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2021年1月7日

東大教員に聞く、新型コロナと2021年 医療&教育編

 

 

 2020年に世界を震撼させた新型コロナウイルス感染症は、医療分野だけでなく教育や情報テクノロジーなどさまざまな分野で問題を浮き彫りにした。21年にはどのような発展が見込まれ、我々はどのように対応していくべきなのだろうか。医療・教育分野の研究者に聞いた。

(取材 森永志歩・黒田光太郎)

 

各人が感染しないよう意識を

河岡義裕教授(東京大学医科学研究所)

 

 2020年にあった進展として、ワクチン開発が挙げられます。米製薬大手ファイザー・独バイオ企業ビオンテックと米製薬企業モデルナによる2種類のmRNAワクチンは、非常に発症予防効果が高いことが分かりました。今後は長期的な副作用を確認していく段階に入ります。日本では、遺伝子医薬開発を行うアンジェスと大阪大学が共同で開発しているDNAワクチンが第2・3相臨床試験に入っています。しかし他の日本製ワクチンは、どれもまだ臨床試験の段階にはありません。副作用や輸入に関して問題がなければ、日本でのワクチン普及は来年の夏前後になるかもしれません。

 

 21年に進展が期待されていることは、新型以外も含めたコロナウイルス自体についての研究です。コロナウイルスの研究者は、インフルエンザウイルスの研究者と比較すると少数です。そのため、そもそもコロナウイルスに関しては未解明のことが多く残っています。コロナウイルスにどのくらいの頻度で感染するのか、季節性のコロナウイルスに抗原性の変化が起こるのかなどもまだ分かっていません。

 

 昨年11月に感染者が急増し、いわゆる「第3波」の到来が報道されましたが、今後さらなる「波」が生じる可能性は十分にあります。感染者が増えると全体的に警戒感が強まることで感染拡大に歯止めがかかりますが、それによって感染者が減ると行動自粛が緩んでまた感染が拡大します。そのように「波」が生じてきました。「波」を防ぐためには、感染状況に関わらず、感染を避ける行動を各人が強く意識することが最も大事です。感染対策としては、マスクなしで近距離になる状況を極力作らないことが基本であり鉄則です。コロナウイルスはアルコール消毒剤で死滅するので、こまめなアルコール消毒も感染対策として効果があります。

 

 東大が取り入れているオンライン授業は、人との接触を完全に防止できるため、感染対策としては最善の授業形態といえます。そのためオンライン授業を継続して学内への入構を制限する限り、21年に東大内で感染者数が爆発的に増えることはないでしょう。しかし教育効果の観点からは、教員や友人との交流が失われてしまうなど欠点も感じられます。本格的に対面授業に戻せるのは、ワクチンが日本で幅広く行き渡るようになってからだと思います。

 

オンライン授業は教育の大きな転換点

秋田喜代美教授(東京大学大学院教育学研究科)

 

 本年度から本格的に導入されたオンライン授業は感染対策に有効であることはもちろんですが、通学時間の短縮という利点もあります。それにより学生を含めオンライン利用者の睡眠時間が長くなっていることも分かっています。学生と黒板などとの物理的距離は関係がなくなったため、席の位置にとらわれず授業に参加できるようになったという利点もあります。

 

 一方で授業に参加している人がその場の雰囲気を感じられず、一体感がなくなるというのは大きな問題です。ビデオをオフにしていると、授業における対話は一層難しくなります。その結果、教員からの「一方通行」の授業になり、学生が理解しているか分からないまま授業が進み所属感も持てなくなります。

 

 人間関係構築の問題もあります。特に新入生には「横のつながり」が大切ですが、オンラインで交流しようとしても自由に話すことができないため難しいです。経済的・技術的課題も浮き彫りになりました。オンライン教育に必要な電子機器を準備する経済力の有無が、十分な教育機会の保障に影響を及ぼしているのです。さらに、電子機器を用いた指導に必要な技術を持っている小中高教員の割合がOECD諸国の中で最低であるなど日本のICT教育水準が他国より低く、デジタル教育の準備が整っていないことも大きな問題として再確認させられました。

 

 こうした問題を克服するには教員側の工夫が不可欠です。例えば、授業時間にゆとりを持たせることです。実際に、教員による講義は一部にとどめ、残りの時間は課題を行ったり他の学生と話し合ったりするという形式の授業は学生からの評判がいいようです。私の授業では、授業後に希望する学生は自由に学生同士で話ができる「自由時間スペース」を設けています。同じ授業を受ける学生同士で知識を共有し、語り合うことは教育上も有益であると思います。

 

 オンラインを使うことで授業の枠を超えた新たな取り組みも可能になるでしょう。先日高校生同士でさまざまな話題について話し合うオンラインフォーラムを開催し、9カ国の高校生が学校や国の壁を越え参加して対話しました。社会人が大学の授業を受講することもより容易になるだろうと思います。

 

 対面授業を基本としながらもオンラインの利点を教育に最大限生かし、同時に見えてきた課題を解決していく努力が求められます。

 

河岡 義裕(かわおか よしひろ)教授(東京大学医科学研究所) 80年北海道大学大学院修士課程修了。獣医学博士。米セントジュード小児研究病院教授研究員などを経て99年より現職。
秋田 喜代美(あきた きよみ)教授(東京大学大学院教育学研究科) 91年東大大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。博士(教育学)。専門は学校教育学。立教大学助教授(当時)などを経て04年より現職。19年より教育学研究科・教育学部長。

【記事修正】2021年1月14日9時47分 各見出しの下部に教員名を追記しました。

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