キャンパスライフ

2021年11月7日

教員のリアルを知って交流のきっかけに

 

教員と学生の「知らない」を減らしてみよう

 

 東大にはさまざまな専門分野の教員が所属しており、学生も文理に縛られない多種多様な分野に興味を持っている。両者の交流によって斬新で面白いアイデアが生まれ、より良い学びの場が創出される。しかし残念ながら、現状では両者の交流はあまり見られない。その要因の一つが、学生が教員に対して抱く精神的なハードルだろう。高校までは教員が身近な存在だったが、大学では教員との距離感を感じているという学生も多いかもしれない。大学では基本的に授業と研究以外で教員との交流がないために、学生は教員が他の時間をどのように過ごしているかをあまり知らない場合がある。そこで、本記事では東大教員の日々の過ごし方に注目しながら、学生と教員の交流促進につながるアイデアを提示する。(取材・清水琉生)

 

東大教員が過ごす日常

 

 今回日々のスケジュールや学生との交流に関する考えを聞いたのは、広瀬友紀教授(東大大学院総合文化研究科)、藤原徹教授(東大大学院農学生命科学研究科 )、堀昌平教授(東大大学院薬学系研究科 )、四本裕子准教授(東大大学院総合文化研究科)の4人。月別、タームや長期休暇などの時期区分別での全体的な忙しさの印象と学生との交流についてのアンケート取材などを行った。

 

 初めに月別のを尋ねた結果、夏季休暇や春季休暇の時期は比較的時間の余裕がある傾向にあった。しかし基本的には忙しく、時期によって大きな違いはなかった。堀教授からは「毎週同じ曜日、同じ時間に要件が入るわけではない」との回答もあり、当人もなかなか忙しさの予測ができる立場ではないことがうかがえた。

 

 続いて教員の普段のスケジュールについて尋ねた。学生が教員と関わる主な機会は授業と研究だ。しかし教員へのアンケート結果では、授業がスケジュールの中で占める割合は少ないというのが共通していた。現在オンライン授業が中心であることを受けて、広瀬教授からは「授業のための時間の使い方は柔軟になった部分もあるが、子どもの通う学校が休校や時間短縮となる期間が長くなり、その分家族のことに対応する時間が増えた」という意見もあり、家庭を持つ教員特有のスケジュール事情もあった。

 

 次に研究の時間だが、藤原教授によると「自分の研究でも学生と共同でやることが多いと思います。特に農学、工学や理学などは研究活動を共に行うことを通して教員が教えることも多い」という。そのため、学生との交流は研究の場がメインになっているという状況だった。この二つが学生から見た教員の主な活動だが、 実際はこの他にも大学から任命される役職や自身が所属する学会、協力している企業に関係する会議や活動を頻繁に行っている。「特に講演依頼や大学組織の会議は不定期で入ってきます」と四本准教授。 複数の組織が関わってくるために、日々の予定の中でも少なからぬ割合を占めているという。

 

現在の主な教員と学生の交流

 

身近な教員を窓口にして

 

 教員の普段のスケジュールを踏まえ、学生が教員と交流する際に意識すべきことを整理しよう。まず教員に直接何かお願いするときは、希望日時の直前というのも対応を難しくさせるが、四本准教授によると「あまりに期日から離れている場合も、会議の予定が不定期で入ることを踏まえると難がある」。したがって、希望する日時 の2〜3週間前にお願いをするのが最適だと考えられる。ただ、研究室訪問の場合は、メールなどで意欲を持ってお願いすれば柔軟に対応できるということを強調していた。これは研究が教員の予定の大部分を占めており、 基本的に決まったスケジュールで進行するものでないためだ。

 

 進路に関しての相談は公式に開催されるガイダンスへ の積極的な参加を基本としてほしいと話すが、学生の興味に関する相談は教員にとって不快に感じるものではないため、積極的にアプローチしてほしいという。また教員同士のコネクションもあるので、学生の興味と合う分野を専門としている他の教員を紹介できる可能性も十分見込めるという。教員と話してみたい時は積極的にアプローチして良く、これは興味分野がありながら精神的なハードルを感じ、消極的になっている学生にとっては朗報だ。また職位の違い(教授・准教授・講師・助教)は大学から任命される役職などについての違いが若干生じてくるのみとのことで、特に学部や学科について持っている情報に大きな違いがあるものと認識しなくて良いだろう。

 

学生が心がけること
教員との交流に際して学生が心がけること

 

教員と学生の交流で彩るキャンパスへ

 

 学生と教員の交流は進路に関する相談や研究室訪問の形をとることもあるため、研究室訪問についての取材も 行った。まず研究室訪問に来る学生の動機について聞いたところ、進学選択を控えている前期教養課程の学生の場合は、とりあえず研究室の雰囲気を見に来る場合が多 いという。個別に話ができる特徴を生かし、四本准教授 は「研究室の紹介だけではなくその他の系列学科の紹介などもしている」と話す。このことからも、前期教養課程生の場合は進路相談の性質が強い。さらに教員側の準備の都合上「グループで訪問してくれれば対応がしやすい」とも語る。

