
地方の人口減少に伴う労働力不足による産業の疲弊は、全国的な課題となっている。そんな中、大学に求められる役割は何か、持続可能な地方創生政策の展望は。AI技術の実装に現場で挑戦してみて感じたこととは。愛媛県の濱里要副知事と、愛媛県でAIによる真珠の仕分け効率化の実装に挑戦中の株式会社ARCRA勝駿介さんに話を聞いた。(取材・田中莉紗子)
前編はこちら
東大×AI×地方創生 松尾研発スタートアップが参画する、AIを生かした地方創生の最前線【前編】 濱里愛媛県副知事インタビュー
「現場主義」「コミュニケーション」の重要性 属人化した感覚の標準化を目指して
──松尾・岩澤研究室(松尾研)で得たものはどう生きていますか
松尾研に所属していたわけではないのですが、大学院生の時に松尾研の起業演習の授業で知り合った仲間と共同創業しているので、松尾研のおかげだという意識はあります。そこで学んだ起業に関する知識は最初に生かされました。松尾豊先生(東大大学院工学系研究科教授)からは現在も支援を受けています。
大きなビジョンを見据えている松尾先生は、学生に挑戦する機会を与えたり、起業支援をしてくださったりします。その影響もあり、松尾研のコミュニティでは起業意欲が高い文化が醸成されており、周りに続こうとさらに起業意識が高まる循環があるのです。松尾研の提供する企業コミュニティーも生きています。他のスタートアップとの横のつながりが得られ、人脈が増えたり、経営や技術を学べたりするんです。起業の事例や体験談などの情報も入り、そこから学び自分たちが応用していけるようなエコシステムが作られている点は、優位性があると思います。
──真珠の仕分け効率化の事業を始めた経緯は
「地域の事業者さんから、真珠の仕分けが大変で、人手が足りないと相談を受けた」と愛媛県産業技術研究所の方にお話しいただいたのがきっかけです。愛媛県の『トライアングルエヒメ』という、最新のAIなどの技術を導入し、研究や社会実装を推進して、愛媛県の産業を盛り上げる事業で今回の事業が採択されました。判別を行うAIは弊社、仕分けを行う機械はシステムエルエスアイさん、事業者さんとのコミュニケーションは主に産業技術研究所さんが担う三者共同体制を敷いています。
──課題にどのように取り組もうとしていますか
真珠には大きさ、形、傷の有無、色、照り、巻きという6つの評価基準があります。これらをAIによる画像解析で判定するアルゴリズムを開発しようというプロジェクトで、本年度3月末までに評価の精度を上げるのが目標です。実装化にあたっては職人さんの感覚と我々の感覚の擦り合わせが大事です。職人さんの長い経験に基づいた判別基準は定量化しづらく、まず我々が判別基準を把握しないとAIに落とし込めません。事業者さんの元に足を運び、実際に真珠を見て評価してもらい、話し合うことで、苦労しつつも理解を試みています。産業技術研究所の方の努力もあり、12月から行われる真珠の浜揚げ(真珠貝から真珠を取り出す作業)の際に真珠の品質評価システムを検証する許可をいただけたので、その機会も生かしたいです。


──地域の人や企業などとの連携を進める際のカギは
地域に限らないことですが、相手は何か良いものが提供されるとの期待があり協力しているはずなので、その期待を満たすべく貢献するのが必要だと思っています。
現地に赴き、コミュニケーションを取り信頼関係を築くのも大事です。地域の地場産業を扱う場合は、地域のコミュニティーへの配慮も大事ですね。我々には全くなじみのないものなので、地域のいろいろな方から話を聞き人を知ることを通して、地域に存在する関係性を把握し土足で踏み壊さないよう配慮したり、地域に根付いた課題を理解したり、ニーズを把握したりしています。
地方自治体との協力も大切です。今回は、これまでの実績や地域での関わりもある公的機関である産業技術研究所の皆さんの参加のおかげもあって、地域の方からプロジェクトを信用していただけたと思っています。
──こういった取り組みを持続可能にするためには
政治家や地方自治体による課題の認識が重要です。今回は愛媛県・愛媛県産業技術研究所の皆さんが課題意識を持っていて、実装にかかるコストの援助や協力に積極的だったのが大きいですね。「トライアングルエヒメ」を行っている愛媛県は、課題への関心や解決援助の意識が非常に強い、数少ない都道府県かと思います。タオルなどの繊維業、造船業やその他水産業などさまざまな分野でサポートをされている。こうした取り組みが全国に広がれば、他の地域の課題もどんどん解決されそうですね。
──地方の高齢化・人口減少による地場産業の疲弊は全国的な課題です。他地域におけるAIを活用した課題解決の可能性は。ARCRAの事例が示唆(しさ)するものは
可能性は豊富にあるのでは。品質判定の効率化という観点、実装につなげる考え方、アプローチの手法やコミュニケーションの取り方など、応用可能だと思います。
示唆するのは、アプローチすべき点を定めるために、手間やコストがかかるポイントを調べることの重要性ではないでしょうか。この点は、私が大学院でトマトの自動収穫ロボットを作っていた時から重視しています。背景には、解決のために投下できる資本や時間は限られているから、一番コストや手間を要するところに最初にアプローチし、効率化を実現させるのが最も効果的だという考えがありました。トマト農家もやはり人手不足で、一番コストや手間がかかる作業は収穫だったんです。
今回も、最も重視し地域の事業者さんに何度も聞いたのは、その工程に割く時間でした。すると、1カ月半ほど真珠の仕分けに時間を取るほど品質判定に時間がかかり、最繁忙期になっていると。そこを少しでも短縮できれば、収穫時期を遅らせたり、他の作業に時間を割いたりできるとの話もいただきました。いろいろな課題があると思いますが、まずは如実に効果が出るところに最優先で対処し成果を出すのが、この業界では大事だと思います。
日本には少子高齢化による労働力不足に関連する問題が数多くあります。大企業も大きなスケールで取り組まれていますが、その中で取り残される細々とした課題にスタートアップが対処できればと思います。
──経営と地方創生とのバランスについて、ARCRAではどう考えていますか
課題解決ができてもビジネスにならないと意味がないとは思います。「トライアングルエヒメ」も、課題解決による新しいビジネスの機会の確立を意図しています。弊社も、今後の技術の売れ行き、他の関連分野に展開する場合に対応すべきニーズ、他地域への展開方法などを重視し、プロジェクトと並行で、関係者と話を進めています。コストに対する販売価格や量など、ビジネス面も将来的な観点として見据えて、課題に取り組んでいます。
──将来的にスタートアップの立ち上げを考えている後輩へのアドバイスをお願いします
まずはやってみてください。弊社は創業時は今のような取り組みは考えておらず、技術力も無かった。当てになるものもお金もなく、ゼロから立ち上げたんです。そこから試行錯誤を経て今に至っている。やってみたら課題は見つかるので、足りないところを考えそれを解決することの繰り返しかと思います。立ち上げないとその課題にも直面できないので、まずは始めてみてください。











