COLUMN 2019年5月24日

サーギル博士と歩く東大キャンパス① 本郷キャンパス赤門

 我々が日々当たり前のように身を置いている「場」も、そこにあるモノの特性やそれが持つ歴史性などに注目すると、さまざまな意味を持って我々の前に立ち現れてくる。この連載企画では、哲学や歴史学、人類学など幅広い人文学的知見を用いて「場」を解釈する文化地理学者ジェームズ・ サーギル特任准教授(総合文化研究科)と共に、東大内のさまざまな「場」について考えていこうと思う。初回は、本郷キャンパスの赤門に着目した。

(取材・円光門)

 

ジェームズ・サーギル准教授(総合文化研究科)

14 年 ロンドン大学大学院博士課程修了。Ph.D.(文化地理学)。ロンドン芸術大学助教授などを経て、17 年より現職。

 

門が作る「不在」と「摩擦」

 

 「なぜ有る物があって、むしろ無ではないのか?」 これは、見えないものは「不在」であるとした哲学者ハイデガーの言葉だ。赤門周辺の空間を考える上で興味深いこととして、サーギル特任准教授は赤門の出入り口における「空間の不在」に注目する。東大キャンパスの他の門とは違って、赤門は上に屋根を構え左右を重厚な塀に囲まれている。よって赤門前に立って東大構内をのぞく時、門の枠や塀で覆い隠されている向こう側の世界を見ることはできず、それらは我々にとっては不在であるといえる。しかし門をくぐり抜けるという行為を通じて世界は我々の眼前で展開し、不在は転じて存在になるのだ。

 

 「不在は存在を通じて認識され、逆もまたしかりです」とサーギル特任准教授は語る。言い換えれば、赤門に覆い隠され「不在」となっている空間を把握することで、赤門からのぞくことのできる東大構内の風景があくまで全体の一部であることが理解され得るのである。こうした「空間の不在」への理解が、まだ見えぬものを見ようとする我々を門の中へと誘い入れる。

 

 赤門は人々を招き入れるが、同時に人々を制限するというパラドックスを抱いているとサーギル特任准教授は指摘する。文化地理学者クレスウェルは渋滞や空港の出国ゲートといった人々の移動を阻害するものを「摩擦」と呼んだが、サーギル特任准教授によると 赤門もまさに入ろうとする人々の動きに制限という 「摩擦」を生じさせる。

 

赤門は「不在」を作ると同時に、人々の動きに「摩擦」を与える

 

 赤門には一つの大扉と二つの小扉があるが、開いている扉によって、人々の視界や動作は異なる。というのも、門という枠組みを通じてしか、人々は向こう側の風景を見られないのであり、向こう側に行くことができないからだ。ハイデガーは「ゲシュテル(枠組み)」という言葉を使って、存在の在り方が環境によって規定されていることを説明した。赤門が持つ構造は人々の身体の動きを制限し、規定するゲシュテルなのである。

 

 さらにサーギル特任准教授は人類学者ターナーが提唱した「リミナリティー」という概念を引用する。これは越境的な変化を指す概念で、ターナーは、神社や教会といった人間がそこに踏み込めば日常から脱却する変化を経験する場をリミナルな場とした。だがサーギル特任准教授は大学もまた、俗世間から離れ学術に従事するという点でリミナルな場であると考える。赤門はまさにそのような二つの場の境界線として機能しているのだ。

 二つの異なる領域の間には、物質的でないにしろ何らかの壁がある。別の領域に入るためには門が必要だ。しかし、気を付けなければならない。確かに門は「空間の不在」を形成することで人々を中へと招き入れる働きを持つが、まさにその形成された不在によって人々の動きに「摩擦」を生じさせる。

 

 グローバル化が進む現代社会での身近な壁の例として、異文化を思い浮かべる人もいるだろう。それはトランプ大統領が提唱するような現実の壁でも、誰もが心の内に持つ壁でもある。

 

 一般的に、異文化間には壁ではなく門を設置することが交流の第一歩だろう。だが安易に異文化交流をうたった結果、交流相手はあくまで非日常的な「リミナルな場」を提供し我々を楽しませてくれる人たちという認識を広めることにはならないか。あるいは、実際に門に入ろうとすると摩擦が生じ、逆に壁がより強調されることにはならないか。異質な者同士の交流において、壁と門という枠組みから離れた先に何を見据えるべきか、赤門を見ながら考えてみてもよいかもしれない。

 

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この記事は、2019年5月14日号からの転載です。本紙では、全学部・大学院ごとの就職先詳報や、他にもオリジナルの記事を掲載しています。

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