就活

2021年5月31日

【イマドキ東大生のキャリア観】⑥ 起業する東大生は何を思う?

 東京大学新聞社とNewsPicksの共同調査から東大生のキャリア観を読み解く本連載。調査では、将来の起業意向についても聞いている。それによると大学卒業直後に起業したいと考えている東大生は全体の約6%にとどまるが、セカンドキャリアの選択肢の一つとして起業を見据えている東大生も多く、起業が選択肢の一つとして意識されるようになっている。

 

 連載最終回となる本記事では、調査で見えた起業意向を紹介したのち、東京大学新聞社が主催した起業経験者と東大生による座談会の様子を紹介したい。

 

起業の目的は「課題解決」

 

 卒業後すぐの起業を目指す人のうち約7割が学部生で、全員が男性だった。学部・研究科別に見ると教養学部、工学部が全体の過半数を占め、総合文化研究科や教育学部が続く。

 

 起業を目指す人のうち約44%はIT業界での起業を考えている。その他にも人材・教育業界、コンサルティング・シンクタンク業界が主要な選択肢として挙がる。

 

 選択式で、起業を志す理由も聞いた。

  • 「課題解決などを通じて社会を変えたいから」……39%
  • 「既存の企業での働き方が自分に合わないと思うから」……28%
  • 「自分の能力を示すことができると思うから」……22%
  • 「金銭的な成功を得たいから」……11%

企業選びの際の基準と同様「課題解決」などを理由にあげる東大生が多いことは特筆に値する。 

 

 事業のアイデアの種は人によってさまざまだ。「メディアからの情報」と答えた人が最も多く、全体の約17%。「大学での研究」「大学外でのアルバイトやインターン」「家族」といった回答が約11%で続いている。

 

 ただ、これらの設問はあくまで卒業後すぐ起業を目指す人を対象とした設問だ。「就職にあたって、転職や起業といったセカンドキャリアを意識しますか」と聞いた設問では「強く意識する」「若干意識する」と答えた人が全体の8割弱にのぼっており、企業への就職を経て自らの事業を興すことを考えている人も少なからずいる。

 

「『安定志向』だからこそ起業」?

 

 セカンドキャリアの選択肢の一つとして起業を考える東大生は、何を考えているのか。実際に就職を経て起業した東大出身者は何を考え就職し、起業を決めたのか。東京大学新聞社では、プライベート・エクイティ・ファンドのミダスキャピタルの協力のもと、起業家2人と東大生2人による座談会を開いた。

 

<人物紹介>

・岩田匡平さん

株式会社BuySell Technologies代表取締役社⻑兼CEO。2008年工学部卒。株式会社博報堂を経て、14年に起業した。

・申真衣さん

株式会社GENDA代表取締役社⻑。07年経済学部卒。ゴールドマン・サックスを経て、18年に起業した。

・谷浦翔紀さん

東京大学大学院学際情報学府修士1年(取材当時)。外資系コンサルティングファームに進む予定。

・三村有希さん

東京大学教養学部4年(取材当時)。コンサルティングファームに進む予定。

 

 

記者 東大生のお二人は将来のキャリアについてどう考えていますか?

 

三村 セカンドキャリアに関してはほとんど何も考えていません。ただ、ベンチャーキャピタルでのインターンシップを経て、経営者やその支援に興味を持っています。

 

谷浦 ビジネスとデザインの両方に興味を持っていたのですが、ファーストキャリアとしてはビジネス系に振り切り、コンサルティングファームに進む予定です。セカンドキャリアとしてアカデミアに戻ることも考えています。

 

記者 実際に事業を興したお二人は、就活の時から起業を見据えていましたか?

 

岩田 私は就活をしていた当時から、20代のうちに起業しようと思っていました。けれど学生の頃はお金もネットワークもありませんでした。。今は投資環境がかなり整っており、リスクマネーも多くいたるところにチャンスがありますが、自分たちの時代には起業という選択肢は中々見えづらいものがありました。そこで、将来的な起業の為にもまずは汎用的なセールスやマーケティングのスキルを身につけた方がいいと思い、多くの事業に関わりながらスキルを磨くことができる広告代理店や戦略コンサルを見ていました。

 

申 私が就活していたときは、起業という選択肢があることすら認識していませんでした。私は、外国人かつ女性なので伝統的な日本企業では機会に恵まれないのではと思っていたこと、金融工学のゼミに所属していたので金融を中心に企業選びを進めました。

 

記者 岩田さんは最初から起業すると決めていたとのことですが、怖くなかったですか?

 

岩田 もちろん怖かったです。でも「20代のうちに起業する」と心に決めていたので、後悔はしたくないと一念発起し29歳のときに起業しました。

 

記者 申さんは「飛び降りた」感じはありませんでしたか?

 

申 そういう感覚はあまりないですね。モチベーションは成長意欲と達成欲。起業したり、スタートアップに転職する先輩や同期を見ていたので、死にはしないと思っていました。

 

記者 お二人が感じるサラリーマン時代との違い、共通点は何ですか? サラリーマン時代の経験や身につけたスキルは、今役に立っていますか?

