COLUMN 2018年12月3日

みんなで暮らす一人暮らし? シェア型取り入れる学生宿舎

 来年、東大では新しい学生・外国人研究者向け宿舎の目白台国際宿舎が生まれる。三鷹国際学生宿舎の建設以降進んだ学生宿舎建設は、どのような意図で設計され、実際の暮らしはどのようなものなのか。これからの学生宿舎の在り方はどうなるのか。東大や実際に住む学生、専門家への取材から、学生宿舎の可能性を探った。(取材・渡邊大祐)

 

学生語る交流の実態

 東大で初めて「寮」ではなく「学生宿舎」として建設されたのが、三鷹国際学生宿舎だ。全室が個室で、「アパートのようだ」という声も聞かれる。

 

三鷹国際学生宿舎外観(教養学部提供)

 

 宿舎は1990年代に個室制の約600室が整備され、居室棟と、自由に過ごせるホールを備えた共用棟がある。主に駒場キャンパスで学ぶ日本人学部生と留学生の学部生、院生が暮らし、家賃は月額約1万円。取材した学生の多くが家賃の安さを入居の理由に挙げた。

 

 宿舎建設に合わせ閉寮した旧駒場寮が相部屋制であったのに対し、個室制を採用した経緯を教養学部は「文部省(当時)の方針」として明言しない。

 

 宿舎生活について、ある日本人学生は大体自分の個室にいて、宿舎生との交流はあまりないと語る。ただ、クラスや部活での交流もあり宿舎での交流の少なさは不満ではないという。

 

 学部生の組織、宿舎生委員会の委員長ラーリック寿里晏さん(理Ⅱ・2年)も、宿舎生間の交流の少なさを認める。しかし、積極的に交流を望まない宿舎生もいるため、交流が少ないことは必ずしも問題ではないという。そこで委員会では交流を望む人が機会を持てるように、月に1度バーベキューなどのイベントを開催。このことを踏まえ、ラーリックさんは個室制を「個人的には個の強い東大生に適応していると思う」と話す。個室で自分の生活を送り、交流したければイベントや共用棟に行くなどの選択肢がある。実際、宿舎生活ならではの交流として、「宿舎でできた友人と外で寝転んで、流星群を見ながら語り合いました」と教えてくれた。

 

三鷹国際学生宿舎間取り図(教養学部提供)居室は全て個室制となった

 

 一方、豊島国際学生宿舎B棟はシェア型の宿舎だ。個人の居室を備えつつ、バスやトイレ、キッチン、リビングダイニングを10人のユニットで共有する。300の居室があり、完成は2017年と新しい。日本人と留学生の学部後期課程生と院生が暮らし、家賃は月額約4万円。ここでも取材した学生からは安さが入居理由として聞かれた。

 

 シェア型のメリットとして、奨学厚生課は、学生間の距離が縮まり、交流が活発になることを挙げる。また、留学生との生活で相互に異文化理解が深まり、国際交流につながるという。

 

 シェア型の宿舎について、ある日本人学生は当初、共同生活のストレスを強く感じたが、次第に同じユニットで仲良くなり、問題を感じなくなったと語る。今では、専門の違う人や年の離れた院生との飲み会や「ここでしか会わない人」との交流が魅力だという。留学生の院生も、ユニットで月に1度鍋を囲むなど交流があると話す。一方で、勉強や研究が忙しく必ずしも交流を望まない人もいるだろうという声も。生活リズムが合わず、ユニットでの交流はほとんどないと語る日本人学生もいた。

 

豊島国際学生宿舎B棟ユニットの間取り図(本部提供)リビングなどをシェアする
豊島国際学生宿舎B棟外観(本部提供)

 

個室制にない強み

坂井 猛(さかい たける)教授(九州大学)  1987年九州大学大学院修士課程修了。博士(工学)。綜合建築設計研究所や福岡県勤務などを経て、2007年より現職。九州大学伊都新キャンパス建設に関わった。専門は建築学と都市計画。(写真は坂井教授提供)

 

 他大学の学生宿舎はどうなっているのか。九州大学では近年、キャンパスの移転により、約1200人分の学生宿舎が建設された。伊都新キャンパス建設に関わった坂井猛教授(九州大学)は「九大でも近年ようやく『シェア』の考えが認められるようになった」と語る。

 

九州大学伊都新キャンパス(坂井教授提供)

 

 実際、2014年完成のドミトリー3(定員136人)はシェア型の宿舎だ。坂井教授は、シェア型を採用した狙いを二つ挙げる。一つ目は「キッチン、リビング、バストイレの共有で学生間のコミュニケーション、共同意識を醸成する」ため。これはアイビーリーグなど欧米の大学でも普及しているという。二つ目は個室制よりも建設費を抑え、寄宿料を軽減するためだ。

 

九州大学伊都新キャンパスドミトリー3外観(坂井教授提供)

 

 また坂井教授は、宿舎はキャンパス内か徒歩圏内にあることが望ましいと話す。「宿舎をキャンパス周辺に建設することは、『大学のまち』を形成する可能性を秘めています」。大学のまちとして挙げられるのは、御茶ノ水やパリのカルティエラタンだ。学生を相手にした安価な飲食店やカフェ、生活雑貨屋ができ、学生が過ごしやすい街となる。一方で、一般の住民に学生が迷惑を掛けないようにすることも必要だという。

 

 今後の学生宿舎の在り方について、坂井教授は多様な機能と経済性をポイントに挙げた。宿舎は寝食だけでなく、自習、ミーティング、リフレッシュ、購買、ブラウジング(宿舎内を歩くこと、コミュニケーションのきっかけとなる)などさまざまな活動を想定することが求められているという。「経済的で快適な環境をいかに構築するか」考えることが大切だと語った。

 

 今後、東大の学生宿舎はどうなるのか。来年9月に入居開始予定の目白台国際宿舎では、シェア型と個室型両方の部屋が設けられる。パンフレットではシェア型の部屋について「一人暮らしでは得られない贅沢(ぜいたく)な空間」とうたう。奨学厚生課は、前期教養学部生が入居可能かなど、細かい対象者は検討中とした。

 

 教養学部は、教養学部創立60周年(2009年)事業の一環として三鷹国際学生宿舎で新棟建設を計画し、現在も「計画実現に向け、検討中」と語った。この設計では、「基本的に個室制が踏襲されているものと理解している」という。

 

目白台国際宿舎シェアブロックのイメージ図(本部提供)約20人で生活することを想定したこのシェアブロックでは学習、食事などの目的に合わせた複数のリビングなど共用スペースが充実している。

 

 学生宿舎でシェア型が導入された背景には、寝食に限らず、宿舎でしかできないことがより評価されていることがうかがえる。その一つは国際交流を含めた学生間の交流である。個室型では、これは多くが個人の裁量による一方、シェア型では、建築で自然に、しかし裏返せばいくらか強制的に生み出される。いずれの宿舎も、偶然にも同じ宿舎に住むことになった人々が、交流する場としての可能性が見えた。同時に、取材した多くの学生が求めた家賃の安さも重要だ。理想的な宿舎の在り方の模索が続いている。


この記事は、2018年11月20日号からの転載です。本紙では、他にもオリジナルの記事を掲載しています。

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