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2019年7月24日

出版甲子園の熱気に迫る 一筆入魂で大舞台へ

 夏といえば甲子園だが「出版甲子園」はご存知だろうか。学生が出版企画を競う大会で、昨年の第14回大会では谷政一郎さん(理I・2年)が優勝し『東大パズル王 世界でいちばんアツいパズル』(KADOKAWA)を出版した。書籍離れが叫ばれる世の中、出版甲子園はどんな理念で開かれているのか。今年の第15回大会の実行委員長である学生の石井七海さんと、谷さんに話を聞いた。

(聞き手・加藤さえ)

 

運営側ー37本の「ヒット」の実績

 

第15回出版甲子園実行委員長の石井七海さん

 

 

 出版甲子園では、1年間かけて企画の募集・審査を段階的に行い、決勝大会ではプレゼンテーションを課します。小説や漫画に比べ、著者のキャリアや知名度が重視されてハードルが高くなりがちな実用書・エンターテインメント本・エッセー本を、学生が商業出版できるように応援するのが最終目的です。

 

 出版甲子園を通して、これまでに37冊もの本が出版されました。日本の医大生がカンボジアに学校や病院を建てる様子を描いた『マジでガチなボランティア』(講談社)は映画化もされました。人間の恋愛を虫の交尾生態に例え、分類した『恋する昆虫図鑑』(文藝春秋)は、著者がタレントということもありSNSで話題になりました。 

 

 応募から決勝までの流れ(表)を説明しますと、6月後半が締め切りの一次審査で企画の概要を提出してもらいます。不備がないか確認し、出版甲子園側から改善案も送ります。その後8月ごろが締め切りの二次審査で、購買層が存在しているか、自己アピールができているか、企画書に伴った経験が企画者にあるかをチェックします。二次審査を通った企画にはそれぞれ担当者が付き、企画のブラッシュアップを手伝います。

 

出版甲子園のウェブサイトを基に東京大学新聞社が作成

 

 10月にある三次審査では企画書も見つつ、決勝と同様にプレゼンを行い、決勝大会に進出する企画者を決定します。その後企画者は担当者と共にプレゼンを練習し、決勝大会に臨みます。例年、決勝大会の審査員には出版社の編集者の方や、書店員の方をお呼びして、著名な方をお招きすることもあります。決勝大会では一般の方も観覧することが可能で、これは10月ごろから募集しています。

 

 二次審査を通過した作品は漏れなく出版社の編集者の方に見てもらえる仕組みで、出版に至る機会・可能性があります。決勝大会に進んだ方に関しては、審査員の方に審査の紙とは別にオファーシートをお配りしているので、良い企画はオファーをもらえるようになっています。その後、運営側は出版社と企画者の間に入り、出版をサポートします。出版甲子園は「学生の、学生による、学生のための」団体だからこそ、学生である企画者の気持ちに寄り添ってサポートができると自負しています。

 

 本の出版は、キャリアの少ない学生にはハードルが高いかもしれません。特別な経験が必要なのでは、と懸念する人もいると思います。確かに企画によっては専門的なキャリアが大事になることもありますが、自身の経験を基に出版にこぎ着けることも可能です。 

 

 強みがない凡人の学生に向けた就活方法をまとめた 『凡人内定戦略』(中経出版)といった、本人のキャリアを必要としない企画の例があるように、就職活動やボランティア活動といった学生に身近なテーマでの執筆も有力な選択肢でしょう。もちろんそれ以外のテ ーマでも、自分の熱意を本にしたい、という情熱がある方からの応募をお待ちしています。

 

出場者ーパズルとドラマを融合

 

第14回大会で優勝した谷政一郎さん(理Ⅰ・2年)

 

 出版甲子園に応募したのは、本当に軽い気持ちからでした。パズルは難しいものという印象を持たれがちで、出版甲子園に出場する前から、もっとその楽しさを多くに人に知ってもらいたいという気持ちがありました。そんな折、出版甲子園のビラを見つけて、応募しました。

 

 審査を経ていくうちに、既存のパズル本の弱みについてより深く考えるようになりましたね。中でも大会の三次審査では、キャンプや料理本、和装など、ビジュアル的に映える企画が多かったです。なので、一見ただ難しいだけに見えてしまうパズルの良さを購買層にどう伝えるか、審査員にアピールするのが大変でした。

 

 決勝大会では「パズルはストーリーだ」ということを強調しました。機械的に問題が作られる既存のパズル本では問題と答えが一対一で対応していて、ただ答えを出す作業を楽しむようなものも多いと思います。もちろんそういったパズルにも魅力はありますが、僕は他の魅力でも人々を楽しませたかった。解答者が答えを導く過程の中に、出題者が用意した「しかけ」を楽しめるような、ドラマ性のある楽しみも可能なパズル本が、パズル業界には必要だと訴えました。

 

 実際に本を出すまでに一番大変だったのはデザインでしたね。既存のパズル本の白黒で単調なイメージを変えたいという思いがあったので、本全体を赤と青の2色刷りにした他、一つ一つのパズルのフォントや配置も全部こだわりました。もちろん中身にもこだわっていて、本の最初から解けば答えに意外性を味わえるような順序に調整するなど、いろいろな「しかけ」を詰めました。昔読んで印象深かった詰め将棋の本からヒントを得て、パズルごとに独自の人情味のあるタイトルを付けました。

 

 出版甲子園、本の出版を通して、コンテンツ自体の魅力や、東大生であることは大事だったと思います。 ただ、一番大事なのは情熱ですね。こういう本を出したいという情熱を持ち続けることで、出版甲子園でもきっと良い評価が得られるでしょう。


この記事は2019年7月9日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナルの記事を公開しています。

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