INTERVIEW / PROFESSOR 2020年4月26日

誰もが居心地の良い東大へ ゲーム理論研究の第一人者に聞く 松井彰彦教授インタビュー

 東大において、女子学生の割合の小ささや学内の多様性の欠如が問題となっている。多様な構成員が存在することを誰もが認識し、全ての構成員が心地よく過ごせるようにするためにはどうすれば良いのだろうか。ゲーム理論が専門で「障害と経済」というテーマで研究している松井彰彦教授(経済学研究科)に話を聞いた。

(取材・土屋佑太 撮影・本多史)

 

松井 彰彦(まつい あきひこ)教授(経済学研究科) 90年ノースウェスタン大学Ph.D.(M.E.D.S.)。ペンシルべニア大学助教授などを経て、02年より現職。主な著書に『市場ってなんだろう 自立と依存の経済学』(ちくまプリマー新書)など。

 

議論で着実な改善を

 

  ゲーム理論とはどのような学問で、経済学の中でどのように位置付けられているのでしょうか

 

 ゲーム理論は、人間関係や社会を論理的に説明する学問です。経済学は市場、とりわけ完全競争市場や独占市場に関する理論の研究や分析を行うのが昔のスタイルでした。市場の研究が飽和すると、人間関係や社会制度を説明する理論が求められるようになりました。そうしてできたゲーム理論は今や経済学の礎石になっています。

 

  東大在学中は理科Ⅰ類から経済学部に進学されましたが、入学当初はどのようなことに興味があり、なぜ経済学部に進まれたのかでしょうか

 

 元々は天文学と気象学に興味がありました。しかし在学中に環境問題をはじめとする社会問題を議論する中で、興味が移っていきました。環境問題にとって「コスト」は「技術」同様重要であり、経済の問題を抜きにして語っても話半分で終わってしまうと考え、経済学部に進むことにしました。

 

  現在、マイノリティーとマジョリティーが共存するための研究をされていますが、今後誰もが居心地の良い東大を実現するためにはどうすれば良いと考えますか

 

 まずはゲーム理論家の私が障害について研究する理由を言います。従前障害者は医療、福祉の「対象」として見られてばかりでしたが、障害学では意思決定、感じる「主体」として見なす動きがあります。それがゲーム理論で説明される個人が合理的な行動を採るとする過程と親和性があるからです。

 

 その上で大切だと思うのはいろんな人の意見を聞くことです。マイノリティーの皆さんが、「こうしたい」「こうしてほしい」という選好を表明しないと社会が変わりませんし、それを聞く土壌が必要です。例えば東大において女子は2割いますが、障害者やLGBTの方はもっと少ないです。当事者の声をすくい上げて、時には増幅させて、みんなで議論する必要があります。カミングアウトの難しさなど、課題はたくさんありますが、ドラスティックな改革は無理なので、一歩ずつ改善していくしかありません。

 

  改善の具体例はありますか

 

 東大新聞など、メディアが特集し、多くの人がマイノリティーの方について知ることの効果は大きいのでどんどん報じてほしいです。例えば学内においても耳の不自由な人に対するノートテイカーなど、学びの権利を守るためのさまざまな取り組みがあります。

 

 自分が関わったことで言えば、総長補佐在任時にバリアフリー支援室に配属されました。ちょうど「障害者を雇用していない」と行政からお叱りを受けていたので、障害者を雇用しようと議論しました。予算もやっとの思いで確保し、世田谷区の支援施設に声をかけて10人くらい雇い入れて、環境整備チームを作りました。トイレさえ貸してもらえないほど、学内で理解が得られていない状況を踏まえ、ユニホームを作るなど試行錯誤しました。

 

 他には在宅就労支援制度も創設しました。例えば松井研究室ではホームページの維持管理や作成、データ処理を行う人を雇ったことがあります。学生であっても、車いすの方の移動のお手伝い、当事者を呼んだ勉強会など、個人ができる範囲で行動することが大切です。

 

積極的な勉学で土台を築け

 

  ゲーム理論は東大の内外でどのような制度設計に役立てられているのでしょうか

 

 東大の外だと、ゲーム理論における囚人のジレンマを応用した、リニエンシー制度というものがあります。カルテルや談合を密告すると、その順番に応じて課徴金が減免される制度です。これは悪い人にお金を与えているようにも見えますが、実際には密告を増やすことで、そもそも悪いことをできなくする制度です。

 

 東大内だと、「進学選択制度」が挙げられます。第二段階では、ゲーム理論を応用したアルゴリズムを使うことで、高い底点を気にして別の学科を志望する必要がなくなり、第一志望を希望することが一番学生にとって得になるようになっています。このように、インセンティブを与える制度設計がゲーム理論では可能です。

 

  昨今、新型コロナウイルスが流行しており、転売や買い占めなどさまざまな問題が生じています。こうした問題が起こるメカニズムと解決策について、どのように考えますか

 

 それらの問題は悪い均衡が発生しているために起こるので、良い均衡に戻す必要があります。トイレットペーパーで例えると、皆が「必要な時に買いに行こう」と思うのが良い均衡です。一方「品薄だから買いだめしよう」と我先に買おうとするのが悪い均衡です。政府ができることは限定的なので、マーケットが値上げを行うなど、品薄が深刻な商品については需要を抑える必要があります。

 

  新入生へのメッセージをお願いします

 

 コロナウイルス問題で遠隔講義になるなど、大学も揺れていますが、このようなときこそ勉強が大切です。社会に関わる活動は大人になってからでも良いので、その素養を身に付けることが大事です。大学では与えられたものではなく、自らつかみに行くように学んでみてください。お勧めの授業は昨年度私も出講した「現代経済理論」です。


この記事は2020年4月14日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナルの記事を掲載しています。

インタビュー:誰もが居心地の良い東大へ ゲーム理論研究の第一人者に聞く 松井彰彦教授
ニュース:新型コロナ 制限強化で学内の研究は原則中止に
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研究室散歩:@生命科学 平林祐介准教授(工学系研究科)
ゼミをのぞき見:東京大学文学入門ゼミ
キャンパスのひと:前川名月実さん(理Ⅱ・2年)

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