部活・サークル

2025年12月31日

小林鷹之氏に大学生が本気の公開政策提言【瀧本ゼミ政策分析パート五月祭イベントレポート】

 

 瀧本ゼミ政策分析パートは故・瀧本哲史氏によって創設され政策の立案、提言を通して社会課題の解決を図る学生シンクタンクだ。

 

 同団体は第98回五月祭2日目の5月25日に公開政策提言会を行った。ゲストはさきの自民党総裁選に出馬したことでも注目される小林鷹之衆議院議員であった。

 

 提言会は前半に瀧本ゼミによる政策提言、後半に小林議員への公開質問と二部にわたって構成され、濃密な様相を展開した。同企画の様子をレポートする。(取材、撮影・高橋潤)

 

 

なぜ小林鷹之氏に公開政策提言

 

 今回の企画は、「学生でも本気で世の中を変えられる」ということを、学生を中心に多くの人に知ってもらいたいという、瀧本ゼミ政策分析パート代表の永井優樹さん(早稲田大学・2年、当時)らの強い思いから始まった。国会議員の中でも随一の政策通であり経済安全保障担当大臣を務めた小林鷹之氏に対し、あらゆる方面から幾度となくアプローチし、その熱意をぶつけたことで実現したという。

 

 イベントは永井さんの提言を軸に進められた。永井さんは「国によるリサイクルされたリンの買い取り制度導入」について小林氏に提言した。永井さんによれば、リンは農業生産にとって重要な資源であるが、日本では自給がままならないという。そのため国が市場価格に基づいて各自治体からリサイクルされたリンを購入する制度を導入し、リンのリサイクルを促進することで、リンの自給率を引き上げることができると提案した。

 

瀧本ゼミ政策分析パートとは?

 

 瀧本ゼミ政策分析パートは、東京大学を中心に約30名の学生で構成される学生シンクタンクである。徹底的な論文調査と専門家へのヒアリングを基盤にエビデンスに基づいた政策を立案し、実際の社会実装を目標として、議員や民間企業への提言まで行っている。同時にその過程での仮説検証を通じて、卓越した問題解決能力、そして正しい意思決定力を身に付ける場でもある。

 

 これまでの主な実績としては、千葉県におけるAED使用および心肺蘇生法の実施促進に関する条例の制定、東京都中央区におけるベビーシッター利用促進事業の予算化などが挙げられる。これらを含め、団体の提言は複数の自治体等で政策に反映されてきた。近年では東京都港区に対し、認知症の早期予防を目的とした定期健診および予防教室の連携に関する政策を提言し、当該事業に約4,000万円の予算が確保されるなどの成果を上げている。

 

小林鷹之氏による挨拶

 

 イベントは冒頭、小林鷹之氏の挨拶によって幕を開けた。(以下、一部抜粋)

 

 そもそも私は1999年、皆さんが生まれる前に東大を卒業させていただきました。法学部卒ということになっているんですけれども、正直申し上げると、在学中はほとんどキャンパスに来たことがありませんでした。埼玉県の戸田市にある東大のボート部の合宿所でずっと過ごしておりまして、その意味で実は大学祭、この五月祭に参加するのも人生で初めて、本当に賑やかだったんだというふうに初めて知りました。妻も東大で同じクラスだったんですけども、私が「さつきさい」って読んでいたら、「いや、あなたこれ『ごがつさい』って言うんじゃないの」みたいな。そう言うくらいの認識だったので、非常に新鮮に感じています。

 

 瀧本ゼミのお話を伺いまして、自分は皆さんと一緒の頃に、こんな問題意識なかったなというふうに反省をしながら聞いていました。日本の受験勉強というのは、与えられた問題を解くというところに力点が置かれていますが、これからの時代というのは、問題を解くということも重要ですけれども、それ以上に問題をどうやって設定していくのか、見つけていくのかというところに、やはり一人一人の力が問われてくると思います。

 

 瀧本ゼミのコンセプトを伺っている中で、さらにすごいなと思ったのは、単に問題を見つけて、それに対する政策課題を提言するだけではなくて、社会実装まで踏み込んでいくということ。そこを実際行動するというところまで目的に入っているところに非常に感銘を受けました。

