COLUMN 2020年8月11日

専門知識を大学で深める 高専→東大という選択肢

 高等専門学校(以下、高専)を卒業して東大に編入学する学生が一定数いることを知っているだろうか。例年東大編入学者を輩出する明石工業高等専門学校(以下、明石高専)の進路担当者や、高専卒業後東大に編入学した東大生に話を聞き、高専と編入学の実態に迫った。

(取材・米原有里)

 

実践力を効率的に身に付ける

 

 高専は高等教育機関に分類され、高専生は中学卒業後の5年間で専門的な教育を受ける。明石高専進路指導委員会の穐本浩美委員長は「高専は、上の学校へ進学するための準備をする学校ではなく、卒業後に社会に出ることを想定した教育、すなわち完成教育を行う学校です」と話す。

 

 高専では、5年の本科を卒業すると準学士の学位が与えられ、専攻科(本科卒業後、さらに2年間のより高度な技術教育を行う)修了で学部卒に相当する学士の学位が与えられる(図1)。しかし専門知識と技術力においては、高専の本科卒でも学部卒相当あるいはそれ以上となるように、教育方法が工夫されている。高専のカリキュラムは「くさび形」と呼ばれ、1年生では一般科目の授業が多く、学年が上がるにつれて専門科目の比率が大きくなっていく(図2)。「一般科目と専門科目が並行して進んでいくことによって、効率的に学習することが可能になります」


 

 実際、高専の本科で学ぶ5年間で取得する専門科目の単位数は大学の学部に相当する(図3)。一方で、5年間で学部相当の専門教育を行う代わりに、国語や社会などの一般科目を「犠牲にしている」面もあるという。

 

 また、高専の教育の特徴として早期専門教育が挙げられる。「早くから専門教育を施すことは入学時から専門的学習への意欲が高い学生の実力をさらに伸ばすとともに、頭が柔らかいうちにエンジニアとしてのセンスを養う狙いがあります」。さらに、高専では実験や実習の授業に多くの時間を取っていることも特徴的だという。「教室で学んだ理論や現象について理解を深め、実践力を身に付けていきます」

 

 高専本科を卒業後、身に付けた技術や知識を生かし各学科の特性に応じた産業分野に就職する学生もいれば、学部3年次(東大・京大では2年次)に編入学する学生もいる(全国の高専本科卒業生の進学率が約40%で、明石高専は進学率が60~70%)。東大では、現在は工学部のみが高専出身の編入学生を若干名受け入れており、毎年15人前後の学生が編入学する。

 

 「普通高校の出身者と比較したとき、高専生の強みは実験・実習によって体験的に学んでいる点だと思います」。高専生は、頭で考えるだけでなく、実際に手を動かそうとする行動力・実践力を社会やアカデミアなどそれぞれの道で生かしている。

 

編入学者の声

手動かす経験強みに

 

・深山和浩さん(機械情報工学科・3年)

 

 寮があることや、興味を持っていたロボットについて学べることから高専に進学した。高専では電子制御工学科に所属し工学について広範に学んだという。

 

 高専入学当初は卒業後就職するものと考えていたが、教員からの紹介で大学への編入学という選択肢があることを知った。実際に編入学を意識し始めたのは4年生の時。編入学を目指す友人の影響で、自身も編入学を決意したという。

 

 編入学に当たってさまざまな国公立大学を検討した。中でも一番良い教育を受けられそうであることと、2年次から編入学でき、より大学生活を楽しめる思ったことから東大を第1志望として目指すことに。編入学試験のために、過去問や問題集をひたすら解き、勉強時間は1日10時間にも及んだという。

 

 東大に入学後、2年次Sセメスターは駒場キャンパスで前期教養課程の学生に交じり授業を受けた。「高専ではあまり学べなかった世界史など文系の授業も取れて、刺激的でした」

 

 2年次Aセメスターからは機械情報工学科でロボットについて学んでいる。授業の進度が早く大変である一方、レベルの高い教員や友人たちに恵まれ、充実したプログラムにも参加できて、東大に来て良かったと話す。

 

 高専で実践的な授業を受けたことによって得たものづくりの感覚は東大編入学後も役立っているという。「実際に手を動かして学んだ経験を積んでいることは、論理を学ぶ際にもそれが実世界でどのような働きをしているのか理解するのに役立ち、高専生の強みだと思います」

 

・Mさん(精密工学科・3年)

 

 富山で生まれ育ち、地元の高専に進学した。中学生の頃は数学と物理が得意で、英語と国語が苦手だったため、自分の長所が生かせると思い選んだ進路だった。機械工学科を選んだが、もともと機械に特別興味があったわけではなく、高専で学ぶ中で機械工学の楽しさに気付いたという。

 

 入学した当初は将来の進路を意識していたわけではなかった。卒業生の6割が就職するような母校だったが「このまま社会に出るには力不足だ」と感じ、3年生の終わりに大学に編入学することを決意した。

 

 高専では機械工学を学んだが、電気工学など関連する分野の知識も身に付けたいと思い、工学の広い範囲を学べる東大精密工学科を第1志望に据えた。入試の試験科目は英語・数学・理科の3科目。特に英語は、高専の授業だけでは足りないため集中的に勉強したという。「塾や模試もない中自分で勉強するしかなく、勉強方法に不安を覚えることも多かった分、合格を知った時は感無量でした」

 

 現在は機械工学を中心に、機械を動かすために必要な知識を広く学んでいるという。「高専で得た知識を土台にして、さらに高度な内容を学んでいます」。東大生には頭の回転が速い人が多く、刺激を受けて過ごしていると話す。

 

 将来はメカトロニクスを中心に研究を深めたいというMさん。機械の面白さを知ることができたと、高専を振り返る。「高専には問題を的確に捉えてすぐに解決できるような、工学的センスに長けた人が多いです。悩むよりも手を動かして行動できる人たちです」


この記事は2020年7月21日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナルの記事を掲載しています。

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研究室散歩@社会心理学 唐沢かおり教授(東京大学人文社会系研究科)
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