INTERVIEW / PROFESSOR 2017年11月29日

【東大2018⑥】防災は受験勉強と似ている 廣井悠准教授に聞く都市防災の面白さ

 2011年に起きた東日本大震災では津波などの自然災害だけでなく、帰宅困難現象など大都市特有の災害も発生した。その時にいち早くデータを取るなど、都市防災の研究を精力的に進めているのが廣井悠准教授(工学系研究科)だ。災害と「たたかう」廣井准教授の研究に迫った。

 

 

震災直後、若手研究者として何をすべきか悩みました

 

――都市防災とは、具体的にどのような研究をしているのですか

 僕はもともと慶應義塾大学で数学を学んでいたこともあり、データを用いた数理的な手法で災害や人間行動を分析し、被害を防ぐための方法を研究しています。例えば火災からの避難計画を立案したり、安全安心な都市構造をどう形成するか検討したりです。

 

 都市防災という学問の特徴は、建物の素材・形状など物質的な要素だけでなく、これからその都市がどのように発展するのか、そこに住む人の暮らしをどうデザインするのかという「4次元的」な要素にまで気を配る点です。例えば観光業を営む町に対し、漫画『進撃の巨人』に登場する壁のように大きな堤防を築く津波対策は、果たして住む人に長期の幸福をもたらす選択でしょうか。この答えを導き出すためには、工学系の知識のみならず、社会学や歴史学など社会構造を理解するための学問をうまく併用することが重要です。

 

――東日本大震災が発生した際は、その直後に東京の人の移動・帰宅データをいち早く調査しました

 震災当日、僕はちょうど東大の研究室にいました。その夜に研究者等で集まったのですが、ここまで甚大な被害とは、発災直後ですら認識できていませんでした。未経験の災害に対して、適切に対応することの難しさを改めて知ったわけです。このようななか、震災直後は若手研究者として何をすべきか3日ぐらい悩みましたが、このような巨大災害は発生頻度が低いことも踏まえ、最終的には「現在起きていることをくまなく調べ、後世に残る資料にしたい。そのためには徹底的な災害調査しかない」と考えました。

 

 調査の結果、首都圏では約500万人が帰宅困難になったのですが、一方で建物の倒壊がほとんどなかったため、その多くは職場に滞留できたことが分かりました。東京では帰宅困難現象で死者は確認されていませんが、それは皆がゆるやかに帰宅したことで歩道の過密状態が起きなかったからだと考えられます。しかしながら、首都直下地震等で一斉帰宅した場合は、非常に危険なことになるかもしれません。

 

 調査で被災地に行ったときは「医師など本当に必要とされている人を差し置いて自分がホテルに泊まっていいのか」と思いましたし、被災者の方に当時のことを思い出してもらって聞き取り調査をするのもつらいことでした。しかし、多くの方が「つらいけど将来の役に立つなら」と答えてくれました。

 

――「訓練キット」など、実用的な防災用キットも開発しています

 訓練キットは、「災害時は滞留先としての企業の役割が重要」など震災で明らかになった都市防災の知見をマニュアル化したものです。他にも、震災時にどこでどれだけの交通渋滞が起こるかリアルタイムでシミュレーションできるプログラムも設計しました。

 

 こうした研究を実用化したものは役に立つかもしれませんが、実のところ社会環境の変化などですぐに役に立たなくなるかもしれません。一方で学問的な知見はすぐには役に立たないかもしれないけど、長期的に役立つ視座などが得られる。恐らく両方が重要です。

 

防災は受験勉強と似ている

 

――これまでの研究で、最も「たたかっていた」と感じた瞬間は

 研究自体が常に災害との戦いともいえますが、近年は特に、ほとんど起こらないが起これば大きな被害が出る「低頻度高被害」の災害が問題となっています。ほとんど起こらない大震災のためにどこまで対策をするのかギリギリのところで決断する困難さも、また一つの「たたかい」かもしれません。

 

 防災って実のところ受験勉強に似ているんですよ。大学によって入試の傾向と対策が違うように、災害にも地域性や多様性があります。そこから、過去の災害という「過去問」から教訓を学び、次は同じ間違いをしないよう対策を施していく。でも過去問だけ解いていても新しい現象や想定外には対応できないので、「問題集」を作って解く作業、つまり理論研究も不可欠です。

 

 現実には過去の被災事例に強く引きずられている地域も多いです。このなかで僕たち研究者の役割は、「予備校の先生」のように、住民など「受験生」に寄り添い、「たたかう」方法をお手伝いすることかもしれません。

 

――実際の受験へ挑む高校生へメッセージをお願いします

 大学の学問は多種多様です。高校まで勉強が苦手でも大学で面白い学問に出会うことはあるので、まずはいろんな学問を体験してみてください。

 

 また、あまり進路を一つに決め付けない方がいいと思います。モノ作りが好きだった僕は、大学2年生の時点では研究者の他にコックとデザイナーという進路も考え、悩んでいました。悩むのは若い人の特権で、大人になると悩む時間もない(笑)。だから大いに悩んでほしいですね。

 

 

廣井悠准教授(ひろい・ゆう) (工学系研究科)
 07年工学系研究科博士課程中退。博士(工学)。名古屋大学減災連携研究センター准教授などを経て16年より現職。同年から、優秀な若手研究者が自立して研究に取り組めるように東大が2年間支援する「卓越研究員」に選ばれている。

***

 この記事は、2017年8月に東京大学新聞社が発行した書籍『東大2018 たたかう東大』からの転載です。

 『東大2018 たたかう東大』は現役東大生による、受験必勝法から合格体験記、入学後の学生生活のアドバイス、後期学部への進学、そして卒業後の進路に至るまで解説したガイドブック。東大受験を考えている高校生や中学生の皆さんにお薦めです。大河ドラマ『おんな城主 直虎』脚本家・森下佳子さんへのインタビューなど、読み物記事も充実しています。

 

 

【東大2018】

合格体験記 バランスと戦略が合格への道

不合格体験記 自分の意志が持てず不合格

東大教員の受験体験記 浪人は努力を学んだ、かけがえない1年

東大受験における首都圏と地方の違いとは?

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