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2019年9月27日

「HONGO AI 2019」最終選考会進出スタートアップ紹介・後編

 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が主催するAIスタートアップ企業の表彰イベント「HONGO AI 2019」の最終選考会と授賞式が、10月2日に本郷キャンパスの伊藤謝恩ホールで行われる。それに先立ち、弊紙オンライン版では最終選考会に駒を進めた全14社を2回に分けて紹介。今回は後編として以下の7社を紹介する。

 

・Xamenis

・株式会社科学計算総合研究所

・株式会社estie

・株式会社シンカー

・株式会社スペースシフト

・Mantra

・MI-6株式会社

HONGO AI 2019についての詳細はこちらの記事を参照

 

 

Xamenis

 

 社名の由来は医療の象徴である「アスクレピオスの杖」に巻きついたクスシヘビの学名Zamenis longissimus。カプセル内視鏡の読影支援AIを開発している。高峰航さん(医・5年)と澤辺一生さん(医・5年)は、数万枚の画像から1枚を探し出すという消化器内科医の身にこたえる作業を目の当たりにし、機械に置き換えられるはずだと起業を決意。

 

 「現在の医療には進歩するべきところが残っている。医療と情報技術の両方の技術を持つところがわれわれの強みです」。企業として生き残るためにはまずは食べるものに困らないほどの売り上げが必要としながらも、人々の生活を変えたいという大きな野望を抱きながら開発にまい進する。高いレベルの医療を誰でも低価格で受けられるように、現在の医療の経済的なほころびを情報技術で繕う。加えて、病気になる前に心身の不調を発見できるような仕組みを病院外に構築することでQOLの向上や健康寿命の延伸を目指し、患者にも医療者にもSustainableな医療を再構築する。

 

 

株式会社科学計算総合研究所

 

 科学計算総合研究所(RICOS)は「設計の高速な最適化」を目標として掲げている。従来のものづくりでは、試作品を作って評価し、改善点を見つけ、また試作品を作り……と、完成に至るまでに多くの時間・費用がかかっていた。この現状を打開するため、CAE(Computer Aided Engineering、コンピューターシミュレーションを用いて製品の評価をする技術)にAI技術を組み合わせ、設計の最適化プロセスの全自動化・高速化を目指す。

 

 起業のきっかけは、代表取締役の井原遊さんが東大在学中に、起業やスタートアップ(ベンチャー)について初歩から体系的に学ぶプログラム「東京大学アントレプレナー道場」に参加したこと。「当時の研究室でも、今と似たようなことはやっていましたが、論文になりづらい成果を生かしたかったんです」。今は研究チームのメンバーにも顧客にも恵まれているが、知名度が足りない。「コンテストを通じて、面白いことをやっているなと、自分たちがやっていることの価値をアピールできれば」

 

 

株式会社estie

 

 企業向けのオフィス探し・提案プラットホーム「estie」と、プロの機関投資家向けの不動産データマネジメント・アナリティクスサービス「estie pro」を提供しているestie(エスティ)。「estie」は今月20日に正式版がリリースされたばかりで、現在は東京大学エッジキャピタル(UTEC)からの出資を受けながら経営されている。代表取締役の平井瑛さんを筆頭に、事業用不動産業界の出身者が複数参画しており、業界の知見を多く有している。さらにドコモ、ヤフーといった最新のテクノロジーを扱う企業の出身者も参画しており「チームとしてこれ以上ない人材に恵まれています」。構造化が難しい生の不動産データを解析して投資家に提供しているのも、他社にはない強みだ。

 

 平井さんは不動産業界大手の三菱地所出身。データが活用されていない不動産業界の現状を目の当たりにして起業を思い立った。「業界関係者の多くは最新のテクノロジーを使った取り組みを進めようとしていますが、具体的に何をしたらいいかに悩んでいます。彼らと一緒に市場をよりシンプルに、意思決定をよりスムーズにしていきたいです」

 

 

株式会社シンカー

 

