかったこともあり勉強になった」と前向きな声が上がっているとのこと。中には、痩せ型の女性を対象とした珍しい取り組みを行う企業も。痩せ型の女性は年を取ると骨粗しょう症になりやすく、また胎児は栄養不足のために低体重出生児となりやすい。将来のリスクに対して自覚がない痩せ型の女性が多い点に目を付け、献立を提案し食生活の改善を促している。この取り組みには紺野さん含め、経産省の担当者らも驚いたという。

 

 経産省による女性の健康に関する推進事業が始動したのは2017年。それまでの健康経営ではメタボリックシンドロームなど男性の健康に偏った取り組みが中心で、それに対する問題意識がきっかけとなった。まだ手探り状態のこの事業はいくつかの課題も抱えている。例えば、現在の企業の取り組みはリテラシー向上を目的としたものが多く、実践的な取り組みを始めている企業はまだ少ないということが挙げられる。

 

 経産省が健康経営を推進する理由は二つある。一つ目は人生100年時代といわれる中で、働く時代にいかに健康な生活を送り、将来の健康寿命を延ばせるかが重要であるため。二つ目は健康でいることは社員の生活の質を上げ、仕事の効率が良くなり、企業の利益となるためだ。経産省では、健康経営は社員にも会社にも社会にも必要で利益となると考えている。

 

 健康に働ける環境は就活生に人気で、この点でも企業の利益となり得る。女性社員が多い企業を筆頭に今後ますます女性の健康への取り組みに関心が高まることが予想される。経産省は企業の取り組みやその重要性を発信し、社会に貢献し続けたいと考えている。


この記事は2019年10月29日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナルの記事を公開しています。

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