文化

2023年9月22日

【気軽に入れる出会いと挑戦の場 しゃべランチの世界へようこそ】 ①概要・教授としゃべランチ編

 

 昼休みの時間に行われている「しゃべランチ」を知っているだろうか。昼食をともにしながら他の学生や教員などと対話をするイベントで、いくつかの種類がある。新型コロナウイルス感染症の影響で規模が縮小されていたが、徐々に再始動している。今回、しゃべランチの運営に携わる人々を取材。しゃべランチの種類や、それぞれで「しゃべる」内容、魅力を探った。(構成・山口智優、取材・山口智優、金井貴広、丸山莉歩)

 

学生間のより広いつながりを求めて

 

細野さん
細野正人(ほその・まさひと)高度学術員
(東京大学大学院総合文化研究科)
公認心理士・精神保健福祉士。駒場学生相談所特任助教などを経て、22年より現職。精神科リハビリテーション、社会福祉研究に従事している。学生支援課や学生と連携し、しゃべランチの計画や広報を担っている。

 

 本年度Sセメスターに開催された主なしゃべランチに「手話でしゃべランチ」と企画系しゃべランチ、「フランス語でしゃべランチ」がある(表)。

 

 「手話でしゃべランチ」は、2007年にバリアフリー支援室が開催した手話講座が好評を博したことがきっかけだ。09年には本郷キャンパスで「手話でしゃべランチ」が始まり、本郷と駒場で対面開催されるようになった。20年からコロナ禍を経てオンライン開催となり、現在に至る。

 

 企画系しゃべランチには、教員と対話する「教授としゃべランチ」などの種類がある。16年から細野正人さん(東大総合文化研究科)らが運営を始めた。コロナ禍で休止を挟み、本年度は日替わりのテーマでしゃべランチを行う、1週間の「しゃべランチWeek」という形で復活。しゃべランチの時間的制約の克服のために、6限の時間を利用したしゃべらナイトも始めた。

 

 「フランス語でしゃべランチ」などの言語系しゃべランチも細野さんらが16年から駒場で開始。英語や中国語、スペイン語など7言語で展開されたが、多くはコロナ禍で休止状態に。フランス語はアガエス・ジュリアン特任准教授(東大大学総合教育研究センター)の運営で続けられ、オンライン開催を経て昨年度から対面に戻った。

 

しゃべランチの実施状況
(表)しゃべランチの実施状況(取材を基に東京大学新聞社が作成)

 

 企画系しゃべランチなどのオーガナイザーである細野さんは、運営を始めた意図に学生のより広い交流の促進があると話す。東大には一学年に3000人ほどの学生がいるにもかかわらず、関係性がクラスや科類、サークルなどの内部にとどまり限定的になってしまいがちな状況を惜しく感じたのだ。また、学生が孤独に悩むことを防ぐ目的もあったと話す。「精神科病棟での勤務などを通して、重篤なメンタルヘルスの問題を抱えている人を数多く見てきました。孤独予防の重要性を実感し、今、健康に問題がない人でも集まれる場があると良いと考えました」。時間帯は大学生の予定が空いていて集まりやすい昼休みに設定した。

 

 開催してみると、想定に反して元気な学生が多く集まったと細野さんは話す。教授としゃべランチでは学生と教員との活発なやり取りが行われたほか、言語系しゃべランチでは各言語で積極的かつハイレベルな活動が展開された。「本来意図した方向性とは少し違った形で成長していますが、それはそれで自然な流れだから良いことだと思います」

 

 しゃべランチの開催などについてリクエストがあれば、企画の立案側に回って実現させることも可能だ。学生支援課に問い合わせることで、細野さんらと連携し、しゃべランチの企画・運営を行うことができる。

 

 細野さんは、しゃべれなくてもいいから足を運んでみてほしいと話す。「同じ場でご飯を食べているうちに、新たな人間関係が生まれたり、新たな学びが得られたりしたら良いと思っています」

 

教授としゃべランチ──せっかくの「生きる教科書」活用しなくちゃもったいない

 

教授としゃべランチ

 

 教授としゃべランチでは、駒場の教員を招き、教員と学生が対話を行う。最初の10分ほどは教員の自己紹介や研究内容の紹介で、その後は教員の質問と学生の応答を軸にした対話が進んでいく。講義形式の授業のように教員が前に立って進行をするが、学生とのやり取りが中心となる。

 

 テーマは、その教員が20歳ぐらいの時に何をしていたのか、また最終的になぜ研究者になったのか、なぜその分野を選んだのか、などだ。未知の分野に関する話題にも学生が参加しやすくするため、特別な予備知識がなくても理解できるような話がされるようになっている。

 

教授としゃべランチの会場
初年次活動センターの内部。ここで「教授としゃべランチ(しゃべらナイト)」が行われている(画像は細野さん提供)

 

 細野さんは、教授としゃべランチを通して学生と教員との交流の促進を図っている。例えば文系学生が理系の授業を取るのはハードルが高く、結果的に理系の教員とは接点がないままであることも多い。また、大教室で行われる授業でも、学生が教員と話をすることは少ない。細野さんはこの状況をもったいないと考えた。「駒場Ⅰキャンパスには文理を問わず世界レベルの教員がいます。せっかくのたくさんの『生きる教科書』をもっと活用したほうがいいと思って始めました」

 

 印象的な回として「教授としゃべランチ 大鬼の納涼祭」を細野さんは挙げる。授業がハードなことで有名な教員を招き開催したものだが、会場の初年次活動センターが満員になるほどの学生が集まった。「授業を取ろうと思うとなかなか勇気がいりますが、先生の研究分野に関心があり、話を聞いてみたいという学生は多かったのです。驚きを受けたので、同様の企画はまたやりたいと考えています」

 

 「1、2年生から幅広い分野の研究者と気軽に話すという経験は、東大生でなければ得られません」と細野さんは話す。学生は教員が冷淡だと誤解しがちだと細野さん。「しゃべランチに来る先生方は、非常にプライベートな体験を話してくださることもあります。先生方の多様な生き方に触れて、学生生活の糧にしてくれたらうれしいです」

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