 

 千葉県のAEDの条例についても、よく知っている自民党議員が千葉県議会で自分が提案してやったと聞いていました。いい条例作ったんだなと思っていたのですが、そのもっと前の段階で瀧本ゼミがご提案くださっていたということで、本当に素晴らしいと思いました。

 

 そして今日この会に至るまでも、私の事務所の秘書と瀧本ゼミの方が綿密に打ち合わせをしてくださり、非常に丁寧に準備をしていただいたので、とても助かりました。どうもありがとうございます。

 

小林鷹之氏への政策提言

 

 続いて永井さんは、国が「リサイクルされたリンを買い取る制度」を導入すべきだと提言した。リンは、肥料に欠かせない3要素の一つで、作物を育てるために必要不可欠な資源である。一見するとかなり専門的でニッチなテーマに見えるが、実は日本の食料生産を守るうえで、国家レベルで非常に重要な話だという。

 

 リンがなければ、稲をはじめどの作物を育てるにも、まずろくに根っこが生えてこない。そして茎や葉っぱも成長しない。おまけに実が付かないということで、米すら食べられなくなると永井さんは説明した。

 

 しかし、このリンについて、日本はほぼすべてを海外からの輸入に頼っている状況とのことだ。しかも輸入先は限られた国に偏っており、近年は資源を自国で囲い込もうとする動きが強まっている。その結果、価格は上がり、品質の低下も指摘されている。

 

 永井さんは、この過度な海外依存を続ければ、国際情勢の変化が日本の食料安全保障を直撃しかねないと語った。専門家の間でも、国内で資源を循環させる仕組みの必要性が強く訴えられているという。

 

 一方で、実は日本にはリンを自給できる大きな潜在力があるという。下水処理の過程で出る汚泥には、国内で使われている量の多くに相当するリンが含まれていると推計される。しかし現状では、下水から有効活用されているリンはごく一部に限られているとのことだ。

 

 その最大の理由として、永井さんは「取引が不安定なこと」を挙げた。リンのリサイクルを巡っては、取引の成立を困難にしている構造的な課題がある。

 

 供給側であるリンを回収する自治体や企業は、高度な技術や多額の初期費用が必要なうえ、回収しても確実な買い手がいなければ在庫を抱えるリスクに直面する。一方、需要側にあたる農家や肥料メーカーなども、供給量や品質、価格が安定しないため、安心して購入できない。このため、「売れないから作れない」「安定して手に入らないから買えない」という悪循環が生じていると永井さんは指摘した。

 

 この状況を打開するために提案したのが、「国によるリサイクルリンの全量買い取り制度」だ。国が供給側である自治体からリンを一定価格で買い取り、まとめて管理・流通させることで、自治体は安心して事業に取り組めるようになる。需要側にとっても、国から安定した品質・量・価格でリンを調達できるようになる。

 

 国が間に入ることで、取引の不安定さという根本的な問題を解消し、国内でリンを安定的に循環させる市場を育てたい。永井さんはこのように強く主張した。

 

小林鷹之氏からのフィードバック

 

 この主張に対し、小林議員からは鋭い指摘が飛んだ。(以下、一部抜粋)

 

 まず、リンのリサイクルというテーマにフォーカスしてやられていることが素晴らしいと思いました。背景を簡単に説明しますと、2022年に経済安全保障推進法という法律を私が閣僚の時に制定しました。これは、世界で初めて経済安全保障という切り口で作った法律で、その中の一つがサプライチェーン、供給網の強靭化です。重要な物資が供給途絶してしまうと、国民生活や、場合によっては命に大きな影響を与えるので、例えば半導体とか電池とか、あるいは抗菌薬。こうしたものをいくつか選んで、供給網を強化するという法律です。そのうちの一つに肥料を入れました。もう少し詳しく言うと、リンを重要物資として指定しました。

 

 リンに限らず、本当に重要な物資の供給をできる限り確保していこうとする場合、リサイクルだけではなくて、いくつかの方法があります。例えば、海外で生産しているものを国内で生産できるようにする。あるいは海外から輸入しているもの、特定の一か国からしか輸入できてないものを2カ国、3カ国と供給元を多元化していく。あるいは備蓄や、これに取って代わる物資、代替品を開発するなど、いろんなやり方が考えられます。

