インタビュー

2015年7月4日

エリートは発想力と創造性を鍛えよ。くぼたつさんインタビュー1

本格的な就職活動シーズン。学生にとっては、人生をかけた決断の時期だ。就活は自己分析を繰り返すなど、「自己」ベースでやることが重要な一方で、「社会」の時流に乗ることも大切だ。あなたが見ているその業界、今はよくても、未来はどうなのか。学生はどのような未来予測のもとで、今を決断すればいいのか。今回は、サンリオ、東急ハンズ、東京ディニーランドなどの開発業務に関わった、「伝説のプランナー」であり、今では教育にも携わる「くぼたつさん」こと久保田達也さんに話を聞いた。

久保田さんアロハ.jpg

――久保田さんは、幼少期はどのように過ごされたのですか。

通知表は悪くて、1と2ばかりでしたよ。学級での仕事も、「飼育係」という目立たないものでした(笑)そんななか、同級生でスター性がある子がいました。小・中学校と学級委員を務め続け、高校でも生徒会長を務めるような子です。 尊敬していたその彼と、ひょんなことから長じて再会します。

僕が企業の講演会に呼ばれるようになった30歳半ばのころ、ある大手企業の地方支店で講演をしたときのことです。ホテルで休んでいたら、その彼が挨拶に来たのです。講演を聞いていたその企業の社員だったんですね。 僕は、優秀だった彼がなぜこんな地方に飛ばされているのだ、と憤りまして、企業幹部に、「どうして彼のような優秀な人材をこんなところで遊ばせているんだ!」と食ってかかり、その彼は無事に東京本社に戻ることになりました(笑)。

コンピュータの持続的な発展を前提に、我々はどう生きるかを真剣に考えた方がいい

超優秀だった彼が、大手企業に入社後、くすぶっていたんです。 彼の能力を正当に評価し、育てていくことができない企業にも問題がありますが、人材論でいえば、学業面で優秀な方ほど、目先の実績を追いかける傾向があります。ですが、目の前にあるものは動いている。回転する歯車を考えればいい。歯車のうち、仮に頂点部分に今自分がいたとしても、時間の経過と共に回転し、下ってゆくということがあるんです。将来、その歯車がどうなるかを真剣に考えた方がいい。

社会経済というのはグルグルと歴史が繰り返しているように思われがちですが、実は螺旋状に進化しているんです。似ていても前回の事例は参考にならない。だから過去は過去として参考にしつつ、まったく新しいことに挑戦するつもりで従事しなければ、取り残されるだけなんです。 コンピュータ、AI(人工知能)はこの数年で急速に普及します。AIは正解を瞬間的に探し出す機械です。人間が記憶力と即答力をいかに磨こうとも勝てる訳がない。その解答マシンがパソコンのように一人一台普及する時代が迫っている以上、10年以内に現存の仕事の40%がなくなるのはさけられないでしょう。これからは、人間にしかできない事は何かを考え、備えることが重要な時代になっているのです

IQではなくCQ

IQ(Intelligence Quotient、知能指数)という指標があります。私はこれを、一つのことを最短で答える能力だと定義しますが、同時にこの仕事効率は、人間がAIに絶対に勝てないことを意味します。それよりも、いわゆるCQ(Creative Quotient、発想指数)、つまり一つのことからどれくらいたくさんのことを連想できるか、という創造性の能力の方が大切です。それこそがAIにできなくて人間が得意なことだからです。AIを上手に扱う想像力の持ち主が時代のリーダーとなることは間違いないでしょう。

従来型の暗記型の旧日本教育は、AIを道具としてコントロールできる創造性教育へと変わっていくでしょう。実はアメリカの伝統校はそれにいち早く気づき、すでに教育の改善を進めています。大学や研究機関の枠を超えて、広くTEDなどに見られる個人の自立研究成果発表の場が社会的評価を受けている。そんなこともありアメリカの伝統校は日本の有名大学の提携を見直しつつあります。東大早慶といった日本の一流大学でさえも提携の見直しを余儀なくされているのです。文部科学省の教育ビジョンには「本気で学問してない大学は今後承認せず」としています。大学教授は今後、国際基準で教育者能力を評価されることになるでしょう。

AIには決してできない「創造力を伸ばす教育」を

優秀な頭脳とやる気を持つエリートにこそ、創造性教育が必要です。人間が育んできた知識・情報から瞬時に正答を導き出す人工知能が登場するのですから、世の中をリードするエリートとしては、人工知能を何に使えば社会は幸せになるのか、導き出された結果から次にどう進めばいいのかを創造する人材になることが求められる。そのための教育体制、教員、教材はまだまだ未成熟ですけどね。

そんななか、私は想像力向上はどうすれば伸びるのかと独自研究してきました。私立中学高校、専門学校、大学、大学院、社会人ビジネススクールで創造性講義を30年間やっているのですが、ここ2年間は驚く事に、暗記型授業では目立たなかった、潜在能力のある学生達が一気に頭角を現してくるのを毎日みているんですよ。ほんとに驚きの連続です。

40代前後の親世代のなかにも、社会経験から日本の普通教育を受けてもいても通用しないと気づいている方が増えてきて、我が子に想像力をつけてくれる学校を探しているのが水面下で激しくなりつつあるのです。 これからの教育は、AIができることは教えても意味がないと見切り、「考えさせる教育」が主流になってゆくでしょう。

―――

AIの登場と圧倒的な普及によって変わりゆく時代に、教育はどう対応するのか。来るべき時代では、どういった「人材」が輝くようになるのか。

今を生きる私たちは、何を考慮に入れて行動するのか。目先の実績に惑わされない目を持つために、水面下で変わりゆく社会に対応するために、各自の試行錯誤が求められている。

くぼたつさんによる白熱教室は、後編に続く。

(企画・文 沢津橋紀洋)

タグから記事を検索


東京大学新聞社からのお知らせ


recruit

   
           
                             
TOPに戻る