学術ニュース

2020年4月7日

東大発の2論文が米誌『米国科学アカデミー紀要(PNAS)』に掲載

コレステロール合成の新制御機構発見

 

 吉岡広大さん(薬学系・博士3年=当時)らは、コレステロールの合成に必要なタンパク質の分解速度を制御する機構を発見した。機構は体内のコレステロール量を一定に保つことに寄与し、動脈硬化やがんの治療薬開発に応用が期待される。成果は9日付の米科学誌『米国科学アカデミー紀要(PNAS)』に掲載された。

 

 生体膜の主要構成成分であり、ホルモンなどの生成に不可欠なコレステロールは、細胞内での生成に、約30段階もの反応を重ねる必要がある。生成のコストが高いため、生物は何重もの制御機構で体内のコレステロール合成量を調節する。コレステロールの合成に必要なタンパク質の生成速度を調節する制御機構の仕組みは分子レベルで判明しているが、分解速度の制御機構の研究は遅れていた。

 

 コレステロールの合成過程では、化合物スクアレンが酵素スクアレンモノオキシゲナーゼ(SM)の作用を受ける。2011年、SMの分解速度がコレステロールの量に応じて変動することが判明。しかし、その仕組みは未解明だった。

 

 吉岡さんらは、SMの分解速度に影響する低分子化合物を探索・解析。スクアレンの量をSMが感知し、過大な場合SM自身を分解されにくくしてコレステロールの生成を速める、新たな制御機構を発見した。

 

 この機構ではSMが、酵素としてコレステロール生成に関わる際とは異なる領域でスクアレンに結合。分解すべきタンパク質に目印を付ける酵素とSMの相互作用が減少し、SMの分解速度が低下する。近年、SMとがんの関連が指摘されており、この性質をがんの治療薬に応用できる可能性もある。

 

新たな量子技術の開拓に道

 

 石田浩祐さん(新領域・博士2年=当時)らは、超伝導現象を示す鉄を含む化合物で新たな量子液晶状態が実現できることを発見したと発表した。成果は9日付の『PNAS』に掲載された。量子力学的な効果で電子の集団が特定方向にそろい、液晶と類似した性質を示す量子液晶状態のうち、電子の応答方向を容易に制御できる状態を実現。新しい量子技術開拓につながると期待される。

 

 一般的な液晶状態は、棒状や円盤状など形自体に向きを持った分子で起こり、分子が平面内のどの向きにもそろい得る。一方、電子系の量子液晶状態では、物質中の結晶構造から影響を受けるため、電子がそろう方向には制限があると考えられていた。

 

 石田さんらは、BaFe2As2という物質のBaをRbに一部置換すると量子液晶状態の向きが変わることに注目。それらを混成した結晶であるBa1-xRbxFe2As2を合成して、向きの変化を調べた。BaFe2As2の結晶構造の場合、量子液晶状態で起こり得る向きは、隣接するFe原子を結ぶFe-Fe方向か、それと45°異なるFe原子とAs原子を結ぶFe-As方向の二つがある。本研究で用いたBaとRbをある比率で混ぜた試料は、電子がどちらの向きにもそろいやすく、面内のどの方向にも向きがそろおうとする一般的な液晶と非常に似た量子液晶状態だと分かった。

 

 本研究の結果は、従来よりさらに一般的な液晶に似た量子液晶状態が実現できることを示している。新たな量子液晶状態を用いて物質中の量子波または量子流の制御が可能になれば、量子情報の伝達方向制御など新しい量子技術開拓につながる可能性がある。


この記事は2020年3月24日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナルの記事を掲載しています。

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