 クライアントである企業が所有するあらゆる数値を有効なデータに変換し、その企業のマーケティングを多様な角度から最も効果的な形で実現するサービスを提供するシンカー。現在のマーケティング業界では顧客データは集まっているが、それを活用する基盤や技術がないと語る取締役CAOの岩瀬央さん。クライアントとなる企業にとっての顧客個々人が、ウェブサイト上でどのように行動するかのデータなどを収集・蓄積・統合し、AI技術で分析することで、潜在的なニーズを見つけ出す。一部のAI技術関連企業とは異なり、テクノロジーありきではなく「顧客にとって最適化されたサービスを提供する」という、マーケティングに根差したより実利的なサービスを展開している点に強みがある。

 

 岩瀬さんはかつてコンサルティングファームでAIの開発や導入支援に携わっていた。しかし現在は「知名度も低いし、社員が5人しかいないスタートアップです」。HONGO AI 2019で優秀な成績を収めることで、事業拡大につなげたい考えだ。

 

 

株式会社スペースシフト

 

 「宇宙とAIで世界をひもとく」をテーマに、地球観測衛星のデータをAIで解析する事業を展開する。代表取締役の金本成生さんは大学在学時からインターネットサービスの開発などを行っていたが、10年前に起業。事業の根底には、環境問題や持続可能な社会といったテーマが扱われることが多い現代社会において、人間活動そのものの把握が不十分だ、という問題意識があると語る。金本さんが子供のころから好きだった宇宙というフィールドから地球を見下ろす衛星。一番大きい視点から人類を観察するその観測データとAIを組み合わせれば、環境保護や経済活動の最適化が大きく進展しうる。

 

 現在、東大の学生もインターンシップ生として参加するスペースシフト。コンテストを機に衛星データの解析が社会貢献につながることを多くの学生に知ってほしいという。AIによる衛星データの解析は世界でも先進的な事業で多くの注目を集める。他のAIスタートアップとも共同して世界をひもといていく。

 

 

Mantra

 

 東大の卒業生らがマンガのための自動翻訳技術「Mantra」を開発。産学協創推進本部FoundXと東大IPCの支援を受けながら事業化に取り組んでいる。従来のマンガ翻訳の場合、ページから人間の手でテキストを抽出した後に翻訳するという煩雑な手順を踏む必要があり、高コストである。加えて、雑誌掲載→単行本発売→翻訳版発売というプロセスに長い時間を要し、結果として海外ではファンが翻訳する「海賊版」が流通してしまう。開発者はその現状を問題視し、マンガ翻訳にかかる手間やコストを削減するために「Mantra」を開発した。

 

 この技術ではAIが自動でテキストを高速、低コスト、高精度に検出、翻訳することを可能にし、人的コストを70〜80%削減することに成功した。Mantraの代表で生産技術研究所の特任研究員も務める石渡祥之佑さんは「翻訳に時間がかかることから、海外のファンを長い間待たせてしまっている。さらに、1冊の単行本の翻訳にはおよそ20万円もかかっていることから正規に翻訳される作品も多くはない。世界中のマンガ作家とファンを正しくつなぐ、という目標の下に活動している」とし、「すべての作品が即時的かつ低コストで世界中の読者に届く未来を実現します」と語気を強める。

 

 

MI-6株式会社

 

 MIとは「マテリアルズ・インフォマティクス」の略語で、材料開発をデータ科学の知見から行おうとする取り組みのこと。現在の材料開発の現場には勘と経験に依存していて非効率という問題があるが、それをAI技術などを用いることによって効率化することを目指している。MI-6は日本で唯一のMIを専門とするスタートアップであり、実績は世界トップクラス。MIの活用を通じて企業の新たな材料の探索と開発、実用化までを支援する。

 

 代表取締役社長の木嵜基博さんは、半導体産業や家電産業における日本の競争力が失われる中、AI研究で世界をリードする中国などの国々がAI技術を活用した材料開発を積極的に行えば日本の強みである素材産業さえ輸出できる産業ではなくなるとの危機感を抱く。一方で「強みだからこそ、日本でMIの活用が進めばまだまだ高い競争力を維持できる」と力を込める。材料開発におけるMIの活用を当たり前とすることで、日本の材料開発をレベルアップさせることを目指す。

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