 

 その中でリンについては、重要物資に指定をして、国が何をやっているかというと、今申し上げた中では備蓄です。今私の理解だと、年間でリンの需要は国内で約50万トン。リンについては、この法律で、3カ月分の需要量を備蓄するということになっています。なぜ3カ月かというと、リンの輸入のほとんどが特定の国からになっています。政治的、外交関係が難しい時もあるので、その国が仮に輸出を止めてしまった場合に、他国からの輸入に変更するためには3カ月ぐらいかかると言われているので、一応今3カ月分は国の中で備蓄をしていこうということに決まりました。これが背景事情です。

 

 結論から申し上げると、いただいた提案は絶対やるべきだとまではちょっと今まだ分からないんですけれども、一つの方法としてあり得るかもしれないと思っています。理由としては、価格差を国が補填(ほてん)するというご提案ですが、全量買い取りということになると、当然そこは税金で負担していくということになります。納税者の皆さんに対して説明責任というのが発生しますから、実際この価格差がどれくらいで、実際自治体で、今余っているとおっしゃいましたけれども、具体的にどれくらいの量が取れているかといった定量的な分析というものをもう少ししていただけると、より分かりやすいのかなというふうに思いました。

 

 それと、今あり得ると申し上げたのは、国が全部ではなく、一部を買い取るというのもあるのではないかと思います。例えば、先ほど流通網の話も出ましたが、今実際リンがどういう形で流通しているかというと、農協さんだけではなく、ホームセンターが結構な量を買っていると聞いています。なので、国が全部買い取るのではなくて、そうした大手の事業者の方に買っていただける可能性もあるので、すべて国が買う必要というものがどこまであるのかっていうところは、もう少し詰めていただけるといいのかなというふうに思いました。

 

小林鷹之氏への公開質問

 

 次に会場では、小林鷹之氏への公開質問が行われた。小林氏の個人的経験に関する事柄から、政策への視点まで多様な問いが立てられた。実際のやり取りの一部を以下に紹介する。

 

──学生時代に成し遂げたかったこととは

 

 実は大学時代にはあまり高い意識を持っておらず、部活を頑張っていました。朝から晩まで合宿所にいて、よく言えば一瞬一瞬を生きていました。社会に対するアンテナが高くなかったとも言えます。むしろ小学生の時の方が高い意識を持っていました。当時の卒業文集を見ると、自分は将来アフリカの難民を救うために政治家になりたい、内閣総理大臣になりたいと書いてありました。当時、エチオピアで飢饉があって、年齢が同じ程度の子どもたちが栄養失調になっている姿が頻繁に報道されていたのを覚えています。それに影響を受けたのかもしれません。

 

 ただ、昔から変わっていないのは、常に前向きな性格であることです。変わったところがあるとすると、大学卒業後は官庁に入って、それから政治家になったのですが、その官僚の時と比べて、良い意味で泥臭くなったと思います。理屈で物事がすべて動くわけではない、当たり前かもしれませんが、それを強く感じるようになりました。心と心のふれあいとか、そうしたものが実際の社会の中で物事を動かすときに大切なのだろうと、理解しましたね。

 

──政治家に必要な資質は何だと考えますか

 

 二つ挙げるとすると、一つは志です。少々青臭いかもしれませんが、本当に必要だと思います。私の好きな言葉は「有志竟成」。志有りて竟に成る。『後漢書』の言葉です。この世の中を、こういうような形にしていきたいという思い、それがないのなら政治はあまりやらない方がいいのではないかと。そこが大前提にあると思います。

 

 もう一つはビジョンです。これはつまり、日本をこういう国にしたいという、目標ですね。私が好きな絵画に「指月布袋画賛」というものがあります。布袋さんが月を指さしていて、小さな子供がその指先を見上げているというものです。私なりの解釈ですが、布袋さんが指している先には月があるとされていますが、目指すべき姿というのを持たなくてはいけないのではないかということです。絵の中の子供は布袋さんの指先を見ていますけれども、真に考えるべきは、目先にあるものではなく遠くに何を見据えるかということだということも思います。

 

