INTERVIEW / FEATURE 2014年3月13日

「富士山先生」世界遺産登録で大活躍 筑波大学附属高校、田代博先生インタビュー

東大生が自分の出身校の先生を訪ねる「母校の名物先生」シリーズ。
第1回は、筑波大学附属高校で地理を教えていらっしゃる田代博先生です。
田代先生は、「富士山」のエキスパートとして、テレビや新聞などさまざまなメディアに出演されています。
日本人にとって特別な存在である富士山。その富士山に誰よりも強い愛情とこだわりを持つ田代先生にお話をうかがいました。

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―― 「富士山先生」としてさまざまなメディアに出演されていますが、富士山に関してどんな活動をされているのですか?

田代 私の一番のライフワークは、日本中のどこで富士山が見えるのかを調べ、富士山の見える場所を地図にする、ということです。日本人は富士山が大好きなのですが、どこから見えるのかをきちんと調べた例がなかったんですね。私は地理の教員で、特に地図が好きだったから、1986年というまだパソコンが普及していなかった頃に、電卓を使って、手作業で半年かけて「富士山可視マップ」というのを作ったんです。

今は「カシミール3D」というソフトを使って実際にシミュレーション画像を描きます。そうすると、その場所から本当に見えるかが分かります。あと、「鑑定」を依頼されることもあります。これはある場所から撮った富士山ですが、本当に富士山でしょうか、という依頼ですね。そこでこのカシミールを使って確認して、富士山が見える場所だと判断すれば、富士山が見える場所として認められるんです。

―― 富士山が見えるかどうかの鑑定なんてあるんですね!

田代 そうなんですよ。いろんな依頼がありますよ。岐阜県ではほとんど富士山が見えないんですけど、南アルプスにすごくよく似た山があるんです。それで富士山が見えた!っていう確認の依頼が何回か来ました。それには、「本当に申し訳ございません、そこでは見えません」と答えると、みなさんとってもがっかりされるんですよね。

あと、北斎の富嶽三十六景の中で、名古屋の「桶屋富士」というのがあって、それは桶の中に富士が見えるという構図なんですね。でもそれは違うんですよ。名古屋から富士山は全く見えない。それなのに、「そんなことはない、名古屋でも見えるんです」と主張する方が出てきた。その方は天文学をされている方で、天文学の式を使って光の屈折率を計算すると、名古屋でも見えるというんですね。でも、実際には、地上で山が見えるかどうかを計算するときはその式は使わないので、やっぱり間違いだったんです。

関心のない人にはどうでもいいことなんでしょうけど、富士山が見える見えないで、いい大人がむきになるんですよ。でもそれもやっぱり富士山だからこそでしょうね。

―― 確かにそうですね。それにしても、日本人ってどうしてそんなに富士山が好きなんでしょうか? 外国人の方には分からない感覚だったりもすると思うんですが……。

田代 これはなかなか難しいですね。歴史的なことから言うと、かつての軍国主義の象徴のように思う人もいるわけですが、私はそれは違うと思うんです。何より、素朴に分かりやすい形をしていることと、東京から見えるというのが大きいです。

もし北海道の山が日本で一番高かったとしても、今の富士山ほどには話題にはならないかもしれません。富士山が見える地域に住んでいる人口というのは、4000万人、日本の人口の三分の一です。さらに、季節によって見え方が違うし、夕日が富士山の山頂に沈む「ダイヤモンド富士」なんていうのもあるわけです。そういう楽しみ方もあると、あぁやっぱり富士山はいいな、と思わざるを得ないわけです。首都圏から見えるということが、国民の象徴のように思われる原因として大きいんじゃないかなと思います。

―― 先生の撮影した富士山の写真を見せてください!

田代 これは若洲海浜公園から撮影したものです。東京ゲートブリッジの下にダイヤモンド富士山が見えます。

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海ほたるから撮影したのがこれ。海ほたるからも綺麗に見えるんですよ。これはアップにしていますが、引いた写真だと、船に加えて、空には飛行機が飛んでいます。

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―― 富士山に加えて、周りのものとの取り合わせが、いいですね。

田代 それ! 富士山はまさにそれなんですよ! 「コラボの魅力」と言っているのですが、富士山は単体としても美しいけれど、周りに何を入れるかによってまた面白味が増してきます。街から見た富士山、農村から見た富士山とか。どこから見るか、というのもポイントです。トンネル、飛行機、鳥居とかね。

―― 富士山は見るのが専門で、登りはしないのですか?

田代 富士山は私にとって、基本的に「眺めて美しい山」だから。登るのも、達成感という意味ではいいと思うんです。でも高山植物もないので、あんまり楽しくないですね。とはいえ、一応3回登っています。

富士山を見ると、みんな「あっ、富士山だ!」って言って元気になるでしょう? だから富士山は「見力」の山だと思います。「見る力」で見力。「魅力」とかけているんですけど、見る者に力を与えてくれる山ですね。

―― 「見力の山」、ですか。やっぱり日本人にとって不思議な力を持っている気がしますね。

田代 そうですね、私は、生徒の最後の授業に、富士山のようになって下さい、と伝えるんです。どういうことかと言うと、富士山は基本的に0mから立ちがっていますよね、他の山の上に乗っかっているのではなくて。言うなれば、自主独立の山です。

そしてあの3776mの高さは、自らの努力の積み重ねによってできていて、それも膨大な裾野があってこそなんです。だからこれは勉強とも似ています。地理なんていらないなんて言っちゃだめなんですよ、「塵(地理)も積もれば山となる」ですから。こんなふうに、ギャグも交えて生徒に伝えます。

さらに富士山は、夏にはサンダルでも行けるような大衆的で身近な存在です。でも一方で冬は、登山の専門家でも行くのが難しい厳しい山になります。ですから、人には、誰にも負けない専門性が大切ですし、そして日本一であっても決して偉そうにしないで、学んだ知識を多くの人々に分け与えるような人になってくださいね、というメッセージを込めます。こんな話も、日頃から「富士山の人」と思われている私が言うから、まあそうかなって納得してもらえるような気がするんですよね。

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「富士山先生」こと田代博先生は、たくさんの富士山柄のネクタイを愛用している。

(取材・文 兼子春菜)

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