
地方の人口減少に伴う労働力不足による産業の疲弊は、全国的な課題となっている。そんな中、大学に求められる役割は何か、持続可能な地方創生政策の展望は。AI技術の実装に現場で挑戦してみて感じたこととは。愛媛県の濱里要副知事と、愛媛県でAIによる真珠の仕分け効率化の実装に挑戦中の株式会社ARCRA勝駿介さんに話を聞いた。(取材・田中莉紗子)
「人口減少に適応するフェーズへ」 三方よしの精神に基づくデジタル推進事業
──地域課題解決を図るために地方自治体が大学などの研究機関と連携する事例が増えていますが、大学と連携する意義は何ですか。その際に意識していることはありますか
現在地方はさまざまな地域課題を抱えていますが、人口減少問題は、地域の担い手がいなくなるという点で、他のあらゆる地域課題の前提問題ともなっています。この状況下での地域課題の解決には、地域の総力を挙げて取り組む必要があり、大学との連携もその一環として位置付けられます。
また、大学には地域産業を担う人材育成の役割も期待されます。そうした観点から、愛媛県では、デジタル人材育成に関して大学との連携を推進しており、県内の大学と協定を結び、デジタル人材育成のための学部や専攻を設置する場合に設備費用などの補助をしています。加えて、AI人材の育成などに関し東京大学松尾・岩澤研究室との連携を進めており、特にデジタルのような先進的な分野では、大学との連携は非常に効果的だと考えています。
大学との連携に当たり意識していることですが、地域課題の解決に当たり大学にその役割をより効果的に担っていただくには、大学と地方自治体がある程度同じ問題意識を持った上で具体的な協働を進めていくことが重要だと考えています。その観点から、愛媛大学とは「連携推進会議」を開催し、デジタル以外も含むさまざまな分野での連携を調整するほか、大学と県の幹部同士での意見交換も定期的に実施しています。また、先ほどデジタル人材育成に関し申し上げたように、必要に応じ施策の裏打ちを伴いながら進めていくことは、連携の実効性の向上につながるものだと思います。
──ローカルな視点から見て、特にどのような点を解決すべき課題と認識していますか
様々な課題がありますが、一つは他の解決すべき課題の前提にもなっている人口減少問題です。ただ愛媛県に限った話ではないですが、第三次ベビーブームが起きなかった時点で、人口減少の大きな流れ自体に抗うのは難しくなっていることも事実です。妊娠・出産や子育て支援などの取り組みは引き続き進めていく必要がありますが、同時に人口減少に適応していく取り組みも求められるフェーズに入ってきています。国も6月に閣議決定された「地方創生2.0基本構想」において、人口規模縮小への適応策を講じていくとしています。その前提で、先ほども申し上げましたが、地域の総力戦で地域課題の解決に取り組む必要があり、愛媛県では、今後は、県庁で政策を企画立案した上での民間との連携だけではなく、政策の企画立案段階から民間側にも参加してもらい共に政策を作り上げていくという官民共創の取り組みも進めていきたいと考えています。現在、県庁の第二別館の建て替えをしていますが、その中に官民共創のためのスペース「E:N BASE」を開設する準備も進めています。
もう一つは防災・減災、国土強靭化です。南海トラフ地震が発生すると、地震による揺れそのものの被害に加え、南予地域では津波がすぐに到達し、東予・中予地域でも海沿いの海抜が低い地域を中心に浸水被害が想定されています。
こうした対策を進めながら、地域経済の活性化を始めとする他の諸課題にも取り組む必要があるところです。
──真珠産業とスタートアップの連携には、愛媛県産業技術研究所も参画していますが、どのような役割を果たしましたか
愛媛県の産業振興に結び付く研究を行う産業技術研究所は、日頃からの地域の事業者とのネットワークを活用し、スタートアップとの間をつなぐ役割を果たしました。この事業は本県が推進する「トライアングルエヒメ」の一環として進めている事業ですが、第1次産業をテーマとする事業の中には、デジタルの力で、熟練従事者の経験に依存している作業の属人性を縮減するという趣旨のものが他にも多くあります。技術と現場の双方を理解できる立場として県の研究機関が間に入ることで、暗黙知的な部分を言語化し、デジタルの世界に落とし込む過程が円滑化できた部分はあったと考えます。また、AIによる評価を行う際のデータ収集や、AIによる品質判定と従来の目視による品質判定との差の検証への協力などの点でも、産業技術研究所の技術力が生かされました。
──愛媛県が、「トライアングルエヒメ」を開始した経緯はどのようなものなのですか。これまでの実績や今後の取組方針についても教えてください