 加えて、資質とは異なるかもしれませんが気を付けるべきこととして、謙虚であることです。結局、人間はどんなに優秀であっても間違えます。自分は間違えるのだということをまず認識して謙虚に受け止めるところから始まると私は思っています。どんなに天才的に優秀な人でも、人間ひとりの知性や理性は、ちっぽけなものだと思います。自分が思っていることをすべて正しいと思わず、どこかで間違っているのではないかと問うことです。その自分の限界というものをしっかりとわきまえることが政治家として大切だと思います。

 

──日本の半導体の未来について

 

 私は勝負できると思っています。世界のトップにもう一度日本はいけるのではないか、むしろ、そこを目指さなきゃいけないというふうに思っています。断言はできませんが。1980年代後半に、日本企業は世界のマーケットの約半分を占めていました。5年前には1割を切るところまで落ちました。このまま放置したら半導体を他国から供給される側にならざるを得ません。そうなったらもう日本は完全に「二流国」になってしまうと思ったのです。成功するかは分かりませんが、もう1回勝負しようということで、TSMCを熊本に呼んできました。今の日本の中では最先端のレベルです。そして次のステップとして、Rapidus(ラピダス)という半導体製造会社への支援です。共感してくれた国内の研究者の方たち、海外に散らばっていた技術者の方たち、あるいは国内の別の会社に勤めていた人たちが、もう1回勝負をしようということで集まってきてくれています。重要なことは国が途中で匙を投げないこと。最後まで伴走し切ることだと思います。

 

──宇宙の経済安全保障について

 

 宇宙というのは可能性がある、夢のある領域だと思っています。産業政策上も重要だけれども、国家安全保障上も極めて重要なエリアです。経済安全保障の話を絡めると、同盟国であるアメリカ頼みの考え方は、私は基本的にとっていません。特に情報通信というのは、これから非常に重要な分野なので、日本が自分たちにできるところはやり切らなければいけないと思います。

 

 今、日本にはSpaceXのような会社はありませんし、できるわけない、コストがかかる、そうした反応は自然だと思います。しかし、やらなければ依存したままです。日本独自では時間がかかるかもしれないけれども、できるところまでやる。国がしっかりこれはやるっていうことを決める。挑戦しなければ成功は生まれません。国としてビジョンを示し、意欲のある人を応援する、そして日本が夢や希望を感じられるようにすることが政治の仕事です。

 

(本記事内の小林氏の発言は、2025年5月25日に行われたものです。)

(写真は瀧本ゼミ政策分析パート提供)

 

本企画を振り返って(インタビュー)

 

──イベントを終えて、率直な感想は?(小林鷹之氏)

 

 自分が学生の時と比べても意識が高く感銘を受けましたし、若い方がここまで社会課題の解決に向けて、実際に問題設定して、社会実装まで結びつけていこうという行動型の学生団体なので、こういう若い方たちが東大に限らずインカレでやられているということですから、非常に刺激を受けました。

 

 会場での質問に関しても、フロアから沢山質問をいただいて、不平不満というよりも、前向きな質問が多かったのが印象的だった。若い方を中心に社会課題にしっかり向き合っていく姿勢を感じられてよかった。限られた時間ではありましたが、世の中の壁があるところをどう乗り越えていくのか、あるいはその先にどういう世界を作っていくのかというところを垣間見ることができ、心強いと思いました。

 

──イベントを終えて、率直な感想は?(永井優樹さん)

 

 経済安全保障担当大臣を務められた小林鷹之氏に対して当該分野の政策を提言できたことは大きな成果でした。いただいたフィードバックを踏まえて政策をブラッシュアップしながら、これからも各所へ提言活動を行うことで、社会実装に向けて引き続き頑張っていきたいです。

 

 また、今回の企画では、多くの学生や保護者の方々をはじめ、一般の方にも「学生でも政策の社会実装を目標にこれだけのことができるんだ」と知ってもらいたいという意図もありました。非常に多くの方々に傍聴いただくことができたので、少しでも我々の志を感じ取っていただけていれば嬉しく思います。

 

 これからも、社会をより良くするために自分たちには何ができるのか、模索しながら活動を続けていきたいです。

(写真は瀧本ゼミ政策分析パート提供)

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