COLUMN 2020年1月10日

心に響く独自の表現 文楽の魅力に迫る

 外国人と接して、自分が日本についてあまり知らないことを実感したという話を聞くことがある。特に古典芸能は縁遠いものだと思いがちだが、江戸時代に上方で大きく発展した文楽は元々庶民の文化だった。日頃から文楽に親しむ外国人教員に文楽の魅力を語ってもらった。

(取材・黒川祥江)

 

 

自由で多彩な声

 

 フランスでは近年、文楽などの公演が人気で日本の芸能に興味を持つ人も多いという。フランス出身のビゼ・フランソワ・アンリ准教授(教養学部付属教養教育高度化機構)は、15年ほど前の来日間もない頃、同僚の誘いで浄瑠璃の一種の義太夫節を見に行った。「女流義太夫の名手竹本越孝の声に魅了され、衝撃を受けました」。以来観劇を重ね、自身が竹本越孝の稽古を受けて義太夫節の発表会に出たこともある。

 

発表会で義太夫節を語るビゼ准教授(左)(写真はビゼ准教授提供)

 

 ビゼ准教授は西洋の演劇と文楽との違いを大きく二つ挙げる。一つ目は演者とは別に太夫という語り手が存在し、せりふも全て語ること。太夫と三味線は通常観客席から向かって右側の出語り床に登場する。

 

 二つ目は物語の最初から最後まで1組の太夫と三味線が演奏するのではなく、途中で複数の組が入れ替わることだ。西洋の演劇では俳優は劇中のある登場人物の内面と外見を統一的に演じることで「幻想」を作り出し観客を劇の世界へといざなう。観客が認識した「幻想」は、同じ役を演じる俳優が劇の途中で入れ替わると崩れる恐れがある。一方、文楽には全く異なる「幻想」のモデルがある。太夫・三味線・人形遣いのうち西洋的に役になりきって演技をしている者はおらず、おのおのが別の要素を担い、それらを統合して一つの舞台を作り出しているという。

 

 最も驚いたという太夫の声について「極度に自由で、人間の声の力を余すところなく使っているのが印象的」とビゼ准教授は話す。純粋で滑らかな声を求める伝統的規範に限定された西洋の歌唱に、ビゼ准教授は物足りなさを感じていた。「新たな声の芸術に近づけるので非常に面白いです」。太夫はずっと同じ所に座って語るが、多くの登場人物を次々に語り分け「絶え間なく動き続け」ているともいえる。太夫はまさに「声の万華鏡です」。

 

ビゼ・フランソワ・アンリ准教授(教養学部付属教養教育高度化機構)

 


この記事は2020年1月1日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナルの記事を公開しています。

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