報道特集

2020年7月1日

コロナで止まる東大の国際交流 学生の反応と今後の見通し

 新型コロナウイルス感染症の拡大で止まってしまった大学における国際交流。東大でも今夏から秋にかけて行われるグローバルキャンパス推進本部管轄の国際プログラムは全て中止され、冬以降についても見通しは立たないままだ。留学を予定していた学生にはどのような影響が出ているのか、また今後の開催の見通しは。本部の担当者と学生に話を聞いた。

 

(取材・高橋祐貴)

 

 東大が夏から秋にかけての留学プログラムの中止を発表したのは4月10日のこと。グローバルキャンパス推進本部主催のサマープログラムや全学交換留学の秋学期分などが中止とされた。一方、2021年春学期の全学交換留学派遣可否については、4月時点では7月ごろに出すとしていた判断を、10月ごろに延期するという通知を6月10日に派遣候補学生に対し行った。

 

 グローバルキャンパス推進本部国際化教育支援室長の矢口祐人教授(情報学環)によると、元々7月に判断を出すとしていたのは、ちょうどその頃が交換留学の協定を結ぶ海外大に対して、来年春に東大にやってくる学生の募集通知を行う時期だからだった。交換留学は海外の大学からも学生を受け入れる相互交流の上に成り立つ。協定校側でせっかく応募したのにはしごを外される学生が出るのを防ぐには、東大からの募集を止めるかどうか、7月の時点で判断するのが望ましい。しかし世界で日々変化する新型コロナウイルスの状況下で、7月に来年の学生派遣・受入可否の判断を下すのが難しいという話になり、派遣・受入双方でのビザなどの手続きや派遣できなかった場合の東大での履修登録が間に合う限界の10月まで判断を遅らせることになった。矢口教授によると、ウインタープログラムの開催可否判断も、現状では同じくらいの時期になる見込みだという。

 

 冬以降の国際プログラム開催可否の判断基準について、矢口教授は「東大から派遣する学生、東大に来てくれる学生の安全と健康が一番」と語る。判断する時点での外務省の海外安全情報や文科省からの指針など具体的な情報に基づいて判断することになるが、「その時の状況は当然ながら現時点では予想できないですよね」。

 

 急な留学中止に見舞われ、春学期の留学も先が見通せない状況に、留学予定だった学生の反応はさまざまだ。「院に行くべきかどうか、留学を通じて進路設計を見直したいと思っていた」という米国留学予定のAさん(文・4年)は春学期のみでも留学をしたいと申請した。現在は状況の不透明さに戸惑いを感じる中、留学の完全中止を見越して就活も行う予定だという。一方秋学期留学中止の報を受け「心機一転、いち早く就活をするというふうに気持ちを切り替え」たというフランス留学予定のBさん(養・3年)は、すでに春学期の留学も取り下げた。東大からの学生派遣を担当する本部国際交流課の藤本順子係長によると、今年度留学予定だった学生の半数弱が同様に春学期も含めた留学を辞退したという。

 

 

 今回の東大の対応自体に対し、留学予定の学生からは「(国内の)他の大学に比べて、厳正かつ迅速な対応だったと思う」(育・3年)など判断の早さを評価する反応が目立つが、中には「一度内定を出した学生に対し(代替の)選択肢が少ない気がした」(法・3年)という声も。元々1年留学予定だったからといって来年の秋以降の留学に自動的に参加することはできず、希望する場合は再応募になる。これは秋―春の年度ごとに毎年交換枠の数を協定校と確認し合っており、来年度の増枠を確保する保証ができないためだ。「特に東大生に人気の米国の大学などは常に派遣過多になっているため、来年度『昨年行けなかった学生も受け入れてください』とは言えない」と藤本係長。長期の留学を志す学生にはぜひ再応募をしてほしいと願う。

 

 その他、一部の学生からは一律で秋の留学を中止したことに対して「自分の派遣先は感染症の状況が落ち着いてきているため、派遣先ごとに判断してほしい」という声もあったというが、国・学校ごとによる可否の判断は困難を伴う。グローバル化の進んだ世界において、ある国の大学から来る学生がその国出身とは限らない。国単位での判断には様々な問題があると矢口教授は懸念する。春学期も秋学期と同様、一律でプログラムの開催可否を決める公算が大きい。

 

 「今回このような状況になってしまったのは学生のグローバル体験を支えたいという熱い思いを持っている大学側としては本当に残念」と語る矢口教授。東大生が海外に出る機会だけでなく、海外からの留学生が東大に来る機会までもが失われることを懸念する。「中には交換留学で東大を気に入って東大に院進してくれるような学生もいるはずなので、それが途絶えてしまうとすれば、もったいないです」

 

 本部国際交流課学生受入チームの近藤理沙子係長によると、19年9月から東大に来て20年の春学期も在籍予定だった学部交換留学生60人のうち、13人が新型コロナウイルス感染症の影響で帰国。70人以上受け入れ予定だった今年4月からの学部交換留学生は、実際に来日できたのが16人だった。20年秋の受け入れはすでに中止が決定しており、21年春の受け入れについては10月頃に判断を行うという。

 

 実際の渡航が困難な中、海外の大学の授業を遠隔で受講するなどといった「オンライン留学」がにわかに注目を集める。長年国際交流を担当してきた矢口教授は「個人的にはオンライン授業には可能性を感じる」と話す。例えば経済的な事情で留学できない学生がオンラインを通して国際体験を積める、学生の多様性が十分ではない東大の授業にオンラインで世界中の学生に参加してもらえるといった潜在的な利点は多い。

 

 一方で、オンライン授業は「やはり留学の代替にはならない」と念を押す。「自宅で一コマだけ海外の授業を受けて、そのままご飯を食べながら日本のテレビを見るのと、実際にキャンパスで授業を受け、休み時間には周りの学生と会話するといった体験は、これはもう全く違うものです」。むしろ、オンラインでの海外大の授業履修をきっかけに留学する、あるいは留学から帰国後も留学先の大学の授業をオンラインで履修するなど、相補的な活用が望ましいという。

 

 「先の見通せない状況だが、ある意味時代の転換点にいるため、学生の皆さんにはこの先の未来をどう作るか考え、このチャンスを生かしてほしい」と熱弁する矢口教授。最後に学生にこう語りかけた。「今は留学できないかもしれないが、必ず皆将来世界に羽ばたいて行くことになる。それに向かって準備をしていってほしい」

 

矢口祐人教授(やぐち・ゆうじん)(情報学環)
 99年米ウィリアム・アンド・メアリー大学大学院Ph.D.取得。18年より国際化教育支援室長。

この記事は2020年6月30日号に掲載された記事の拡大版です。本紙では他にもオリジナルの記事を掲載しています。

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