受験

2021年12月21日

【受験生応援】高橋宏知准教授に聞く、受験勉強と音楽の関係

 

 予備校の自習室やカフェで音楽を聴きながら勉強する受験生を目にしたことはないだろうか。勉強中に音楽を聴くと実際に学習への影響はあるのか、聴覚野の情報処理などを専門とする高橋宏知准教授(東大大学院情報理工学系研究科)に話を聞いた。(取材・石橋咲)

 

「心地よい」と感じる音楽を

 

━━聴覚情報は脳のどの領域で、どのように処理されますか

 

 音は空気の情報として鼓膜を振動させ、その振動は蝸牛(内耳の器官)に伝わります。蝸牛では振動が電気信号に変換され、聴神経を通して蝸牛神経核から脳の脳幹という領域に入ります。その後、6〜7カ所で中継されて脳幹の視床から大脳皮質の一次聴覚野という領域に入り、そこで初めて音の情報が意識に上ります。

 

━━勉強中に音楽を聴くと学習効果への影響はありますか

 

 1993年、モーツァルトのピアノソナタを被験者に聴かせた後にIQを測ると8〜9ポイント上昇したこと(モーツァルト効果)を報告する論文が『ネイチャー』という雑誌に掲載されました。それに続いてマウスにモーツァルトの曲を聴かせると空間認知能力が向上したという論文が出されたり、逆に「モーツァルト効果」を否定する論文が出されたりと論争を呼びました。

 

 音楽が知性に良い影響を及ぼすのかどうか、またその原因については諸説あるというのが正しいですね。「音楽を聴くと頭が良くなる」という考えは魅力的であり、ビジネスなどに悪用されることが多いのも事実です。宣伝文句にも使われる「モーツァルト効果」ですが、実は最初の論文にはその効果は10分程度しか持続しないとも書いてあります。

 

 音楽を聴くと心地よく感じますよね。僕自身音楽は知性に訴えかけるというよりは自律神経系を整えるような役割があるのではないかと思っていますし、現在ではその考えが支配的です。

 

 自然界で発生する音の振幅や高さは1/f(fは周波数)の傾きの「ゆらぎ」を持っていて、脳は1/fでゆらいでいる音に対して良く反応することが知られています。多くの音楽のメロディーラインも1/fでゆらいでいるので、音楽を聴くと安心感を得て心地よく感じるのだと思います。メトロノームなどの予測できる音や逆にホワイトノイズのように全く予測できない音を聴いても心地よくないですよね。それらの中間が1/fでゆらぐ音であり「予測できるけれども完全に予測できるわけではない」というところにも人間は快感を覚えます。

 

 音楽については著書『メカ屋のための脳科学入門 脳をリバースエンジニアリングする』、2022年1月14日に出版する『生命知能と人工知能』の中でも触れているので、そちらも読んでみてください。

 

 最近の研究では、音楽にはドーパミンを放出させる「報酬効果」があることも報告されています。脳で報酬系(快感を引き起こす脳内のシステム)が活性化する度合いとどの程度その音楽が好きかは関係します。なので、音楽には自分へのご褒美という側面もあるでしょう。一方で好きでもない音楽を聴いていたら「邪魔だ」と感じますよね。同じ音楽でも「心地よい」と感じたり「邪魔だ」と感じたりするのは人それぞれなので、特にこのジャンルが良いということはなく、好きな音楽を聴いて気分を上げたり落ち着かせたりすれば良いと思います。

 

━━受験生にメッセージをお願いします

 

 自分の実力を出せるかどうかには、そのときの脳や体の状態が関係します。例えばスポーツ選手が試合の前に好きな音楽を聴いてテンションを上げる、ということがよくありますよね。緊張状態の中で、いつも聴いている音楽を聴いて脳の状態を整えるのは良いことだと思います。とはいえ試験を受けるときには静かな状況ですから、緊張感も楽しみつつ実力を出し切ってください。

 

高橋宏知(たかはし・ひろかず)准教授 (東京大学大学院情報理工学系研究科) 03年東大大学院工学系研究科博士課程修了。博士(工学)。東大先端科学技術研究センター准教授などを経て19年より現職。

 

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