受験

2020年8月5日

どうなる? 来年の東大入試 過度な配慮には慎重論も

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行により、本年度の初めごろ、多くの高校は休校を余儀なくされた。休校に伴う学習の遅れや入試への悪影響などを打開する策として秋入学導入が議論されたものの、さまざまな懸念を払しょくすることができず、早期導入の見送りが決定されている。秋入学の導入見送りはどう評価されているのか。COVID-19が大学入試に影響することが必至な中、東大や高校は来年の大学入試に向けてどのような方針を立てているのか。東大の入試担当の理事・副学長と公立高校の教員に取材した。

(取材・中村潤)

 

 

 

「心配せず出願して」

 

 早期導入の見送りが決定された秋入学。COVID-19流行以前にも国際化の促進を目的に、大学における導入が議論されることがあった。本紙6月2日号で触れた通り、東大では2011年から13年にかけて、入試時期は変えず入学時期のみ秋に移行する形での導入を検討したが、最終的には見送られた。

 

 COVID-19の流行を受けた大学での秋入学の議論では、入試や入学時期を遅らせて学習の遅れを取り戻すという別の狙いも浮上。しかし、福田裕穂理事・副学長(入試・高大接続担当)はいずれの目的にせよ秋入学の導入はこの状況下では適切でないと話す。

 

 秋入学による国際化進展の根拠として、海外の大学と入学時期をそろえることによる交流の活発化が挙げられていた。しかしCOVID-19の流行で世界中の大学で留学生の受け入れが困難に。海外の大学に留学し、授業を受けるという従来の国際化の在り方が崩れてしまった以上「国際化を目的とした入学時期の変更はかつてほど大きな意味を持ちません」。今後は海外の大学と連携し、学生が相互にオンライン授業を受けられるような環境を整えることなどが国際化の戦略として考えられるという。

 

 学習の遅れを取り戻すとという狙いについても、高校2年までに入試出題範囲の学習を済ませている高校がある、オンライン授業の導入に差があるなど、高校間の状況の違いがあることを指摘。「一律で入試・入学時期を遅らせるだけでは、これ以上の格差拡大を抑えられても、格差解消にはつながらない」と話す。

 

 さらに感染拡大がどれだけ続くか不透明な中、入試時期を半年遅らせても入試環境が好転するとは限らない。受験勉強が長期化すればむしろ高校生の負担が増える懸念もあるという。「東大としては高校生をなるべく早く受験勉強から解放し、より広い視野で勉強できる大学の教育を受けさせてあげたいと考えています」。その上で今回の議論は「入試時期を遅らせることが高校生のためになる」という誤った前提に基づいていたのではないかと語る。

 

 入試時期を遅らせないとしても、高校の学習の遅れを入試で考慮することは十分考えられるという。福田理事・副学長によれば、東大の高大接続研究開発センターなどを通じて全国の高校の状況把握に努め、2カ月ほどの学習の遅れなら入試までに取り戻せると予測。現時点で出題範囲の変更などは考えていないが、各教科で高校の状況を把握して問題を作るはずと話す。

 

 一方で文系も理系も手を抜かずに幅広く勉強してほしいという狙いから、大学入学共通テストや二次試験で出題科目を絞ったり、休校が続いたことを理由に問題を故意に簡単にしたりすることは「あり得ないです」。出願期間の見直しも文部科学省の指針に従う必要があり、大学側で柔軟に対応するのは難しいという。

 

 推薦入試についてもCOVID-19の流行を受けた配慮が考えられている。今年はさまざまな大会が中止され、その実績などが基となる推薦入試も従来通りの実施は難しい。そこで、来年は例年ほど厳密なエビデンスは求めない予定と福田理事・副学長は明かす。「ポテンシャルはあるが厳密なエビデンスがない、という人を門前払いすることはないので、安心して出願してほしいです」。高校2年までの取り組みや面接などで補完しつつ評価する方針だ。

 

 大学入試全般は不透明な状況が続くが「東大入試は万難を排して実施します」と強調。COVID-19の状況にかかわらず、東大入学に足る能力と意欲を持つ人を合格させられる入試になるように全力を尽くすという。「受験生は未曾有のコロナ禍をネガティブに考え過ぎず、安心して東大を目指してください」

 

福田 裕穂(ふくだ ひろお)理事・副学長

 

「例年通りの良問を」

 

 2月に独自の緊急事態宣言を発した北海道。高校は3月から5月まで断続的に休校を余儀なくされた。東大合格者も多い北海道札幌南高校の志田淳哉教諭は、休校の長期化を受けて秋入学の議論が盛り上がったことについて「高校生や自治体の首長の提案を受けて導入の検討に入るまでの過程は良かった」と評価する。

 

 一方その後、最初に提案があった大学だけではなく、全ての学校で導入する方向になったことは「イメージや政治的思惑が優先されていたのでは」と疑問を呈する。結局秋入学の社会への影響に関するエビデンスが明らかになり、早期導入は見送りに。「秋入学の議論は、曖昧な感覚ではなく具体的なエビデンスに基づいた議論が重要なことを生徒に伝えるきっかけになりました」と振り返る。

 

 志田教諭によれば、懸念されていた学習の遅れは長期休業の短縮や行事の中止などで入試までに取り戻せる予定だという。ただCOVID-19の再流行で再度休校を余儀なくされる不安は付きまとう。受験を控えた高校3年生への影響も甚大だ。「行事や学校生活を通じて友人たちと触れ合う経験が減ってしまったため、進学指導と併せてどのようにその経験値を高めていけるか模索しています」

 

 現時点では入試までに無事出題範囲が終わる見込みだが、入試に関する懸念は他にもある。志田教諭は従来通り実施された場合、受験生の移動や宿泊により感染リスクが高まらないか不安だと話す。さらに「一部の都道府県で感染が爆発的に拡大した場合、自由に移動できるのか心配です」。仮にオンラインで実施するとしても、環境整備や対策の面で受験生や教員の負担は重いという。

 

 COVID-19で入試は不透明な状況が続くが「出題範囲に配慮は必要ありません」と強調する。「共通テストも二次試験も、これまで同様さまざまな観点からの考察によって正解が導かれる良問を期待しています」。一方で入試時期に関しては、大学入学共通テストで第1日程、第2日程と特例追試の三つが行われることから、従来とは異なる配慮が必要だと話す。「場合によっては追試の自己採点結果が判明するまで出願の判断を先送りしなければなりません」

 

 文科省や大学側には、願書の受付期間の延長や二次試験での追試験の実施を検討してほしいという。さらに形式が異なり、得点調整もない三つの試験を基に公平性を保つ必要性も指摘する。「大学には平均点や難易度に応じた合否判定を求めたいです」

 

志田 淳哉(しだ じゅんや)教諭(北海道札幌南高等学校)

この記事は2020年7月28日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナルの記事を掲載しています。

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