インタビュー

2014年12月27日

「これだからMBAはダメなんだ」と言われ、好きなことで起業した イノーバ宗像淳CEO

今回紹介する「東大卒起業家」は、コンテンツマーケティングを武器に成長を続ける株式会社イノーバの代表取締役CEO宗像淳氏だ。大企業を経て起業した経緯、東大生へのメッセージを聞いた。

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福島県立安積高校、東京大学文学部卒業。ペンシルバニア大学ウォートン校MBA(マーケティング専攻、GMATスコアは770点/800点で世界のTop 1%)。1998年に富士通に入社、北米ビジネスにおけるオペレーション構築や価格戦略、子会社の経営管理等の広汎な業務を経験。MBA留学後、インターネットビジネスを手がけたいという思いから転職し、楽天で物流事業立ち上げ、ネクスパス(現トーチライト)で、ソーシャルメデイアマーケティング立ち上げを担当。ネクスパスでは、事業開発部長として米国のベンチャー企業との提携をまとめた。2011年6月に株式会社イノーバを設立、代表取締役に就任。

著作:『商品を売るなーコンテンツマーケティングで「見つけてもらう」仕組みをつくる』 日経BP社刊, 2014年

−−大学在学中から、起業を考えられていたのでしょうか?

在学中から「起業したい」とは言っていたものの、そこまで明確に思い描いていたわけではありませんでした。学生時代は、ひたすらアルバイト漬けの日々で、下北沢の「てんや」で天ぷら揚げていましたよ。

98年に文学部を卒業し、新卒では富士通に就職しました。その頃って、ちょうどWindows95が登場した後で、インターネットの黎明期でした。計算機・コンピュータの力で困っている人を助けたいと思ったのがきっかけです。

実家が商売をしていたこともあり、小さい頃から仕入れや経理のような仕事を手伝っていたんですが、私の母は計算が苦手な人で。帳面をつけても、いつも数字が合わないんですね。そんなことを目の当たりにしていた中で、そういう人々を技術の力で助けたいと思ったのが、富士通に決めた理由です。

−−富士通に就職されてから、留学を経験されています。

よく言われることかもしれませんが、大企業は仕事が非常に細分化されており、全体像が見えにくいことは確かでした。富士通は素晴らしい会社でしたが、実家で商売をやっていた経験がある僕にとって、お客さんの顔が見えない、何をどう売っているのか全体が分からない、ということはやはり不満でした。そしてそれ以上に、そういった環境に慣らされてしまうことに危機感を感じていました。そんな時、たまたま社内に留学制度があったので応募し、ペンシルバニア大学のウォートンスクールにMBAを取りに行きました。社会人6年目の時です。

−−留学してみて、良かった点はどこでしょうか?

自分にどれくらいの能力があるのか、客観的に理解できたことだと思います。異国の地、世界中から優秀な人達が集まる環境で揉まれることで「自分もまあまあ行けるんじゃないか」という自信がつきました。

一方で、サラリーマンを続けることの限界というのも感じました。卒業後、外資系の金融機関に行った友人の家に行った際、こうした環境は日本のサラリーマンでは手に入らないと思ったのは事実です。

−−帰国後、転職を経て起業されました。

帰国後は、社内で新規事業をやらせてもらう機会ももらいましたが、そこで迫れたのが、そのままサラリーマン人生を続けて偉くなるか、それとも外に出て挑戦するか、という選択でした。

その時に僕は、このタイミングを逃したらもう外で挑戦することはできない、と考え、転職の道を探すことにしました。いろいろな業種を受け、最終的に楽天からオファーをもらいました。その後、三菱商事とミクシィの合弁でできたネクスパスという会社に移りました。当時、社員は4人のベンチャー企業です。ここで経営に近い経験をすることができ、これなら自分でやってやろうと、起業を決意しました。

実は留学時のエッセイで、「MBA取得後5年以内に、中小企業を応援するマーケティングの会社をつくる。日本は、いい商品を持っていても、マーケティングが弱いから」と書いていたんですが、エッセイ通り、MBAをとってからちょうど5年で起業したことになりますね。

−−起業時にためらいはありませんでしたか?

ためらいはありましたよ。でも、いろいろな本で、「イノベーションを起こす人の特徴は、小さく失敗を重ねていることだ」といった内容が書かれていることを考え、「有給中の一ヶ月で起業体験をしよう」くらいの気持ちで始めました。

また、最悪、落ちるところまで落ちたらどうなるかも考えました。それでも、「死にはしない、食っていける」と。そう考えると、別に起業ってそこまで大変ではない気がします。ダメならやり直せばいいので。

−−起業してからの、具体的な話を聞かせて下さい。

私はMBA留学後、まもなく富士通を退職してしまったので、その当時の費用を会社に返済していました。蓄えもあまりなく、親にも借金して、カードローンも使って起業しました。

ネクスパス時代に、アメリカのソーシャルメディアマーケティングの調査をしていて、米国のベンチャーの「うごめいている感」を感じていました。この経験もあって最初は海外サービスを研究し、真似を続けていましたが、いっこうにうまく行かない。失敗続きでした。

−−そこから、どうやって今の事業に注力するようになったのですか?

ある日、次の事業プランを持って相談に行った先輩起業家に言われて衝撃を受けたことがあるんです。「これだからMBAはダメなんだ」って。MBAを取るということは、事業計画という「地図」を描けるようにはなっても、「想い」がなければ指針となるコンパスにはならないんだ、と。「好きなことで起業するべき」と気付かされた瞬間でした。

僕にとって、そんな想いを乗せてできるビジネスが、コンテンツマーケティングだったんです。

−−コンテンツマーケティングとは何でしょう?

一言で言うと、広告に頼らずに自分から情報発信をすることで、Web上で「見つけてもらう」というマーケティング手法です。お金がなくても、時間とやる気があればできるのが最大の特徴です。イノーバでは、企業が発信するブログ記事などのコンテンツの制作をサポートする事業を行っています。今では1400人ほどライターがいて、例えばワイン屋さんがクライアントならば、ワイン好きの人達が喜ぶような記事を書いて、Webサイトへの集客を支援します。

今では、そこから先のビジネスとして、「Cloud CMO(クラウドシーエムオー)」という、Web上でマーケティングを統括できるシステムを開発しました。コンテンツマーケティングをやっても、その先にSEOやアクセス解析をやる必要があります。個々にやっていては非常に煩雑なので、主要な機能をまとめたシステムを自社で開発しました。

−−実際に起業してみて、感じたことはありまか?

実際に起業して、今が一番楽しいと思います。苦労はありますが、自分が好きでやっていることなので、楽しさのほうが勝っています。また、大企業とは違うスピード感で働けることも魅力ですね。

−−東大生へのメッセージをお願いします。

起業に興味があり、できるだけの力があるのであれば、学生の時に起業していいと思います。アメリカで優秀な若者が起業するのも、成功すればリッチになれるし、失敗してもあまりリスクがないからなのですね。腕に自信がある人は今すぐ飛び込んでほしいです。

それでも一歩踏み込めない人は、ベンチャーや、大企業の中でもベンチャーマインドを持った会社に行くといいと思います。そこでも、多くのことを学べると思いますよ。

そして、「親の言うことは聞くな」、と言いたいですね(笑)。親とはそもそも世代が違いますし、何よりビジネスの変化が激しすぎるので、親に最先端のやりたいことを伝えても、なかなか理解してもらえないのではないかと思います。

(取材・荒川拓)

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