学術ニュース

2025年7月4日

有孔虫は浅い海域では特定の褐虫藻とのみ共生する

 前田歩特任助教(東大大気海洋研究所)と、濱本耕平助教(愛媛大学)、鈴木淳研究グループ長、井口亮研究チーム長(いずれも産業技術総合研究所)らによる研究グループは、サンゴ礁に生息する大型底生有孔虫が持つ共生褐虫藻の組み合わせが生息深度によって変化することを明らかにした。成果は6月2日付で米科学誌『CoralReefs』に掲載された。

 

 有孔虫とは石灰質の単細胞生物で、その殻が「星の砂」として観光地で売られることもある。褐虫藻は有孔虫に光合成によって得た栄養分を供給すると同時に、有孔虫の体内に生息することで捕食者から身を守る。従来は、浅い海域に生息する有孔虫は光量や温度などの環境の変化に適応するため多様な褐虫藻と共生関係にあると考えられてきたが、実際は浅い海域の褐虫藻の組成はほとんど一様であることが判明。今回の研究で浅い海域の有孔虫の個体内の褐虫藻の多様性は深い海域のものよりも低いという結果が得られた。

 

 今回の研究では沖縄県阿嘉島のサンゴ礁3地点の異なる深度から有孔虫を採集し、また沖縄本島の礁原でも採集を行い、共生する褐虫藻の多様性を調査した。褐虫藻遺伝子の解析を行った結果、39の褐虫藻の系統が特定された。浅場では二つの属からなる系統、深場では主に三つの属からなる系統の褐虫藻と共生関係にあることが明らかになった。

 

 沖縄の沿岸海域では農業、工業用水の排水によって汚染物質の濃度上昇が起きている。そのような過酷な環境に適応するために浅場ではこのような有孔虫と褐虫藻の共生関係に収束したのではないかと示唆された。

 

 褐虫藻との共生関係は、有孔虫の環境適応を理解する上で重要な対象であり、今回の研究は気候変動の影響で共生関係がどのように変化するのかを理解する手掛かりになりうる。

 

論文情報

Maeda, A., Hamamoto, K., Nishijima, M. et al. Dinoflagellate diversity of large benthic foraminifera in harsh shallow-water environments.Coral Reefs (2025). https://doi.org/10.1007/s00338-025-02671-4

koushi-thumb-300xauto-242

タグから記事を検索


東京大学新聞社からのお知らせ


recruit
koushi-thumb-300xauto-242


           
                             
TOPに戻る