2025年7月25日、鉄道ワークショップ2025が東大生産技術研究所(生産研)次世代育成オフィスと東京メトロによって開催された。「鉄道ワークショップ」は、中学生や高校生を対象に実施しており、生産研と東京メトロが連携してほぼ毎年行っているもので、今回で11回目を数える恒例企画だ。
今回の鉄道ワークショップ2025は、駒場Ⅱキャンパスでの鉄道に関する講義に加えて、東京メトロの総合研修訓練センターで実習線の見学や鉄道ダイヤ作成実習が行われた。
参加者は、事前に申し込み選考で選ばれた中学生28名と高校生30名の計58名となっており、中学生コースと高校生コースに分かれてそれぞれプログラムを楽しんだ。今回は、記者が高校生コースに同行し、取材した。 (取材、撮影・吉野祥生)
午前 駒場での講義とグループワーク
朝9時半。全国各地から集まった高校生の参加者たちが駒場Ⅱキャンパスに集結し、いよいよプログラムスタートだ。緊張する雰囲気もそこそこに、午前中の目玉である本間裕大・准教授(生産研)の講義が始まる。数理最適化を用いて交通施策シミュレーションなどについて研究している本間准教授。今回は鉄道における数理最適化を生かした、「都市と鉄道の『繊細』な関係―システムダイナミクス入門―」というテーマで講義を行う。

首都圏の鉄道に乗車していると、「後続列車遅れのため、当駅で少々停車します」というアナウンスを聞くことがあるだろう。どうしてそのような時間調整が必要なのだろうか。今回の講義では、ひとたび数分の遅延が発生した際、先行列車が時間調整を行わないと遅れがどのように連鎖していくかについて考察した。駅で電車を待つ乗客が時間当たり一定に増加し、乗客の数と乗降時間(列車が停止してから発車するまでの時間)が比例するなどの仮定をおいたモデルを使うと、簡単な漸化式によって列車の遅れを表現することができる。

漸化式を用いて遅延時間を「くもの巣図」と呼ばれるグラフで表現すると、駅に停車するごとに列車がどんどん遅れていく様子が見て取れ、しかも遅延時間が線形ではなく指数関数的に増えていく様子は、参加者も興味津々だった。もちろん列車の遅延には複合的な要因が影響するため、現実とモデルが完全には一致しないが、学校で習う漸化式が実際に使われている例に興味が湧いたことだろう。特に高校1年生の参加者は漸化式が未習であり,概念から理解することが求められたため良い学びの機会となったようであった.
講義の後は、少し違うテーマに。ここではグループワークで、東京メトロの路線を再構築することを目指した。参加者の前には、現在の東京メトロの路線図から路線をすべて消去し駅だけがプロットされた図が用意された。その図をもとに、各駅の乗降人員や乗客の流動を考慮して、より便利な東京の地下鉄路線を再構築しようという試みだ。条件はただ一つ、廃駅が出ないこと。各班に配布されたパソコンを使い、データに基づいて最適な路線の引き方をプログラミングを用いて検討した。パソコンの中で動いているのはまさに数理最適化の問題だ。

ただし、東京メトロの全駅数は180にもおよび、路線が自由に組めるとなれば、パターンをすべて検証することなど不可能だ。ここで、参加者の鉄道の知識が試される。「東京駅に乗り入れる路線が増えたら便利」「私鉄から乗り換えて高田馬場から大手町へ向かう人が多い」など参加者から議論が飛び交い、路線の骨格が出来上がってきた。最後は数理的な手法を用いて改善しつつ、各班とも路線図を完成。全体で工夫した点などを発表し、斬新なアイデアに笑いが起こる場面もあった。一方で、東京の地下鉄網が現状でも概ね最適化されていると実感した参加者も多いはずだ。

駒場の講義はこれにて終了。一行はバスで新木場へ向かった。
午後 お待ちかねの研修センター見学
午後は、新木場の総合研修訓練センターの見学だ。こちらは普段一般の人が立ち入れる場所ではないため、今回のプログラムの目玉だ。まずは、鉄道のダイヤ作成実習からスタート。現場で「スジ屋」としてダイヤ作成に当たっている東京メトロ社員が、鉄道のダイヤ作成の説明を行い、参加者がワークシートで実践する形だ。基本的な運転時分はもちろん、折り返し駅での交差支障などにも注意して現実的なパターンダイヤを作成する。さらに、ダイヤ作成上の苦労などここでしか聞けない貴重な話に参加者も満足そうな様子だった。