 

岩田 個人的な感覚ですが、経営者という職業はサラリーマンとは全くの別物で、サラリーマン時代の経験は特に役に立っていないと感じています。経営者として重要なことはたくさんあるのですが、一番重要なのは壮大なビジョンを描くことだと思っています。。加えて、これは経営に限ったことではなく個人としても壮大なビジョンを持っていた方が人生がより豊かになると思っています。

 

申 前職で管理職をやっていたんですが、部下のパフォーマンス管理など、管理職の「痛み」は経験しておいてよかったと思いますね。

 

記者 サラリーマンと経営者の違いはどうでしょう?

 

申 サラリーマンだとある程度の期間で区切って評価がされ決断の正しさがすぐ検証できますが、経営だと10〜20年たっても正しさが検証できないこともある点が大きく違うと思います。

 

ミダスキャピタルは将来の起業を目指す学生向けにビジネスコンテストを実施している。(写真はミダスキャピタル提供)

 

記者 そもそも、将来のキャリアをどう考えていますか?

 

三村 実は私自身、野心があるわけではなく、安定志向なんです。日系の大企業に一生いようとすることが今の安定ではないだけ。その上で、労働者だとアップサイドが決まっているので、起業で自由になれればと考えています。それと同時に、社会に還元できる何かは持っていたい。東大で生活していると、研究と実社会が結び付いてないと感じることが多々あります。両者を結びつけるビジネスができれば良いなと考えていますね。

 

谷浦 自分は明確に起業を志しているわけではないんです。就活ではデザインとビジネスの融合をテーマにしていました。デザインエンジニアリングを専攻しているんですが、両者で言っていることが全く違うんです。現状では対立している両者を融合させることで、次の社会での役割が浮かび上がってくると思っています。まずはファーストキャリアの場として選択したコンサルでビジネスサイドの考え方を学べたらと思います。

 

岩田 いずれにせよ10年後に自分がどうなっていたいかというビジョンを立てたほうがいいと思います。ポイントは出来るだけ壮大なビジョンを設定することです。そうすると、どうやったらそのビジョンを達成できるのかと考えるようになります。目標を何も設定せずダラダラと時間だけを浪費すること程愚かなことはありません。人生は一度しかないのです。

 

三村 例えば、事業がうまくいかないこともあるかと思います。本当に自分がやりたいことを追求するべきか、勝つことを優先するべきか、お二人はどちらを選ぶべきだと思いますか?私自身は、目標を変えることにちょっと抵抗があるんです。

 

申 目標を変えることは悪いことではないと思います。ただ、目標を変えずに達成できないかは考えたほうがいいですね。

 

岩田 同感です。ただ、もし目標をアップデートするのであれば、その理由は明確にしておいた方が良いと思います。

 

記者 最後に、東大生に向けてメッセージをお願いします

 

岩田 後からアップデートしても構わないので、壮大なビジョンや目標、夢を持つことが重要だと思います。できない理由を100個並べるのではなく、できるたった一つの理由を探す人生を歩んでください。

 

申 正解に合わせていく学生と違い、社会人にとってはいちばん重要なのは自分らしさだと思います。まずは自分らしさを大事にしてもらいたいと思います。

 

多様な「東大生」と変わる価値観

 

   ここまでの連載で、東大生の職業観やキャリア観をひもといてきた。何度も使ってきたフレーズではあるが、「東大生」と一口に言ってもそのキャリアに対する捉え方、職業への味方は一様ではない。個々人の差が存在することは当然ながら、特に連載1回目で取り上げた性差、3回目で見たような生育環境の差など「個人の考え方の違い」では片付けられないような違いも確認された。

 

 6割強の東大生は卒業後に民間企業の就職を考えており、その傾向はおそらく今後も変化しないだろう。ただ、どんな企業に就職するのかという点では変化が起こりつつある。

 

 まず、東大生の間で伝統的な日本の大企業への忌避感が広がっている。”Japanese Traditional Big Company”を略したJTBCというワードも一部では普及しつつあるらしい。終身雇用が崩壊しつつあるなか、年功序列など硬直的な企業文化を嫌っているようだ。そして、終身雇用の崩壊とともに、セカンドキャリアを見据えた職業選択が広がりつつある。コンサルティング企業の人気上昇はその観点からも説明可能だろう。

 

 セカンドキャリアの選択肢の一つとして、自ら事業を興す「起業」も広がりつつある。ボリュームとしてはまだ全体の10%以下ではあるが、今後はより有力な選択肢になっていく可能性がある。

 

 東大生のこのようなキャリア意識がイノベーター理論でいう「イノベーター」「アーリーアダプター」にあたるものであれば、大企業への忌避感やセカンドキャリアへの重視は今後の新卒全体のキャリア意識に広がっていくものなのかもしれない。

 

【連載 イマドキ東大生のキャリア観】
  1. 新たな「安定」は自分のスキルで得る
  2. 東大生はなぜコンサルへ?
  3. 東大生を分かつ「大いなる資産」
  4. データから見える東大生の意外な意識
  5. 独自データで明らかにする東大生の「職業観」
  6. 起業する東大生は何を思う? <- 本記事
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