東京大学Diligentは「東大生が在学中に学ぶべき100のこと」をテーマに、自己研さん、ソーシャルビジネス、ボランティア活動等を行っている団体だ。東大生を中心に50人ほどが所属している。本年度Aセメスターに駒場で開講される自主ゼミと五つのサークルからなり、サークルはそれぞれ異なるゴールに応じた活動をしている(表)。記者は、その中の一つである「起業家人材育成塾Diligent(起業デリ、現・キャリア形成塾Diligent)」が開催したコンサル・起業養成講座に参加した。
自主ゼミについてはこちら(寄稿記事)
起業デリは、実際に起業家の話を聞くなどして、ビジネスの視点を学ぶサークルだ。自主ゼミの運営と並行して、不定期でコンサル・起業養成講座を開催。起業をするかどうかにかかわらず将来のキャリアに役立つような能力を身に付けることを目標としている。今回のコンサル・起業養成講座では一般社団法人イノベーションハブ理事の井野孝紀氏を講師に招き、対面・オンライン合わせて10人ほどがビジネスの基本的な考え方について学んだ。
講座前半では井野氏から「問題解決能力」について話があった。問題解決能力は、起業家やコンサルなどに限らず、研究者や官僚などすべての職種に求められる能力だという。「問題」とは、理想の状態を仮定したときに、現実の状態に不足している部分を指す。問題解決能力を身に付けるためには、どのような状態が理想の状態であるかを考える能力や、現状を分析して理想との差がどこにあるかを把握する能力が重要だと語る。設定している問いの大きさによってその人の人生が決まる、という言葉が印象的だった。
講座後半ではより実践的な内容に移り、組織のマネジメントでリーダーが意識すべきことや、ビジネスのアイデアを形にする過程での「戦略」と「実行」両方の大切さについてレクチャーを実施。「戦略」の部分では、架空の自動車学校の収益を倍増させる戦略を実際に立ててみるなど複数のケーススタディも行った。学生たちは井野氏の問いかけに対して、熱心にペンを走らせながら思考を巡らせていた。
養成講座の運営にも携わっている藤森香帆さん(文Ⅰ・2年)は、今回の講座の中で印象的だったものとしてケーススタディを挙げる。「ビジネスはミクロな視点だけでなくマクロな視点が必要だと分かりました。それはビジネスだけの話ではなく、研究など他の分野にも共通する考え方だと思います」
起業デリは「起業」と銘打っているが、起業家志望の学生だけではなく文理問わず幅広い学生に門戸を開いている。藤森さん自身も当初はなんとなく弁護士になりたいと思っていたものの、起業デリで新たな考え方を学んだことで、自分の将来について本当は何がしたいかを考えるきっかけになったという。藤森さんは自身の経験を踏まえ、起業デリを東大生のキャリアの選択肢を広げたり、キャリア形成について考えたりする場にしていきたいと考えている。「なんとなく東大に入った人には、問題解決型能力のような将来役立つ能力を学生のうちに身に付けてほしいと思います。起業に興味がある人はぜひ自分の将来の成功に近づくための場として使ってもらいたいです」。起業家志望の学生向けには、今後企業と連携したインターンシップなどのプロジェクトも予定しているという。
本年度に動き出したばかりの団体で人数は少ないが、運営業務を全体で分担する工夫を取り入れ、着実に規模を広げている。今回の取材を通して、参加した学生たちが自らの可能性に気付き、学びの実感を得ていることが伝わってきた。【芋】