COLUMN 2020年7月14日

自らの研究を発信、相対化 大学院での語学活用

 5月26日号(進学選択特集号)、6月2日号では、学部での第二・第三外国語の学習について教員や学生の声を聞いた。語学は大学院でも積極的に活用される。そこで、大学院での研究において外国語が活用される場面や学習方法、院試の語学試験やその対策などについて、3人の大学院生に取材した。

(取材・長廣美乃)

 

 

・英語

 

発表や留学生との交流を通じて

 

武藤 裕花さん(東大工学系・博士2年)

 

 工学系研究科社会基盤学専攻河川/流域環境研究室に所属する武藤裕花さん。本来は都市設計に関心があったが、都市の問題を扱う上で国土全体について考える必要性を感じ、地方、特に河川の上流域の生活や生業に関心を持った。現在は日本において人間の活動がその地域の環境にどう影響しているのかを研究する。

 

 山や河川の視察や現地の人への取材といったフィールドワーク、社会統計データや地形データの解析には日本語を用いる。しかし、研究では英語を使用する機会が少なくないという。ゼミの発表は英語で行われ、英語論文を読む機会も多い。博士1年の11月には米バークレー大学に留学し、関連分野のゼミや講義に参加した。サンフランシスコで開催され、約2万人が参加する大規模な国際学会にも参加。各会場でさまざまな発表が行われており、興味のある会場に足を運ぶ形式で、自らもポスターサイズの発表資料を用意しそれに基づいて少人数の前でプレゼンテーションを行った。発表後には研究者たちと英語で質疑応答や議論を交わした。

 

 英語の学習は学部時代から継続していた。学部3年次にはエンジニア向けの英会話の授業を履修。4年次に研究室に所属してからは、意識的に学習していたというよりは、ゼミでの発表や研究室にいる留学生との交流の中で自然と英語が身に付いた。卒論執筆の際にも英語論文を参照した。

 

 院試では英語の試験が課された。他の筆記試験と同日に独自に開催されるマーク式のTOEFL試験を受験するか、事前に自分でTOEFLを受験し結果を提出するかの選択制で、武藤さんは前者を選択。「スピーキング試験がなかったので、比較的楽でした」。対策としてTOEFLの過去問を6年分解いた。

 

 博士課程に進み英語論文を読む機会は増えたと語る。「参考になる研究手法が見つかることもあります」。サンフランシスコの学会で交流した海外の研究者から論文を薦めてもらい、後に自分の論文に生きたという経験も。英語を通じて海外の研究と自身の研究を比較することは「自分の研究の独自性や意義を明確にすることができるので、国内の研究にとっても有意義だと思います」。

 

・第二外国語

 

日本に専門家の少ない研究で

 

伊澤 拓人さん(東大総合文化・修士2年)

 

 総合文化研究科超域文化科学専攻表象文化論コースに所属する伊澤拓人さんは、フランス革命時代の建築家ジャン・ジャック=ルクーの作品や思想が専門。建築家にもかかわらず自作の建築物がなかったり、実現不可能な図面を残したりという「普通じゃなさ」に引かれ学部時代から研究する。日本にはルクーの専門家がほとんどいないため、卒論執筆の段階からフランス語か英語で書かれた関連論文を参照した。

 

 もともとフランスの絵画やクラシック音楽が好きで、第二外国語はフランス語を選択していた。学部3年次に、4年次に予定していた留学に向けてフランス大使館などが運営する語学学校アンスティチュ・フランセに通学。「文献を読んでいるだけだと簡単な日常単語にも抜けがあったため、そこを補いました」

 

 フランス留学では美術史や哲学を学んだ。フランスの大学では学生の発言が盛んで、大教室の後方から質問が飛び議論に置いていかれることも。現地の学生と同じ宿題にも苦戦したが「語学学習としての成果は非常に大きかったです」。留学中にフランス語試験DALFで、フランスの大学院に入学できるレベルである6段階中5段階目の資格を取得した。またフランス留学中に受けた美術史の講義は実証的な内容が大半で、自身の目指す研究態度との相違を感じたことから「自分の研究の路線や立ち位置が分かりました」。

 

 院試では英語と第二外国語の試験が課された。英語は東大の入試問題に似た形式で、第二外国語のフランス語の試験は学術書からの5、6行の引用文を和訳するものだった。1月の卒論提出から約10日後に試験があったため対策の時間があまり取れなかったが、生協書籍部で過去問を購入し形式を確認した。

 

 現在は論文を読むためドイツ語を学習する。東京外国語大学が運営する言語学習サイト「言語モジュール」を活用しているという。「小説や論文は文法を習得するだけでは読めるようにならない」と伊澤さん。言外の意味や語源などのバックグラウンドの知識が重要だ。教養学部後期課程のフランス語文献を精読する授業が良い学びになった。「一つ一つの言葉に立ち止まるため3、4行しか進まない日もありましたが、濃密な読解ができる貴重な経験でした」

 

・古典語

 

古代の1次資料を読む

 

塩野谷 恭輔(しおのや きょうすけ)さん(東大人文社会系・博士2年)

 

 人文社会系研究科基礎文化研究専攻宗教学宗教史学研究室に所属する塩野谷恭輔さんは『旧約聖書』の研究を専門とする。救世主の到来を待望する「メシアニズム」というイスラエルにはもともと存在しなかった概念が、唯一神教の重要な要素として確立していった要因をイスラエル王国時代について記した章であるサムエル記・列王記などを読み解きつつ研究する。

 

 『旧約聖書』やその釈義などの1次資料を読むには古典ヘブライ語の習得が必須だ。現在イスラエルを中心に使用されるヘブライ語とは語順などが少し異なる。「母音を表す文字がないため、文法などを理解していないと発音が分からない点が難しい言語です」

 

 学部2年次に第三外国語の古典ヘブライ語の授業を1年間履修。当時はヘブライ語を研究に生かすことは念頭に入れておらず「なんとなく始めました」。ヘブライ語の学習に際しては、英語を学習した時のように体系的に学習したというよりは、文章に出てきた文法や活用などをその都度調べる形で学習していた。学外で開かれるヘブライ語文献の勉強会にも参加した。

 

 研究の中で用いる外国語は古典ヘブライ語だけではなく、英語やドイツ語などで書かれた注解書を読む機会も多い。また、ユダヤ研究者をアメリカに派遣する外務省によるプロジェクトに参加した際には、イスラエルなどの海外のユダヤ研究者たちと英語で議論することもあった。

 

 院試の語学試験は英語と第二外国語があり、第二外国語の試験では前期教養課程で学習した中国語を受験した。英語は簡単な和訳の問題で、対策として試験の約半年前から受験生の頃に使っていたような単語帳や文法書の復習を始めた。中国語は前期教養課程での授業以来あまり使用しておらず、4年次の秋から単語帳などで語彙力の強化を図った。本番の中国語の問題は「皆解けないだろうと思うくらいには難しかったです」。

 

 今後は「半年から1年程度でいいので、現地イスラエルに留学したい」と話す。また聖書研究のアプローチの一つとして文学理論を学ぶ中で、関連文献を読むに当たりフランス語学習の必要性も感じているという。聖書関連の文献に多く用いられるギリシャ語やラテン語も勉強したことがあるが「続かなかったので、学習し直せればと思っています」。


この記事は2020年6月23日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナルの記事を掲載しています。

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キャンパスのひと:森井拓哉さん(農学生命科学・博士2年)

 

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