野崎京子教授、Marius Lutz客員研究員(当時)、Felix Krachtさん(インターンシップ研修生)(当時)、丸本康太さん(博士課程)(いずれも東大大学院工学系研究科)らによる研究グループは、大気中の二酸化炭素と植物由来のイソプレンをもとに効率的な6員環ラクトンの合成に成功した。これは二酸化炭素(COO)、イソプレン(I)、ラクトン(L)の名称をもとにCOOILと命名され、原料の100%が再生可能資源由来という画期的なものだ。成果は8月28日付で英国科学雑誌『Nature Communications』に掲載された。
従来のプラスチックはそのほとんどが石油など化石資源由来の物質によって合成されており、地球温暖化防止や化石資源保護の観点から再生可能資源を用いたプラスチック合成が長年切望されていた。二酸化炭素は安価で大量に入手可能な炭素資源として注目されており、野崎教授らは2014年にも二酸化炭素とブタジエンから新しいプラスチックを合成したが、ブタジエンは石油由来であることが課題だった。今回の研究ではブタジエンの代わりに植物由来のイソプレンを使用したことが特徴的だ。イソプレンは植物から年間数百テラグラムと大量に放出されており、大気中に含まれる炭素含有物質としては二酸化炭素、メタンに次いで3番目に多い物質である。このイソプレンを使用することで全ての原料が再生可能資源由来となり、化石資源からの完全な脱却が達成された。
研究グループはパラジウム触媒に含まれる水分量を厳密に制御することで二酸化炭素とイソプレンから効率的にCOOILを合成する独自の反応を確立した。この反応でこれまでは極めて微量にしか合成できなかったCOOILの現実的な運用が可能となった。COOILを重合させて得られるポリ(COOIL)は柔らかい特性を持ち、コーティング剤などへの応用が考えられる。
今回の研究は、二酸化炭素を資源として活用し、かつ化石資源を一切使用しない持続可能な材料開発の新たな道を拓くものだ。今後は合成プロセスの効率化によりCOOILの大量生産を実現することで、二酸化炭素を削減するカーボンネガティブな材料としての実用化が期待できる。
論文情報
Marius L, Felix K, Kota M, et al. Gram-scale selective telomerization of isoprene and CO2 toward100% renewable materials. Nature Communications.2025.
DOI:10.1038/s41467-025-62409-2