インタビュー

2015年2月17日

東大卒は、社会的課題を解く仕事をしてほしい

連載「東大卒起業家たちのイマ」、今回はアブラハム・グループ・ホールディングスの高岡壮一郎氏に話を聞きました。かつては「失敗」も経験した同氏に、新しく取り組む事業、そして東大生へのメッセージを聞きました。

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――起業するまでのきっかけを教えていただけますか?

1999年に東大を卒業した後、三井物産に入社しました。海外投資・M&A・IT事業の新規立上げ等に従事した後、2005年に起業しました。起業のきっかけは、新しい時代の財閥を作りたいというものです。

三井物産も、元をたどれば明治の開国という大きな節目に18人から始まったベンチャー企業でした。ちょうど2005年は、日本の人口が増加から減少に変わる転換点だったんですね。この大きな節目に「齢30にして立つ」とアブラハム・グループ・ホールディングス株式会社を創業しました。

――起業されてからの事業内容を教えて下さい。

企業から個人にパワーシフトが起きつつある中で、個人をエンパワーメントする新しい価値を創造する事業を通じて、社会課題を解決することをミッションとしています。

最初に取り組んだ事業は、富裕層向け事業です。まず、「YUCASEE(ゆかし)」という金融資産1億円以上の富裕層に特化したコミュニティサービスを開始し、富裕層に広告を出したい人と富裕層を繋ぐメディアビジネスを立ち上げました。

富裕層限定メディアの運営を通じて、富裕層には「海外の良い金融商品をダイレクトに取得したい」というニーズがあることが分かりました。そこで、2008年、アブラハム・プライベートバンクという会社を新たに立ち上げ、日本の既存の証券会社を通さず、ダイレクトに海外金融商品を紹介する事業を開始しました。

しかし、開始して5年3カ月後の2013年10月、金融庁から6か月間の業務停止命令が出されました。「大手投資助言会社が業務停止へ」と日経一面・NHK等で大きく報道され、前後して、海外金融商品を日本居住者にダイレクトに提供する会社が9社も業務停止になりました。

――なぜ、海外金融商品を日本人にダイレクトに紹介する業界が、業務停止に追い込まれてしまったのでしょうか?

規制当局の側から見ると、従来の金融行政の「秩序」、つまり「金融商品を買うなら、日本の証券会社を通すべき」というルールを守らせたかったのだと思います。

そもそも、個人が直接海外に投資したいというニーズは、法定上、想定されていませんでした。国民の新しいニーズに応えようとするベンチャー企業と、業界秩序を背負う行政が激突したケースとしては、クロネコヤマトの宅急便の小倉社長や、薬のネット通販解禁を求めて行政を訴え最高裁で勝ったケンコーコム後藤社長の例があります。どちらも東大卒起業家です。

そのような先行事例の成否を慎重に検討した結果、私の場合は当局と争わず、業務停止処分を受け入れました。大変苦しかったのですが、色々な方に助けられ、1年以上かけて次の新事業に必要な金融ライセンスを取得し、2015年1月から新会社の営業を開始しました。新会社はアブラハム・ウェルスマネジメント株式会社というグループ会社で、従来同様、富裕層の海外投資を支援しています。

――アブラハム・ウェルスマネジメントでは、何を目指しているのですか?

目指しているのは、富裕層に安心と安全を提供し、日本が抱える社会課題を解決することです。

現在の日本の大きな課題は、財政悪化です。日本の人口が減っていくのに、国の借金は増え続けている。ある意味では、「世界で一番、国として詰んでいる」状態なのです。大前研一氏等の有識者の多くが指摘するように、今の状態で政府が取りうる手段は、大増税かハイパーインフレの二択しかありません。

こうした中で、富裕層はどう対応するべきか? インフレ対策としては、資産運用が考えられます。ただ、国内の株式や不動産への投資では、日本経済が右肩下がりのトレンドの中で元本割れするリスクがあります。しかし、そのまま円預金しているだけだとインフレで利用価値が目減りしてしまう。「資産運用しても損する、何もせずに貯金していても損する」そんなジレンマへの解決策として、元本確保型に特化した財産保全コンサルティングを提供しています。

――従来の投資コンサルティングとは、どういった点が違うのでしょうか?

