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2018年5月19日

【AIの社会実装と応用④】都市設計の最適解探る 羽藤英二教授

 近い将来、現在の仕事の大半が人工知能(AI)に取って代わられると言われる現代。車、駅、ビル、街全体の自動化の可能性が出てくるとともに、農業機械・農作業の自動化も見込まれるように、機械学習の可能性は多方面に広がっている。しかし、機械学習研究が日々進歩を遂げその可能性が広く認識されている日本でも、車の自動運転をはじめ機械学習の社会実装にはまだ道のりがあるように思える。

 

 AI研究の進展の鍵を握るのが機械学習だ。そして機械学習に使えるデータの種類やその有無で社会実装の可能性が影響される。日本における機械学習研究の現状と課題はどのようなものか、データの収集と活用のあり方はどうあるべきか。これらを明らかにしつつ、日本でのAIの社会実装の意義、それに伴う課題や予想される社会の変化に迫る。

 

 今回は工学系研究科の羽藤英二教授に、都市設計における人工知能の活用や、それによってもたらされる変化について聞いた。

 

(取材・安保茂 撮影・須田英太郎)

 

 

 スーパーマーケットでは、データ解析によってどの商品が一度に購入されているか探ることが可能になった。よく一緒に買われる商品を近くの売り場に配置し、売り上げを伸ばした店もあるという。ここで商品を都市の施設に置き換えれば、都市デザインはスーパーマーケットの商品配置と対応しているだろう。かつて都市の施設配置は都市設計者の感覚に頼っていた部分が大きい。しかし、現在はAIを用いて、膨大な人の移動のデータから図書館や公園といった施設の最適な配置はどのようなものか、解くことができる。スマートフォンに集積される移動のデータを分析し、よく一緒になされる活動の組み合わせを探る。羽藤英二教授(工学系研究科)は「人の移動経路や移動距離・時間の範囲を数理的に解析できるようになった」と指摘する。

 

 都市設計や交通整備へのAIの活用について、羽藤教授は「施設や交通機関の利用者数とその収益は予測可能です」と語る。その上で近い将来、建設機械の自動化やドローンによる測量などが始まり、都市・交通網を改変するコストが大幅に下がるという。ただ当然、都市・交通網の改変により得をする人と損をする人の両方がいる。例えば、東日本旅客鉄道(JR東日本)が計画中の羽田アクセス線が開通すると、JR東日本は収益増加が見込まれる。一方、東京モノレールでは減収が懸念され、他の鉄道会社もなかなか利益を受けることができない。このように都市設計の分野には、意思決定や利害調整といった人間味のある部分が残るため、社会的合意形成が進まない限り都市や交通を大きく変えるのは困難だ。「もしかすると人間が個々の利益の最大化を狙って合意形成するのではなく、AIが答えを出した方が良い都市ができるかもしれません」

 

 

 都市設計の研究には、集まったデータをもとにひたすら色を塗ったり、計算を行うなど地道な作業が含まれる。羽藤教授は時間をかけて地道な作業を行うことで身に付く能力があると指摘。例えば、交通量の計算を何百回何千回も行うことで、どことどこを結ぶとどのような結果が出てくるか直感的に分かるようになった。

 

 人の行動を数式でモデル化し、観測してきた羽藤教授。「モデルに沿って空間を作り変えても、予測と異なることがあり面白いですね」。かつて東日本大震災の被災地の復興に自分が持っている技術をどう生かせば良いか悩んだ経験は、現在、災害時に避難しやすい街づくりの研究に生かされているという。

羽藤 英二(はとう・えいじ)教授(工学系研究科)

博士(工学)。愛媛大学助教授、マサチューセッツ工科大学客員研究員などを経て2012年より現職。

 

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