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2021年8月14日

総長賞受賞者インタビュー② インドの「象」像を明らかに 

 

 学業、課外活動等で顕著な業績を挙げた学生を表彰する「東京大学総長賞」。その功績の裏には受賞者のどのような努力や思いがあったのか。今回は16〜17 世紀インドにおける象と人の関係の歴史の研究で、2020年度総長賞を受賞した溝渕智咲さんに話を聞きました。(取材・長廣美乃)

 

多角的な分析でインドの「象」像を明らかに

 

──「象とムガル朝:インド支配拡大期における制度・軍事・儀礼」という卒業論文で2020年度東大総長賞を受賞しました。テーマについて詳しく教えてください

 16〜17 世紀インドにおける象と人の関係の歴史について分析しています。北インドに興ったムガル朝がインド支配の拡大に合わせて在地の象部隊を吸収していく中で、野生の象の群れがどこにどう生息しているかや優れた象の見分け方など、象にまつわる在地の文化や知識が記録されていきます。皇帝勅命編さんの『アクバル会典』を中心に史料を読み解いていきました。

 

──象と人の歴史という題材に興味を持ったきっかけは

 動物に興味を持った理由は、高校時代に馬術部に所属していたこと、モンゴル旅行で馬と密接に結び付いた生活に触れたことです。中国文学を読んだり民族衣装を博物館で見たりする中で歴史にも興味を持ちました。文学部東洋史学専修に進学した当時は中国史かモンゴル史を専門にするつもりでしたが、動物に興味があるということで教員から「象はどう?」と勧められ、象の研究なら南アジアか東南アジアかな、と考えそのテーマになりました。

 

──外国語の資料をたくさん読むことになりそうですね

 史書や旅行記を読み大事なところを抽出する作業では、まず英訳を読み必要な部分は原典に当たるという手順を取りました。ヒンディー語はもちろん、前期教養課程から学んでいたペルシア語、植民地時代の東インド会社などによる資料を読むためのフランス語やオランダ語、ドイツ語も勉強中です。幼少期に米国にいたことから英語は比較的得意で、高校時代から中国語も学んでいました。言語学習には文法書や単語帳、辞書に加え、日本でドリルなどがない言語はアプリを用いています。

 

──地理情報システム(GIS)を用いたとのことですが

 コンピューターを使いデータを地図上で可視化する手法です。無料版のソフトを用いて、ムガル朝がインドのどこに象部隊を配置したのか、どういった地理・気候条件に対応したのかなどを分析しました。

 

──困難だったことはありましたか

 初めての論文執筆で、言語を学びながらだったので、完成するのか分からないまま進めました。ゼミもオンラインで、慣れなくてはいけないことは多かったです。テーマ自体は面白く、できることをとにかくやりました。

 

──受賞の感想、評価されたと思うところは

 驚いたと同時に大変嬉しく思いました。身に余る光栄で、今後も成果を出し応えていかなければと。象という珍しいテーマに設定し、動物の生態、自然環境、歴史、支配者の知識の変遷、GIS による地理的な分析などさまざまな面を切り取れたことが評価されたのかと思います。

 

──学部時代の学びで印象に残っていることは

 前期教養課程での昆虫や植物の生存戦略をゲーム理論で分析する生態学の授業は、今の研究に生きています。文学部でのゼミでは、初めて自分で情報を集めたり議論したりと主体的に参加し新鮮でした。

 

──現在の修士課程での研究内容は

 引き続き象の研究を続けています。時代を18 世紀後半にずらし、イギリス東インド会社や植民地政府、インドの地方政権が力を増し、環境開発が始まった時代の動物とそこにいる人々について研究しています。

 

──今後の研究の展望や進路については

 卒論で書いた16〜17世紀の研究と今の研究を接続し、文化的な「象」がどう変容したのか明らかにしたいです。例えば森林の開発や動物学研究の進展といった事象により、人と象の接点がどんな新しい側面を持つに至ったのかに興味を持っています。研究が順調に進めば博士課程に進学し、研究を続けていくつもりです。

 

溝渕 智咲(みぞぶち・ちさ)さん 人文社会系研究科・修士1年

 

総長賞受賞者インタビュー①「バーチャル東大」はこちら

 

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