COLUMN 2017年11月24日

【東大2018③】東大教員の受験体験記 浪人は努力を学んだ、かけがえない1年

 起こってしまった失敗の原因を追究して生かす学問「失敗学」の研究や著書で知られる畑村洋太郎名誉教授は、1960年に東大理科Ⅰ類に入学。しかし前年の59年にも受験しており、畑村名誉教授自身も一度の受験失敗を経ての入学だった。受験から半世紀以上たった今、畑村名誉教授の胸にはどのような受験期の思い出が去来しているのだろうか。

 

 

――1年目の受験についての思い出を教えてください

 今から考えると傲慢な態度だけど、実は僕は、「受験勉強しなくても合格できるだろう」と勝手に思っていたんだ。僕は都立の進学校にいたんだけど、多分高2の時、高校の全学年実施の模試の数学で2番だったことで、「俺は普通とは違うんだ」と勘違いしてしまったんだと思う。他の模試も覚えていないし、他大の併願も一切しなかった。しまいには自分の番号のない掲示を見ても、「採点の間違いだろう」と思ったくらい(笑)。「いい気になっていた」の典型だよね。

 

――その後、浪人生活が始まります。勉強で気を付けたことは

 「手抜きはしない」「いい気にならない」「自分で全て勉強を考えて実行する」を軸に決めた。具体的には、古典など自分に向いていない暗記科目で点をとることは諦めて、論理的な科目で点を稼ぐことにしたんだ。すると面白いことに、「やれるだけやったんだから」というふうに気持ちが軽やかになって、合格発表の時も全然緊張しなかったのを覚えている。

 

 教科ごとの勉強方法で言うと、例えば物理は、もう名前は覚えてないけど薄い1冊の問題集を究めて、どんな聞かれ方をされても答えられるようにした。本番では半減期の問題が出たんだけど、その問題集に載っていなかったから「半減期」という言葉を知らなくてね。でも応用力が付いていたからか、「物質が半分に減るのにかかる時間」だと推測し、地道な計算で問題を解くことができた。細かい知識じゃなくて、論旨をきっちりつかむことが重要だと改めて感じたよ。

 

 逆に英語や化学はてんでダメだったなあ。英語の長文読解は周りに言わせれば「単語が知らなくても文脈から推測できる」らしいけど、当時の自分にそんな器用なことはできなかった。でも働き始めてアメリカに行ったとき、「君はワード数は少ないけど、相手に内容を惹起させる言葉のチョイスがうまい」と言われたんだ。要は細かい知識じゃなくて、言いたい中身がはっきりしているかどうか。今の入試事情はわからないけど、そういう問題が出題されていると思うよ。

 

――浪人の1年間で、本当に多くの教訓を得られたのですね

 そうなんだよ。今この年になっても、あの1年間が本当にかけがえのない時間だったと実感している。予備校にも一切通わなかったし今思えばよく乗り切ったなと思うけど、浪人のおかげで「自分で努力する」ということを学んだんだ。他人にこうした方がいい、ああした方がいいというつもりはないけど、僕には一番適した浪人時代の過ごし方だったと思うよ。

 

東大在学時の学生証(写真は畑村名誉教授提供)

 

誰もが失敗する、どう生かすかが重要

 

――その後東大に入学・卒業し、日立製作所での勤務、工学系研究科の教授などを経つつ、「失敗学」の重要性の提唱も始めます

 駒場時代の勉強は全然面白くないし難しいし嫌だったけど、成績はなぜかすごく良かったよ(笑)。浪人時代の勉強が生きていたからじゃないかな。

 

 その後研究の過程や自分自身の浪人の経験もあって「失敗学」を唱え始めるわけだけど、これは「失敗をしないようにする学問だ」としばしば誤解されるけど違う。「誰もが失敗する、それをどう生かすかが重要」という考え方だ。自分も「失敗するんだ」ということを認めて、自分で目標を決めて努力する・失敗を具体的に記録する、などの指針を示したということ。

 

 そもそも、東大受ける奴なんていい気になっている奴の方が多数派でしょ(笑)。それならそれで構わない。どこかで挫折して、その時に人のせいじゃなくて自分に原因があると素直に認めて判断や行動の誤りに気付くことが重要だと思うよ。受験で気付くのもいいし、就職活動をしたときに気付く人もいるだろうな。

 

――受験生にも、勉強の過程でさまざまな失敗があるかと思います。その際にアドバイスはありますか

 失敗した時に、逆に過度に自分を責める人もいるけど、それはかえってうつになるから逆効果。重要なのは、正解は一つじゃないということに気付けるかどうか。一番いけないのは実効性や損得勘定にとらわれて決断をしないことだ。きょろきょろしている時間があったらもっと動け、と若い人には言いたいね。

 

 

◇畑村洋太郎(はたむら・ようたろう)名誉教授

現浪:1浪

科類:理Ⅰ

入学年:1960年

出身高校:都立戸山高校

 66年工学系研究科修士課程修了。工学博士。工学系研究科教授、工学院大学教授などを経て、01年より名誉教授。著書に『失敗学のすすめ』(講談社)などがある。

***

 この記事は、2017年8月に東京大学新聞社が発行した書籍『東大2018 たたかう東大』からの転載です。本誌に収録された3人の体験記のうち、1人分を抜粋しました。

 『東大2018 たたかう東大』は現役東大生による、受験必勝法から合格体験記、入学後の学生生活のアドバイス、後期学部への進学、そして卒業後の進路に至るまで解説したガイドブック。東大受験を考えている高校生や中学生の皆さんにお薦めです。大河ドラマ『おんな城主 直虎』脚本家・森下佳子さんへのインタビューなど、読み物記事も充実しています。

 

 

【東大2018】

合格体験記 バランスと戦略が合格への道

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