 

 一方、大学院進学希望者の場合「具体的な研究計画の情報を持たないまま、あたかもあいさつとして訪問するのが礼儀と考えていると見受けられる学生もいるが、有意義な助言ができるよう、情報はあらかじめ送ってもらえるとありがたい」と広瀬教授。対面授業がなくなったことにより、学生が教員と直に接して情報収集することが難しくなっている。この点は対面授業が増えれば、学科内での交流が増えて改善することが見込まれるが「オンライン授業の一部の側面は学生に歓迎されている節もあるようなので、今後は対面形式とのいいとこ取りも模索しても良いかもしれない」と広瀬教授は続けた。

 

研究室訪問のあれこれ

 

 学生から教員に連絡を取る手段としてはメールが一般的だが、この方法にもまだ課題がある。広瀬教授によると「授業のオンライン化を機に、メールアドレスをシラバスに記載することが以前より強く促されている」とのことだが、現在は全ての教員が記載しているわけではないからだ。この点は、現在東大が一部教員のメールアドレスなどを前期教養課程学生向けにUTAS(東大の学務システム)で公開している「学習アドバイス制度」を拡大し、全教員を網羅することなどで対応ができるだろう。

 

 これらの学生と教員の交流は、学生にある程度興味分野がある前提やメールのやりとりなど、学生側の負担が大きいと感じる人もいるかもしれない。それでは、教員と気軽に交流できる機会がガイダンス以外に全くないか というとそうではない。例えば、主に前期教養課程生対象となるが、教員側が自分の研究分野について紹介する教養学部総合自然学科主催の「駒場サイエンス倶楽部」 のセミナーが不定期で開催されている。「さまざまな分野に触れてみたいという学生は積極的に参加してほしい」と四本准教授は語る。こういった活動について知り、 教員との交流の取っ掛かりとしていくのが学生にとって負担の少ない方法なのではないだろうか。

 

駒場サイエンス倶楽部(対面)

 

 しかし雑談などを通してのくだけた交流というのはまだ以前ほど盛んではない。四本准教授は学生時代「中国語の担当教員の家にクラスの友人と遊びに行ったり、一緒にスキー旅行したりしていました」と語り、現在ではあまり見られない学生と教員の交流があったことがうかがえる。広瀬教授も「オンライン中心では用件についてのみの会話に留まり、あえて意図的にフリーに会話する時間を設けるなどしない限り自由な会話は難しいという印象」だという。その対応策として広瀬教授は「不定期で座談会を開催したりSlack(ビジネス向けのメッセージアプリ)を通して所属学生の横のつながりを促進するグループを作ったりして交流の端緒としている」が「あえて教員は入れない設定にしてもらっているので、交流の効果のほどは時間がたって初めてわかるものかもしれない」という。

 

 現在、教員が学生との交流についてどのようなことを考えてどんな対応をしているか、もしくはしたいと考えているのか、学生が十分に知ることは難しい。それは教員側も同じである可能性がある。藤原教授は、前期教養課程生向けの学部持ち出し授業を考えるに当たって「駒場の学生が求めているものと、こちらが知ってほしいことには齟齬(そご)があるのかもしれないという不安がある」と語り、広瀬教授は「学生が今の教員との交流についてどのように考えているか知りたい」と話す。つまり学生の考えは教員に伝わり切っておらず、教員は学生の率直な声を望んでいる。そのため学生と教員の交流を活発にするには、さまざまな機会に学生が意見を積極的に発信することも重要となるだろう。学生と教員の活発な交流に よって両者にさまざまなインスピレーションや人脈が生まれ、刺激に富んだキャンパス環境が実現するはずだ。

 
取材に協力いただいた教員方

広瀬 友紀(ひろせ・ゆき)教授(東京大学大学院総合文化研究科)

99年米ニューヨーク市立大学博士課程修了。Ph.D.(言語学)。電気通信大学助教授(当時)などを経て、17年より現職。

 

藤原 徹(ふじわら・とおる)教授(東京大学大学院農学生命科学研究科)

92年東大農学研究科博士課程修了。博士(農学)。生物生産工学研究センター准教授などを経て、10年より現職。

 

堀 昌平(ほり・しょうへい)教授(東京大学大学院薬学系研究科)

98年東大薬学系研究科博士課程修了。博士(薬学)。理化学研究所統合生命医科学研究センターなどを経て、16年より現職。

 

四本 裕子(よつもと・ゆうこ)准教授(東京大学大学院総合文化研究科) 98年東大文学部卒。05年米ブランダイス大学大学院博士課程修了。Ph.D.(心理学)。慶應義塾大学特任准教授などを経て、12年より現職。

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