本県の中村知事が5G技術による世の中の大きな変化を予想し、デジタル技術の活用に先手を打って取り組むことにしたのがきっかけです。その際、民間の力も取り入れながら進めていこうとの方針から、愛媛県をフィールドに民間企業にデジタル化の事業を進めてもらう「トライアングルエヒメ」を令和4年度から始めました。
三角形を意味する「トライアングル」というネーミングは、近江商人の「三方よし」の精神に基づいており、デジタル企業、県内の事業者、愛媛県の三者がタッグを組み、皆が喜ぶ形となることを目指しています。デジタル企業にとっては新しいビジネスの成長、県内事業者にとっては稼ぐ力の向上、その結果愛媛県全体の発展につながるというモデルです。デジタル企業が県内企業であれば、当然そのビジネスの成長により県が活性化します。県外企業の場合でも愛媛でビジネスができそうなら、例えば拠点やブランチ(企業の支店など)を愛媛に設置していただけると、愛媛県の産業振興・雇用の拡大につながります。また、「トライアングルエヒメ」で出た成果を横展開する際に、県内企業が利用する場合には優遇措置を取っていただければ、愛媛県の産業にとってメリットになります。このように何らかの形で愛媛に成果を還元していただけるなら、県は全力で支援するという制度です。
プロジェクトとしては、実効性、持続可能性、県内への展開性を満たすものを採択しています。
また、今年度から「2.0」ということでバージョンアップしました。まず、本事業の狙いである「稼ぐ力の強化」につながる分野である農林水産、ものづくり、観光、脱炭素、生成AIを重点5分野として設定しました。併せて、成果を県内全体に広げるために横展開補助金を創設しました。1年間、県内の実装先でモデル的に行ったプロジェクトの導入を別の県内事業者も希望した場合、その導入初期費用を一部補助するというものです。
実施状況や成果としては、令和4年度から令和7年度までで累計応募総数が約1500件、採択プロジェクト数が115件です。令和6年度までで経済効果は約32億円、県内でのデジタル人材の育成数は約2900人です。

──愛媛県のデジタル関連の取り組みの特徴は何ですか
官民共創で進めたり、行政DX(デジタルトランスフォーメーション)を県と県内20市町が一緒に取り組んだりという、連携の姿勢が特徴の一つです。地域課題を解決し、最終的に県民に成果を還元していくために、広く関係者を巻き込んで取り組んでいます。
また、「トライアングルエヒメ」により創出された県内のデジタル人材の需要増が、先ほどご説明した県内大学との連携事業で育成されたデジタル人材の受け皿となるというように、さまざまな事業の連携・好循環により愛媛県を活性化するという全体構想で進めている点も特徴かと思います。
──全国及び愛媛県の地方創生施策について、今後の展望を聞かせてください
少子高齢化・人口減少は非常に厳しい状況にあり、過度な東京一極集中の是正は必要ですが、東京と地方は二項対立ではなく、相互に補完し合うことで社会全体の持続可能性を高めることができるという基本認識の下で、地方は地方としての役割を果たしていかなければならないと思います。その際重要なことは、国が一律にすべきことと、地方が創意工夫を発揮すべきことを適切に区分するということです。特に、子育て世帯等への負担軽減策については、現状、東京都はその潤沢な財源を背景に給付やサービスの無料化などを行っていますが、財源が少ない地方には限界があり、そうした財源次第の施策については国が全国一律で行い、地方公共団体間の競争条件を整えた上で、そこから先は地域が知恵比べをし、健全な形で競っていく形が望ましい在り方ではないかと思います。その前提のもとで、県としては例えばDXの推進や、しまなみ海道という資源を生かした自転車施策の振興といった、地域の資源や魅力を生かした取り組みを知恵を絞って進めていくことが重要と考えています。こうした内容は、中村知事が国の地方創生に関する有識者会議の「新しい地方経済・生活環境創生会議」で強く主張し、閣議決定にも盛り込まれました。引き続きしっかり地方の声を届けていかなければなりません。
また、松山市長を経験された中村知事の思いもあり、愛媛県では県と市町の連携に力を入れていますが、人口減少対策についても、子育て施策の最前線を担う市町が地域の実情に応じた施策を積極的に展開できるよう支援する「えひめ人口減少対策総合交付金」を創設しました。併せて、仕事と家庭の両立推進や女性活躍推進に取り組む企業を認証する「ひめボス宣言事業所認証制度」などにより、企業の取り組みを後押ししています。愛媛県内の行政が一体となった「チーム愛媛」、それに民間も含めた「オール愛媛」で、人口減少対策・地方創生に地域の総力を挙げて取り組んでいくことが重要だと思います。

中長期の視点からの逆算を意識して
──総務省を志望した理由を教えてください