誤解を恐れずにあえて分かりやすく言うと、アメリカ政府の信用に裏付けされた「元本安全の海外投資メソッド」の提供です。一見するとシンプルなのですが、これは10年近く富裕層のニーズに向き合ってきたアブラハム グループだからこそできる金融サービスだと思っています。

一般的な金融機関であれば、金融商品を販売する時の手数料で稼ぐモデルのため、高コスト・高リスクの金融商品の短期売買を推奨しがちです。その文化は、一朝一夕には変化しません。それに対して私たちは、「長期・低コスト・低リスクの金融サービス」に徹しています。

また、一般的な銀行は自社で国債を大量保有していますし、一般的な証券会社は日本株の顧客を多数抱えています。だから、「財務省によれば、日本は過去最大の債務超過です」「経産省によれば、円資産の実質価値が3分の1に下落するリスクがあります」等の現実を、あまり大きな声で言いたくないし、その対策としての海外投資を勧めにくい。その事実をお客様に言ってしまうと「え? おたくの経営は、大丈夫なの?」となりますからね。

――具体的には、どのように元本を確保しているのですか?

まず、「元本保証」と「元本確保」の違いをご説明します。「元本保証」というのは「日本円での預金」で使われる言葉です。1,000万円までなら、銀行で元本保証されています。ただし、元本保証とは単なる額面保証に過ぎず、インフレの場合には実質的な利用価値は下落していくわけです。だから円預金の一部を日本より強い国の通貨に転換しておくことで、実質的な利用価値を保っておくのが元本確保です。

ところが単なる外貨預金では金利は低く、財産を倍増させるのは困難です。そこで「最悪でも元本確保しながら、長期的に安心して財産倍増」を目指しています。アメリカ政府が満期時に米ドル建てで元本を保証してくれることを信用の裏付けに、海外投資のコンサルティングさせていただくわけです。弊社自体がお客様の資産を預かるわけではありません。

目指しているのは、金融商品を売るのではなく、15年~30年先までの安心安全を売りたいということ。だからこそ、世界基軸通貨を持ち、かつ先進国で唯一人口が増加しているアメリカに着目しているわけです。

――現在の事業は、かつて業務停止命令をくだされた反省も踏まえて取り組まれているのでしょうか?

全くその通りです。業務停止前は、「顧客」と「国民」と「自社」の経済的利益を追求していました。「顧客良し、世間良し、自分良し」の”三方良し”です。でも、そこには「国家」の視点が抜けていました。業務停止をきっかけに、政治家やキャリア官僚の方々と話す機会が増え、視野が広がりました。”三方良し”に「国家良し」を加え、”四方良し”を目指そうと思いました。

「国家良し」とは、国策にストレートにビジネスで貢献するということです。今、アベノミクスで「GDP(国内総生産)からGNI(国民総所得)へ」と言われています。どういうことかというと、人口減少社会の日本は結局、これからは海外で稼がないとやっていけないと。海外で稼ぐといっても、もはや貿易赤字の時代だから、モノを作って輸出するとかではなくて、海外にマネーを投資して稼ぐ時代になったと。つまり「海外投資の促進」が国家100年の計というわけです。

そこで、アブラハム・ウェルスマネジメントのサービスは、富裕層の海外投資を促進します。元本確保型で運用するので、少なくとも元本以上に増えて日本に戻ってくるため、日本の経常収支を黒字化させ、日本の国民総所得(GNI)を増やします。その結果、日本の財政悪化を解決することができます。

これが、私が目指す”四方良し”のイノベーションです。「富裕層マネー500兆円で日本の経常収支を黒字化する」をモットーに、まだまだ非力ながらも、日本国民全員が幸福になるよう一生懸命、コツコツと頑張りたいと思っています。

――最後に、東大生へのメッセージをいただけますか?

東大の試験って、単なる丸暗記というよりも、記述式のように思考力を問う問題が多かったと思います。東大を受けようと決めた時点で、「難しい問題を解く」ことが快感だったはず。だからこそ、「大きな社会的課題を解く」ことにチャレンジして欲しいですね。

東大は、日本全体の役に立つ人材を育てる教育方針があります。日本がまだ発展途上国だったころは、東大卒業生は国家公務員になり、富を効率よく再分配する仕事に就きました。日本が先進国になると、東大卒業生は富を創造する側の大企業の仕事に就くようになりました。そして今、日本は成熟国です。国も大企業も制度疲労を起こし、多くの社会的な課題が発生しています。だからこそ、イノベーションを起こし課題を解決できるベンチャー企業を、社会は切実に求めています。

この時代の流れが見えている東大卒業生は、既に自身でベンチャー企業を興したり、ベンチャー企業に入ったりして活躍しています。弊社も新卒で東大生を採用しました。これからもっともっと東大卒業生たちがベンチャーに来れば、日本はどんどん元気になります。

東大卒こそ、まだ誰も解いたことのない、大きな社会的課題を解く仕事を通じて、新しい価値を創造してほしいと思います。

(取材・文 荒川拓)

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