PROFESSOR

2021年2月1日

【大学運営の研究者に聞く】社会とつながる未来の大学像とは?

 2020年は、新型コロナウイルス感染症の影響により大学が急激な変革を迫られた年だった。2021年には、大学はどう変わるのか。また、どう変わるべきなのだろうか。国内外の大学の教育・研究・運営面の現代的課題を多角的に研究する船守美穂准教授(国立情報学研究所)に、自身の経験と研究の成果を踏まえ今後の大学の在り方について話を聞いた

(取材・藤田創世)

 

船守美穂(ふなもり・みほ)准教授(国立情報学研究所) 93年、東大大学院理学系研究科修士課程修了。修士(理学)。三菱総合研究所、文部科学省、東大本部などを経て、16年より現職。海外大学の動向を「mihoチャネル」にて配信中。

 

  幼少期から東大に至る学生生活や、その後のキャリアは今の先生の研究にどのように生きていますか

 

 中学時代までドイツの学校に通っていました。常に論理的な主張を求められる文化の中で、批判的に物事を見る力が付き、他人にない視点を展開できるようになりました。日本の高校を卒業後、東大では理Ⅰに入学し理学系研究科地球惑星物理学専攻(当時)に進学したのですが、自分の好奇心のみで研究を続けることに限界を感じるようになりました。そうして次第に「社会からのニーズに応じた研究」を志向するようになり、民間のシンクタンクへの就職を決めました。文部科学省への出向の際には日本の大学の途上国協力を促進することに携わり、大学の国際化についての知見を深めました。その後東大では、今でいう「IR(インスティテューショナル・リサーチ)」の役割を担うことになりました。こうして国内外の大学の動向や大学運営についての専門性を確立できたことが、現在につながっています。

 

  大学IRについて、詳しく教えてください

 

 大学IRとは、データなどの客観的事実を元に引き出せる合理的な施策を大学執行部に伝えることで、その意思決定を支援することです。これにより、推測ではなく合理性に基づいた大学運営の実現が期待されます。大学IRの弱点としては、大学の判断に十分なだけのデータは基本的に存在しないことや、データがあくまでも過去の状態を表現するものであるため、変革を必要とする場面においては必ずしも役立たないことが挙げられます。大学IRは過去や現状の把握に利用し、実際の戦略判断は未来志向の考えの下で人間がするべきです。

 

  IR以外では、大学のデジタル技術利用に関連して今後どのような変化が起こるのでしょうか

 

 昨年はコロナ禍により人々が一斉にオンラインに回避しましたが、物理世界で行っていたことをそのままオンラインに移行させるだけにとどまりました。今後、デジタル技術の特性を生かした新たなイノベーションが出てくると予想しています。

 

 例えば、知識の伝達に関わる部分はオンライン教材などに集約し、教員と学生がリアルタイムに集う教育・学習の場においては、それが教室であろうと、オンラインであろうと、アクティブラーニングをより行えるようにすることが考えられます。その際、教員は議論の進行を通じて学生の知的好奇心や学びを触発する役割が求められることになるでしょう。教育カリキュラム自体も、より学生一人一人のニーズに合わせたものになっていくはずです。興味に応じて大学という枠組みを超え、さまざまな大学の教員の授業を受けられるようになるかもしれませんね。

 

 研究活動においては、学会やシンポジウムがオンラインに移行し、従来よりはるかに多くの集客を得るようになりました。現状では、偶発的な出会いによる新たな活動が生まれにくいことや、時差などの問題が指摘されていますが、物理的近接性を疑似的に実現するアプリなどの登場によって解決が見込まれます。一旦このようなデメリットが克服されると、人々がつながる可能性が飛躍的に伸び、国境・言語・学術と社会の枠を超えたスケールの大きな研究が展開されるようになるでしょう。

 

  デジタル技術が進歩する中で、大学は社会と今後、どのように関わっていくべきなのでしょうか

 

 大学進学率の上昇に伴い、社会の中における大学の存在感は増し、同時に、大学に対する社会の要求も大きくなっています。大学の卒業生が社会のさまざまな場に進出する今日では、社会において直接的に利用可能なスキルが大学教育の中で獲得されることが望ましいです。問題解決力やクリティカルシンキング(批判的思考)、数値解析能力などがこれに当たります。学問をベースとした上で、社会における応用という視点を取り入れた教育を展開するべきでしょう。

 

 さらに、大学における研究活動が公的資金を得て遂行されている以上、その結果は社会に伝達され、理解・評価されるものであるべきです。そうした中で大学には、社会のニーズを研究に反映させ、その結果を社会に伝える役割が求められます。デジタル技術は、知を共有するツールとして、また大学と社会の協働を可能とするプラットフォームとして機能します。

 

 以上のように、大学は教育や研究を社会との関係性において整理し、社会に対する責任を念頭に置いた運営をする必要があります。

 

  今後の先生の研究の展望を聞かせてください

 

 私の研究テーマは、高等教育政策・科学技術政策・情報科学といった分野にまたがっています。大学の運営というレンズを通してこれらを統一的に扱い、またこれらの分野に属する人々自身にも分野横断的な視点を持ってもらえるようアピールをしていきたいです。さらに、大学執行部が大学のアクティビティーを社会との関わりの中に位置付けていけるよう発信していくつもりです。

 

  東大生に向けて、メッセージをお願いします

 

 東大憲章は大学を「市民的エリート」が育つ場として位置付けています。皆さんには、特別にエリートぶらずにしっかりと役割を果たし、社会に変革をもたらす市民的エリートとしての活躍を期待しています。

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