元々、各種学校行事において実行委員等で裏方として切り回していくことが好きで、霞が関の仕事は、いわば「日本国実行委員」というか、そうした仕事の延長線上で興味を持ちました。その中でも総務省を選んだのは、今申し上げた流れから、特定の行政分野に特に興味があるというよりも、「行政」という営為そのものに興味があったという点が大きいと思います。総務省は地方自治を所管しており、首長の下で総合行政を推進する地方公共団体を通じて、現場感覚を持ちながら幅広い分野に関わることができるという点で、総務省を選びました。
──東大で学んだことや得たもので今に生きているものは何ですか
もはや思い出せないほど自分の中に血肉化しているものも少なくないとは思いますが、やはり、行政の仕事を進める上で必要となる法的思考やそれに基づく議論の進め方については、大学時代の経験がその後のベースになっているのではないかと思います。それは講義やゼミだけではなく、東大でも駒場祭委員会・五月祭常任委員会の委員を務めましたが、その際の制度設計や関係者との議論・調整等の中でも鍛えられたのではないかと思います。障害のない安全な環境で学園祭が実施できるよう、裏方として環境を整えるという業務は、行政の仕事と類似する部分も少なくなく、その経験は今の仕事のちょっとした予行演習にもなったように思います。
──入省後考えの変化などはありましたか
変化というよりは考えがより深まった点という方が適切かもしれませんが、世の中の事象の裏にある行政や法制度の存在をより意識するようになったのではないかと思います。このことは、私が入省した総務省が、地方公共団体が各種の事業を行うための前提として、一つの行政主体として回るようにするための基礎的な制度・財源の枠組みを担っているということに関わります。このような役割は、PCにおけるOSに例えられることがよくあります。この例えでは、個々の行政分野はOSの上で動くアプリケーションに相当し、PCを扱うときには普段は個々のアプリケーションを用いて作業しますが、実際にはアプリケーションとOSは様々なデータのやり取りをしているものの、我々がいちいちOSの存在を意識するわけではありません。総務省の仕事はそのようなところがあり、例えば土木行政で道路を新設するような事業であれば成果物としての道路は目に見えるものですが、我々の仕事は表には見えにくいが各行政分野が円滑に動くように前提を整えるものであることから、先ほど申し上げたような視点の意識が深まったのではないかと思います。
また、様々な制度の評価に当たり、それが作られた経緯を十分に踏まえることの重要性に対する認識も深まっていると思います。現在の視点から一見しただけでは不合理に見えるものでも、遡って経緯を探るとそれなりの背景があり、そうした背景を押さえた上で、前提となる状況のここが変わったから、そこに対応する部分は、変えた方がいい、でもここは変わっていないから、むしろ変えない方がいい、といった形で分析をしていくことが重要だと思います。特に色々な制度が複雑に絡み合っている我が国の制度を扱う場合は、一つを動かすと他のところにも影響が波及していくこともあり、そうした分析を丁寧に行うという感覚は、業務経験を積み重ねる中で磨かれてきたのではないかと思います。
──中央官庁や地方公共団体への就職を希望する学生も含めた、東大生へのメッセージをお願いします
昔に比べれば公共的な仕事の選択肢は増えてきてはいるものの、世の中の基本的なルール作りやそれに基づく政策の展開は行政でしかできないことです。また、特に中央官庁では民間とは異なり同業他社がなく、例えば、国で地方自治制度を担うのは総務省しかありません。地方公共団体だと、他地域が同業他社と言えなくはありませんが、その地域に対する思いがあればそこは唯一の存在になりますね。「ブラック霞が関」と言われたりもしますが、最近は働き方改革等もありある程度は改善してきていますし、やはり同業他社がない仕事なので、その仕事をやりたいと思ったら、是非門を叩いてくれるとありがたいですね。
また、学生の皆さんには、研究者になることも含めて、大学での学業を終えたその先に何をやりたいかという中長期の視点を踏まえ、そこから逆算して、今何をするべきかということを意識しながら、学生生活を送っていただければと思います。これは必ずしも最初から目標を一つに絞れ、ということではなく、プランB、プランCを持って、その中でどれを選ぶかということを含めての話です。一つに決めきれないからこそ、プランAでもプランBでも共通するスキルはこれなので、それを伸ばすことに注力しよう、という選択も立派な選択です。もちろん人生は計画通りに進むとは限りませんし、偶然の出会いがその後の人生を大きく変えることもあり、それがある意味学生時代の醍醐味(だいごみ)かもしれませんが、その時は時点修正をしながら、学生の皆さんが、それぞれの未来に向けて、充実した学生生活を送られることを心から期待しています。










