INTERVIEW / FEATURE 2015年8月15日

優れているから世界のルールになるわけではない:国際標準化機構元会長田中正躬さん

本日は、元経済産業省の行政に携わり、ISO(国際標準化機構)の会長も歴任し、国際交渉の第一線で活躍されてきた田中正躬さんに、「リーダーシップ」に関してお話いただきます。

 

―田中さん、ご登場ありがとうございます。まず、経歴をお聞かせください。

よろしくお願いします。大学は、京都大学の工学部で工業化学を勉強しました。当時は高度経済成長ということもあり、工業化学を学ぶ学生は企業に就職することが一般的でしたが、大所高所から経済や社会を見たいという思いもあり、行政官を志すようになりました。修士課程を修了後、経産省に入り、産業政策や通商の問題などに取り組むようになります。その中で、国際標準の仕事もするようになりました。

 

田中1

 

―「標準」という言葉はなかなか一般には聞きなれないのですが、「標準」、特に国際標準とは何か教えてください。

現在の世界では それぞれの地域の人がそれぞれのやり方で商品やサービスを提供していますが、世界のどこに行っても、どのメーカーのものを使っても、ネジにナットははまるし、乾電池はどこの国のものを買っても使えます。また世界中誰にでもメールもでき、写真もファイルにして送れるのは、標準がちゃんとできていて互換性や相互運用が保障される仕組みができているおかげです。その為には、必要とされる技術の内容を文書にし、文章の内容どうりやれば、誰でも同じ結果が得られる、繰り返し使用される「書かれたもの」が不可欠で、それが「標準」です。見方を変えれば、技術を広く普及させる道具であり、国際標準の力に支えられなければ現代のグローバリゼーションは機能しません。

 

―標準によって、私たちの世界は支えられているのですね。田中さんは国際標準の世界の長であるISOで会長に選出されるほどだったと伺いました。田中さんが、標準というタフな国際交渉の舞台で感じた「リーダーシップ」とは何か、教えてください。

 

第一に、人の言うことを聞くことです。国際標準の世界では、「技術が優れているから、そのものが標準になる」わけではないんです。自分の主張ばかりしていては駄目で、粘り強く交渉していく必要があります。国際交渉の場には、異なる技術的発展度や文化的バックグランウンドの人々がおり、利害も異にします。そんななかで、日本の技術の優位性を主張しても、その通りにはなりません。自分の考えは相対的なものであることを自覚して、「相手の立場」で物事を考えることができるかどうか。端的に言えば、「異なった文化や社会で育つたの人の気持ちがわかるのか?」ということですよ。気持ちがわかるために、徹底的に努力せねばなりません。

そして第二に、手続きを踏むことです。国際交渉の場は、トップの独断で物事がすすむこともある企業世界とは異なります。人を納得させるのはたやすいことではありません。社会においても、何が正義かは相対的ですが、国際交渉の場では特にそうです。会議を開き、人の話を粘り強く聞き、アカウンタビリティ(説明責任)を果たし、透明性を大切にする必要があります。

 

田中2

 

―そうなんですね。国際交渉の最前線にいらっしゃった方の言葉は力があります。ところで現在の国際標準の最先端は、どのような状況なのですか?

 

かつてはボルトやナットなどの工業製品の標準作りが中心で、ISOなどが標準作りを主導できましたが、技術変化の激しい時代を迎え、ITCの世界では、Apple社やMicrosoft社などの企業が、事実上の標準であるデファクトスタンダードを主導するようになります。同様に、知的財産権など、企業が意図的に標準と組み合わせビジネスに利用するようになりました。さらに現在では、社会的責任、サイバーセキュリティ、地球環境問題、エネルギー問題などの、地球規模のテーマの「標準」を作らなければならなくなりました。その意味では、世界中の利害関係者が増えたため、国際標準の世界でリーダーシップを取るのは、かつてよりも困難になっているといえます。他分野にわたる幅広い知識を吸収できる知性が、今のリーダーには必要とされると思います。

 

―そうなのですね。これまでのお話で、私たち学生も、国際標準のことを学ばなければならないと強く感じました。田中さんは後期にGCLで講義を持たれるのですよね?詳細を頂戴できると幸いです。

はい。後期に「国際制度とソーシャルネットワーク」という講義を開講します。最近、特にヨーロッパで、高等教育において国際標準に焦点を当てた国際制度を学ぶ授業が盛んですが、それも今申し上げたような、国際標準の社会的意味が変化し、より重要になってきたことまた工夫されたカリキュラムにより短期間で必要な知識が得られることが背景にあると言えます。主体が多い現代社会において、「標準」は貴重な共有のツールです。リーダーになるには、標準に関する知識が不可欠だと、私はこれまでの経験から確信します。

 

―特にこの東京大学で、このような講義が開催されることの意味は何でしょうか。

東大生のなかには、社会的リーダーになる方もたくさんいるでしょう。ですが、先ほども申し上げた通り、「自分が優れていることは、みんなのルールにならない」のです。そのことを、議論を中心としたこの授業での国際標準の学びを通して気づいてほしいですね。

この大学は研究が盛んですから、工学系の研究結果も、素晴らしいものがたくさんあります。しかし、開発された技術が社会や市場においてに使用されるためには、乗り越えるべきハードルがあります。たとえば、技術ではトップを走る日本の鉄道技術が輸出で苦労する理由は何でしょうか。学生のみなさんも、本講義を通して国際制度を知り、国際的な調整能力、問題発見解決能力、将来を見通す能力に磨きをかけることを願っております。

 

―貴重なお話、ありがとうございました。

 

(取材・文 沢津橋紀洋)

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