報道特集

2022年3月27日

葛藤を超えて、東大美女図鑑のゆくえ 〜もう『東大美女図鑑』ではいられない?〜【後編】

 

 『東大美女図鑑』。その名前を聞いて、あなたはどんな印象を持つだろうか。読んでみたい? なんだか嫌だ? 炎上していそう? いずれにせよ「東大」「美女」「図鑑」という単語の組み合わせに無関心でいられない人は多いだろう。

 

 東大美女図鑑編集部から東京大学新聞社に届いた記事掲載依頼の企画書にはこんな文章があった。「世論、団体の性質等を勘案し、『東大美女図鑑』の看板を下ろす、あるいは廃刊するという選択を常に身近においています。次号で『完結』を迎える可能性も十分にあります」。その真意は一体どこにあるのか。本記事では、東大新聞の学生記者と東大美女図鑑編集部の学生、さらに瀬地山角教授(総合文化研究科)も加わって、発行の理念や内容の妥当性などを語り合った取材模様をお伝えする。東大美女図鑑について、そして東大とジェンダーにまつわる全てのトピックについて高校生や東大生一人一人が考える上で必読の内容だ。(取材・鈴木茉衣、撮影・中野快紀)

 

※取材は2021年10月末に行われました。記事中で言及される情報は当時のものです。

 

望月花妃(もちづき・はなき)さん(法・4年) 『東大美女図鑑 vol.14』編集長

荒木英佳(あらき・えいか)さん(文・3年) 『東大美女図鑑』広報担当

六川雅英(ろくがわ・もとひで)さん(養・3年) 『東大美女図鑑』広報担当

 

瀬地山角(せちやま・かく)教授(総合文化研究科)

 

鈴木茉衣 東京大学新聞記者

中野快紀 東京大学新聞記者(撮影担当)

 

前編はこちら

 

女子高校生の背中を押したい!

 

 前期教養課程の人気授業「ジェンダー論」を開講し、著書に『炎上CMでよみとくジェンダー論』などがある瀬地山角教授(総合文化研究科)。過去の東大新聞の取材では、東大美女図鑑についてコメントもしている。

 

 

瀬地山 まず確認したいのが、今はないようですがホームページにモデルの自己紹介があった時期があったよね?

 

望月 以前はホームページでモデル一人一人のプロフィールを写真と共に掲載していましたが、それが芸能事務所のような印象を与えてしまうだろうということでやめました。インスタグラムでも、過去の投稿ではいわゆる男性目線で好ましいとされるような表現のものが多かったんです。単に、編集部内に男性が多かったので自然とそうなってしまったのだと思いますが、それを見て女子高校生が抱く印象はこちらの伝えたいこととは異なるだろうと考え、現在はvol. 13以前の投稿は全てアーカイブ(他のユーザーに投稿が表示されない状態)してあります。

 

瀬地山 主なターゲットは女子高校生だということですよね? 実際にその層には売れてるんですか? 

 

望月 正直、創刊当初はターゲットまでは考えられていなかったと思うのですが、リブランディングで誰に一番買ってほしいかということを考えて以降は明確に女子高校生をターゲットに据えています。学園祭がオンラインになってしまったこともあり具体的な統計は取れていないのですが、去年の学園祭においては高校生とそれ以外が半々か、それ以下くらいだったと思います。実は、Instagramに高校生のみに表示されるよう広告を打って、そこから飛んで購入してくれた方は500円オフ、という形にしました。その成果が出たのかなと思っています。

 

瀬地山 載ってる中には自分が知っている学生もいますし、当事者たちが外から思われているのとは違うようなことを考えて、真面目にやっているのは分かっているつもりなんですよ。それが単なるルッキズムのショーウィンドウとして非難されている状態だと思うんです。

 

 女子の受験生をターゲットにするなら受験勉強の方法とかを載せたり、部屋や1日のタイムスケジュールを見せたり、大学のホームページなんかがよくやっていることをやればもっとターゲットが高校生だということが分かるんじゃないかな。これはとても高校生向けには見えないよ。中高年の男性が買うだろうなと思ったし、実際読者の一部はそうですよね。

