文化

2019年2月27日

【ハーバードクリムゾン翻訳企画③】学期初日のハーバード生の素顔

 東京大学がその国際競争力を問われるようになってから久しい。「タフでグローバルな東大生」を掲げ、世界で戦える人材の輩出を目指した濱田純一前総長時代に続き、現在の五神真総長が掲げる東京大学ビジョン2020においても「国際感覚を鍛える教育の充実」が掲げられており、東大生には世界での活躍が期待されている。しかしながら、東大生の中には国外の大学が東大とどのように違い、自分たちがどのような人材と渡り合っていくことを求められているのか、知らない人も多いのではないだろうか。

 

 東京大学新聞社では、あくまで一例ではあるがそのような海外の大学の実情を少しでも紹介すべく、3回にわたって米国ハーバード大学の学生新聞・ハーバードクリムゾン紙より許可を得て、同紙の記事を翻訳し紹介する。最終回の今回は、ハーバード大学の学期初日の様子を描いたこちらの記事。ハーバード大学の日常をのぞいてみよう。

 

満員の講義と子犬と望遠鏡 ハーバード大学学期初日の授業

 

 

Amy L. Jia and Sanjana L. Narayanan

 

 日光が降り注ぐ月曜の朝、学期初日の授業に向けて学生たちがキャンパスに押し寄せた。

 

 経済10B『経済の原理』など長年人気の授業や、演劇・舞踊・メディア110『演技の基礎:観点』などの新しい授業は席を求めて騒ぐ学生達で満員になった。

 

 何人かの学生はスペース不足で広い講堂を去らなければならなかったという。

 

 「ドアの外まで列が続いてて、中に入ることすらできなかったよ」とクリムゾン紙デザイン編集員のディーディー・R・ジァン(2年)。受ける予定だったのは科学センターDホールで開かれた世界の諸社会38『ピラミッド計画:古代エジプトの考古学的歴史』だ。「私たちは前に行こうと押しのけなかったので、もみくちゃにされてしまった」

 

 学生たちによると、コンピューターサイエンス181『機械学習』から生体科学20『精神の科学』、有機及び進化生物学130『魚類の生物学』、哲学20『幸福』まで、さまざまな講義が似たような混雑状況に直面していたという。

 

 何人かの教員は初日に授業計画の説明以外のこともした。天文学科長のアヴィ・ローブは初年次ゼミナール21G『宇宙最初の星と生命』の履修者を大学の天文台に連れて行き、1847年に建てられた時点では北アメリカ最大の望遠鏡であった屈折望遠鏡を見学させた。

 

 スカンジナビア専門のアグネス・ブルームはスウェーデン語AB『スウェーデンの言語と文学入門』の講義に飼い犬を連れてきて学生を驚かせた。

 

 「最後に、ジャーマンシェパードの子犬を連れてきたんだ。最高に可愛かったよ」と出席したニコラス・G・ヴラノス(2年)は証言する。「素敵な週の始まり方だったね」

 

 最終的に決断する前にいろんな授業を覗く機会を与えるために、学期の履修は金曜日まで決めないことになっている。

 

 クリムゾン紙のアート編集員のラジ・カラン・S・ガンバー(1年)は昨年のビスタスプログラム(大学の新入生歓迎プログラム)でとある授業を参観した後、春学期にその授業を受けるのを楽しみにしていたとメールに書いた。

 

 「講義が始まって、僕はこの講義が自分に合っていないことに気づいたんだ。僕は新しい人間関係を構築する際に多くの人がやってしまうようなミスをした、つまり、先走ってしまったんだ」と、ガンバーは書く。「同時に、前は懐疑的だった友達がちょっと前に僕がそうだったようにその講義に夢中になっていた。僕はショッピングウィーク(訳注・学期の初めにどの授業が面白そうか学生がいろいろ見て回る週)があったことに感謝しているよ。間違った授業に見切りをつけ、合っている授業を選ぶ時間を与えてくれたからね」

 

 他の人、例えばブランドン・N・ワックス(4年)などにとって、初日にはもっと何気ないできごとが起こった。

 

 「僕たちは最上級生でこれが最後の学期初日になるから、早起きして授業に行こうと思ってたんだ。でも朝飲む約束もしてたから午前中はQ Guideでシラバスを見ながら飲み会を続けた」とオンラインのシラバス「Q Guide」について言及しながらワックスは言った。「でも、正午ぐらいになるとみんな講義に行くことを決断したよ」

 

 「ここでの最後の学期を一緒に始めるには良い交友体験だったよ」とワックスは付け足した。

 

東大新聞記者コメント

 

 

 クリムゾン紙の翻訳企画3回目は、今までの真面目な記事とは打って変わって学期初日の学生の様子を赤裸々に描いた緩い記事。総合科目C『ジェンダー論』や、同じく総合科目C『現代教育論』など人気の授業に人が集まるのは東大も同じで、学期初日には教室変更やレジュメの増刷など混乱も多い。

 

 天文台に連れて行ってもらえるという『宇宙最初の星と生命』の授業が紹介されていたが、東大でも図書館の裏側を見せてもらえるゼミや、夏休みの間に小旅行に出かけるゼミなど、多様な授業が存在する。とはいえ、飼い犬を連れてきた教員は東大では聞いたことがない。アグネス先生は何のために子犬を連れてきたのだろうか。

 

 ショッピングウィークは東大にもある。特に「ショッピングウィーク」というような名前はついていないが、授業開始と受講登録期間の間は1〜2週間空いているため、その期間に初回授業を受けて履修を考えることができる。ガンバーくんのように難しすぎる授業を諦めたり、思っていた内容と違う授業の履修を取りやめたりすることができる。

 

 飲み会で授業をつぶしたというのはなかなか親近感の湧くエピソードだ。東大生でも夜更かしで遅刻する学生はいるし、布団から出れないと言ってサボる学生もいる。ただ、話の種がオンラインシラバスだというのはさすがハーバード生というべきか。「Q Guide」は東大における「UTAS」と同様のものだろう。東大にもシラバスを読みふけって履修を組むのが楽しいと言う学生はいるし、学生の学期初日の過ごし方に日米の差はないのかもしれない。

(翻訳及びコメント・宮路栞)

 

記事のオリジナルはこちら

https://www.thecrimson.com/article/2018/1/23/first-day-classes-spring-2018/

 

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