INTERVIEW / OBOG 2016年2月23日

ネコのシロちゃんが語るグローバリズム――東大OB 想田和弘監督インタビュー

2月20日よりシアター・イメージフォーラム(=東京都渋谷区)を皮切りに、全国で順次公開される想田和弘監督の観察映画第6弾『牡蠣工場』。

 

 舞台は瀬戸内海を望む岡山県の牛窓。古くは柿本人麻呂の歌にも見える風光明美で静穏な町だ。日本有数の牡蠣生産地であるこの町だが、出荷用に殻をむくなどの処理を行う牡蠣工場は減少の一途をたどっている。過疎化に伴う労働力不足、外国人出稼ぎ労働者、高齢社会といった、現代日本をめぐる社会問題が、この小さな町にどのような形で現出しているのか。ナレーションなし、テロップなし、事前打ち合わせなし、といった特異な形式で真実に迫る想田監督の「観察」から見えてくるものとは。公開を記念し、本作について想田監督に話を聞いた。

 

――『選挙』や『精神』といった歴代作品は、仲間内や身内の方の縁で作品作りが始まっています。本作についても、奥さんで本作の製作者も務められた柏木規与子さんのお母さんの故郷が牛窓ですね。

 

 そうです、それが本作を作ることになったきっかけです。というのも、僕の中には「観察映画の十戒」という掟があります。リサーチはしない、打ち合わせはしない、台本は使わない、といった決まりです。

 

 多くのドキュメンタリストは、撮影したい対象について入念なリサーチを行い、撮影スタッフや出演者と打ち合わせをした上である程度の台本を作り、それに合わせて現実を切り取っていく作業をします。しかし僕の場合、リサーチすることを自らに禁じている。だから、いつも身の回りからごく自然に映画作りが始まっていきます(笑)。

滞在中の家屋から想田監督が撮影した牛窓の海(c) Laboratory X, Inc.
滞在中の家屋から想田監督が撮影した牛窓の海(c) Laboratory X, Inc.

 今回も、夏の休暇で牛窓に滞在中、地元の漁師さんと仲良くなった妻から、後継者不足の問題などを伝え聞いて。「牛窓に漁師がいる」という当たり前だと思っていた風景が、当たり前ではなくなるのではないか、日本全国で同じようなことが起こっているのではないかという問題意識を持ちました。それで漁師さんの世界を撮ろうと。ですが、ちょうど牡蠣の時期だということで、牡蠣養殖の現場、ひいては牡蠣工場へとカメラが向かうことになりました。

 

――事前打ち合わせがないために、突然「撮影を辞めてほしい」と要望されることもありますね。本作では、あるシーンでこの要望に対処する過程までがじっくりと、緊迫感をもって映し出されます。「撮影を辞めてほしい」理由が、この作品の主題と大きく関わっている、つまり現代日本社会の一面を写し出しているように思いました。

 

 あのときは、工場として初めて中国人労働者を迎え入れるので、相当ナーバスになられていたのだと思います。「撮影を辞めてほしい」と言われたら、まずは理由を確認し対応可能な形で撮影を続行できるように努めます。あの場面では、僕や妻の対応の仕方までもが観客による観察の対象になっていますね。

(c) Laboratory X, Inc.

 「観察映画」という手法を採るのは、自らが経験したことを、いわばまるごと伝えたいからでもあります。撮影中止の要望を受けたときの動揺ぶりや、それへの対応までも含めてこそ、「観察映画」たり得るのだと考えています。

 

――「観察映画」では、テーマは決めないということですが、シーンごとのつながりは説明できるようにしているとお聞きしました。その整合性はどうなっているのですか。

 

 テーマについては、もちろん最初は決まっていません。撮影し、編集を行う過程で「そこはかとなく」浮かび上がり、発見されるんです。編集が進んで映画の方向性が定まってくると、なぜシーンAの後にシーンBが来るのか、すべて説明できるくらい理詰めで考えます。

 

――本作は、猫(シロちゃん)のアップショットから始まります。その後、たびたびシロちゃんとのやり取りが挿入されますね。過去作『Peace』でも、猫は重要な存在感を発揮していました。

本作の重要登場猫、シロ(c) Laboratory X, Inc.
本作の重要登場猫、シロ(c) Laboratory X, Inc.

 猫があまりに好きなので、猫がいるのに撮影しないという選択肢が僕にはないんです(笑)。本作でも、シロは重要な登場人物ならぬ「登場猫」ですね(笑)。ただ、それだけではなくて、撮影を続ける中で、このシロがメタファーに思えてきたんです。シロと呼び慣らされているこの猫は、実は本当の名前を持っている。しかも、よその家の飼い猫なのに、なぜか僕らが借りている家に入りたがる。僕らもシロが来てくれると嬉しいんだけど、うちの子になってしまっては困る。そういう構造が、中国からの出稼ぎ労働者や、ニューヨークに住む自分たちに通じるのではないかと思わされました。

 

 また、映画の中にリズムを生み出すためにも重要ですね。意外と、そういう閑話休題的なものが観客の印象に一番残る場合もあります(笑)。報道としてのドキュメンタリーではなくて、映画としてのドキュメンタリー、「観察映画」であるからこそ、映画的な表現をいつも目指しています。

 

――本作は、グローバリズム、移民問題、労働問題、過疎化といった、重大な社会状況と結び付けて論じられることが多いように思います。実際、この映画はこれまでの想田監督作品と同様、大きなテーマを主題化していますね。

 

 そうですね。でも、そういったテーマがすべてのように思われるのは、作り手としては不本意です。なぜならテーマからこぼれ落ちるような場面も、非常に重要だからです。そういう意味では、映画のチラシや公式ページにあるような宣伝文句などは、本当は出したくないんですけどね。映画を見てもらうためには、何らかの形でこの映画について示さなきゃいけないから、書きますけれども。宣伝をすることは必要悪だと思っています。予告編を作るのも、本当は嫌ですね。どうしても映画の内容を単純化しなくちゃいけないので。いつか宣伝文も予告編も作らずに、そしてこういうインタビューも一切受けずに(笑)、映画を公開してみたいですね。だって、言葉で説明可能なら、映画なんて撮る必要ないですよね。僕が説明してしまうことで、それがあたかも公式の解釈、正解のように思われてしまうのは避けたいんです。多くの人に、その人なりの解釈をしてほしいし、見方を持ってほしい。本作についても同様です。

 

 なので僕の夢はタイトルと上映時間だけを示して、予備知識なしでお客さんに見に来てもらうということです。実は、すでに次回作の編集に取り掛かっています。牛窓の漁師の方を追ったのですが、この作品ではそういう公開の仕方を試してみようかな。『漁師』ってタイトルだけ公開してドーンと(笑)。

(c) Laboratory X, Inc.

 まあとにかく、このインタビューで見に来てくれる学生さんが増えてくれれば、うれしいです。ぜひ宣伝よろしくお願いします(笑)。

(c) Laboratory X, Inc.
(c) Laboratory X, Inc.
本作はグルメな映画でもある(c) Laboratory X, Inc.
本作はグルメな映画でもある(c) Laboratory X, Inc.

(文・インタビュー:日隈脩一郎、 撮影:横井一隆)


『牡蠣工場』

東京/渋谷 シアター・イメージフォーラムにて公開中。

ほか全国順次公開

http://www.kaki-kouba.com/

 

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