 

望月 vol. 12や13では、受験勉強のことや夢のことについてもモデルに聞いて掲載しています。vol. 14では「オンライン授業受講環境の様子」という企画の案もあったんですけど、結局実現しなくて……。ただ、例えば一日の様子などの情報はオープンキャンパスに行けば分かるんじゃないか、という気がしていたので載せていなかったのですが、そういう需要があるのであれば載せたいですね。

 

荒木 女子高生はもちろん東大の学生の1日のことなんかも知りたいと思うんですけど、学生生活は勉強だけで構成されるわけではなく、友人関係や休日も大切な一コマです。そういった学生生活の楽しみに憧れたりという気持ちもあると思うんです。だからそこにアプローチするというの大学の広報との差別化という意味でもありなのではと思っています。そういう点は、大学よりも学生団体である我々の方が魅力的に内部発信を行えると思っています。

 

瀬地山 何も内容を全部変えろというんじゃなくて、そういうのも入れたらいいんじゃない、くらいだけど。

 

荒木 はい。そういったご意見をいただくのも、理念が複数あり、理念のひとつを見ると内実と異なって見えてしまうことに原因があると思っています。つまり、理念の実現については、すり合わせが難しくはあるんですが、全くできていないとも思っていないということです。

 

 ターゲティングとも関係しますが、東大美女図鑑への負のイメージがある人も多いことには広報不足も関係していると思うので、今後引き継ぐ上で編集部がやりたいことをできるようにするためにこの場を設けたというのもあります。逆に、東大美女図鑑は、現在いくつか掲げている理念のうち、女子高校生向けであることではなく、先ほど話した「かしこい、かわいいの多様性」という方についてはvol. 14においてよく出せているんじゃないかと思っています。つまり、「女子高校生にロールモデルを」というものを理念として見ると東大美女図鑑のやっていることはちぐはぐに見えてしまう。ですが「かしこい、かわいいの多様性」という理念も東大美女図鑑は兼ね備えており、その点から見るとそこまで乖離は見えないと思うんです。これが、前述した名称・理念・内実の乖離であり、負のイメージの原因のひとつでもあると考えています。

 

 ルッキズムについていろいろな言説がありますが、やっぱり好みの顔とかスタイルとかっていうものは多くの人が持っていて、そういう人に魅力を感じるのは当たり前だと思うんです。だからこそ「かわいい」は広がりがある表現なんですよね。そんな中で我々が頑張っているのは、モデルが見る人にとってのいわゆる「タイプ」ではなくても「かわいい」と思ってもらえるような、内面を映し出せる冊子作りです。それがかわいいという言葉の多様性をもたらす試みとして非常に面白いですし、高校生に限らず全ての女性の背中を押すのではと思うんです。

 

六川 最後に一つ。東大美女図鑑って名前だけは本当に知られていると思うんです。自分の身の回りの人も、東大美女図鑑についてどの程度知っているかはそれぞれでも、みんな東大美女図鑑に対して何かしらの意見は持っているんですよ。だから東大美女図鑑が出版物として東大の中にあり続けることには、議論を喚起することができるという意義もあるのかなと思います。変えていくことに加えて石を投げることもする、というか。

 

荒木 遅々とした歩みではありますが、温かく見守っていただけると……。『東大美女図鑑という名前だけではなく、理念や実際の冊子一ページ一ページまで見ていただけたらな、と思っています。

 

瀬地山教授コメント

 

 美女図鑑を巡って、東大の女子学生同士がこうして議論をするということ自体に大きな意味があると思っています。『ルッキズムだ』という批判が当然あり得る一方で、ジェンダー論のゼミに出てくださった学生さんも、女子高校生への発信のためにモデルとして関与していたりするので、簡単に白黒のつく問題ではないと考えています。『信じる神の違い』として対話が放棄されるのではなく、これからも議論の空間が確保されることを期待しています。

 

【記事修正】2022年3月28日午後6時13分 瀬地山教授のコメントを追記しました。

 

葛藤を超えて、東大美女図鑑のゆくえ 〜もう『東大美女図鑑』ではいられない?〜【前編】

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