ダイヤ作成の後は、実習線見学へ移る。実習線は、社員の技能実習及び異常時の訓練などの目的で作られた模擬路線のこと。駅はほぼ実物を再現して作られているうえに、列車も営業運転で使用中の車両が訓練で使用されている。実際の駅を模した「センター中央駅」を見学し、営業駅とは一味違う雰囲気のホームを体験できるまたとない機会となった。訓練用の施設であるため、普段はできないことも体験できるのが嬉しいところ。社員の誘導のもと、参加者はグループに分かれて体験をしていく。
最初は、ホームに設置してある訓練用の非常停止ボタンを押す体験。実際の駅で押すべき場面に遭遇することは少ないが、訓練用ならお構いなし。ホームにけたたましく警報が鳴り響くものの、営業列車が止まることはない。

続いては車掌になりきる体験だ。停車しているかつて千代田線を走っていた車両に乗り込み、実際にいわゆる「乗降促進メロディ」を扱ってからドアを閉める。シミュレーターではなく本物の操作ができるのは、車掌にならない限りもう二度とないだろう。ドアの開閉操作には少しコツがいるものの、目を輝かせながら体験を行っている参加者の姿が印象的だった。そして、アナウンスを体験することも。もちろんアナウンスは3両編成の車両すべてに聞こえる。ここでは何を言っても自由なので「多摩急行唐木田行きです」などと、懐かしい列車のアナウンスをしている参加者も。慣れないアナウンスに、はにかみながらも思い思いの時間を過ごした。また、乗務員の操作によって自動音声の定型文が放送される、いわゆる「メニュー放送」についてもリクエストがあり体験をすることに。メニュー放送には多数の状況に合わせたパターンが収録されているが、めったに聞けないアナウンスも多く、一同大興奮。鉄道ファンには嬉しい体験となった。

最後に懇親会を行い参加者と社員が交流してイベントは終了となった。午前中の講義の際には、見慣れない数式に困惑の表情を浮かべていた参加者も、グループワークやダイヤ作成実習、そして訓練線見学ですっかり笑顔になり、打ち解けた様子だった。大学の社会連携が重要視されるいま、東大の学問的な知を東京メトロの現場の知と融合させて行われた今回のイベント。参加者はどちらか一方だけでは得られない収穫があったに違いない。来年以降の開催も楽しみだ。

ワークショップ運営に携わった東京メトロ、東大の担当者の言葉
──徳本有紀准教授(東大生産技術研究所)
本間先生は数理モデルや、都市と交通、建物をキーワードに研究されているので、鉄道も守備範囲かと思います。ダイヤ作成という鉄道ネットワークの根幹となるようなところにも数理モデルが応用できるということで、今回鉄道ワークショップでは初めて登壇してもらいました。参加者も数理モデルというダイヤだけでなく、他のさまざまなことに応用できるような考え方に触れることができたのが良かったのではないでしょうか。
──堀敏賢課長(東京メトロ広報部 社会・地域コミュニケーション課)
去年までアンケートも含めて、ダイヤとか乗務員の仕事に関する希望が結構多い部分もありましたので、今回の内容になりました。午前中の講義も含めて、すごくいろいろなことを学んで吸収してくださったのではないかなと思います。午後も施設見学も含めて、楽しんでいただけたのではないかなと思います。

参加者へのインタビュー
──午前中の講義の感想を教えてください
科学技術を使った細かい数式のもとで、ダイヤが計算されているのは少し難しかったのですが、改めて考えれば勉強になったと思います。
──路線図を使ったワークショップで工夫した点はありますか
ただ現状の路線を書くだけではなく、乗り換えが1回で済むようになることを考えて、環状線などいろいろな方法で工夫してできたと思います。
──訓練線見学で印象に残った体験は
一般では押すことがないので非常停止ボタンを押す体験です。
──全体を振り返って感想を教えてください
僕は鉄道が好きで、通学途中の駅に張り出しがあったので、応募してみようと思いました。進路を決める際に役に立つと考えて応募したので、本当に今回は貴重な体験になったと思います。












