キャンパスライフ

2017年12月14日

【世界というキャンパスで】額田裕己さん④ 住民の結束力に感化

 2週間近くの滞在の末クイーンズタウンでの生活に飽きた僕は、かねてよりの目標であるニュージーランド北上を始めた。紙面の都合上全てを伝えられないのが残念であるほどに、その旅は刺激的であったし波乱に満ちていた。ある街では出会ったインド人がこれでもかとご飯をおごってくれたし、別の街では自炊した料理にあたって寝込むことになった。10キロ先のスーパーマーケットまで歩いて往復したこともある。面白い話は山ほどあるが、ここは僕のFLYプログラムのテーマであるスポーツとの関わりに紙面を割こう。

 

 ニュージーランドは南島のほぼ中心、東海岸にクライストチャーチという大きな街がある。2011年に同市を襲った大地震でその名を記憶している人もいるのではないだろうか。そんなニュージーランド第2の規模を持つ都市に、パークランというイベントがある。代々木公園並みの巨大な公園の中で、毎週末に地域住民が皆で5キロ走る、という至ってシンプルなもので、参加費は無料、運営は同じ地域の市民ボランティアで成り立っている。実際はこれはクライストチャーチに限らずヨーロッパ中で毎週末行われている活動なのだが、ここではその説明は割愛しよう。そのクライストチャーチのパークランでボランティア活動をした僕は、地域の人々と交流を持つ機会があったのだが、彼らと話しているうちにかつての地震のことに話題が及んだ。5年前この建物が倒れた、電気が止まった、といった話の中で僕が一番関心を持ったのは、災害時の地域協力がいかに大事か、という話である。クライストチャーチに育ち、今パークランを運営しているニュージーランダーのお兄さんはこう話す。

 

 「皮肉なことだけど、大地震が起きたことでいざという時には地域住民の結束が大事だということに皆が気づいたみたいだ。ご近所同士の助け合いで、災害が起きた時の被害を最小限に抑えられるからね。僕には大それたことができるわけじゃないけど、毎週末パークランを開いていたら、地域の人たちが集まって交流を持つきっかけになるだろ? そうして地域の皆の仲がよくなってくれたら嬉(うれ)しいね」

 

パークランスタート前の市民(写真は額田さん提供)
市内中心部に残る、2011年に崩壊した大聖堂。今も記念碑のようにして立っている(写真は額田さん提供)

 

 漠然とスポーツボランティアをテーマにするより、地域におけるスポーツのあり方を深める方が面白いかもしれない。そう思った僕は、方針を転換することにした。実際にスポーツに参加しながら、その地域におけるスポーツのあり方を体感するのである。陸上競技にずっと興味を持っていた僕の場合、ランニングというスポーツに焦点を絞った。ランニングなら敷居が低くて地域の誰もが参加できるから、地域スポーツの探求、というテーマにもぴったりだ。そこで僕はニュージーランド全土のアスレチッククラブをしらみつぶしに探し、片っ端から慣れない英語メールを送った。その結果、北島はタウポという小さな街のアスレチッククラブで2週間一緒に練習させてもらう許可を得た。

 

 とはいえ僕の南島の旅はまだ続く。北島に上陸し、タウポに足を踏み入れるのはもう少し先の話である。

 

(寄稿)=続く

 

 

【世界というキャンパスで】額田裕己さ

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 この記事は、2017年12月12日号からの転載です。本紙では、他にもオリジナルの記事を掲載しています。

 

 

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