報道特集

2019年6月6日

東大入学式上野祝辞 依頼した東大執行部の問題意識とは

 インターネット上でも大きな話題を呼んだ2019年度学部入学式での上野千鶴子名誉教授による祝辞。ジェンダー問題などに言及した祝辞は、祝辞を依頼した東大本部の危機感の表れと見る向きも多い。果たして上野名誉教授の祝辞は、東大の執行部からはどのように捉えられているのか。東大で男女共同参画を担当する理事・副学長と、階層論研究の専門家である女性の理事・副学長に取材した。

 

(取材・高橋祐貴)

 

松木則夫(まつき・のりお)理事・副学長

 

 男女共同参画室長で東大の男女不平等の改善に取り組む松木則夫理事・副学長は「そもそも祝辞は個人の著作物に当たるため、内容に東大が口を出すことはない」と語る。今回も上野名誉教授の求めで学生の男女比などの数値の確認のみを行い、他の部分には一切介入しなかった。当然、上野名誉教授に依頼を決めた時点で「ジェンダー問題に触れるだろう」とは意識していたが、実際に触れてほしいとは伝えていないという。

 

 上野名誉教授が東大に対して批判的な内容を述べることは十分予想できたが「現状男女比が偏っているのは事実なため、個人的には批判を甘んじて受け入れるつもりでした。結果として、東大におけるダイバーシティ推進へ力強いエールをいただきました」。メディアの報道も意識していたが、これほどまでの反響があるとは思っていなかったという。祝辞が世間の耳目を集めたことで、東大が女子学生を増やすために行っている施策などにも注目が集まり、議論が進展することを期待している。

 

白波瀬佐和子(しらはせ・さわこ)教授(人文社会系研究科)

 

 一方「当初から祝辞への反響を狙っていたわけではない」と語るのは、女性で唯一理事・副学長両方を務める白波瀬佐和子教授(人文社会系研究科)。祝辞を依頼するにあたって、学術的・社会的に多大な貢献がある人物であることが重要なポイントで、上野名誉教授についても日本におけるジェンダー、ケアの研究に大きな功績を残した社会学者である点が大切だと話す。「ジェンダー問題というテーマがあって、人選が進んだという流れではないと私は理解しています」

 

 その上で祝辞の重要なメッセージは後半にあるという。入学式に参加する新入生は多様で「自分が強者だ・特別だ」と思っている人ばかりではないだろう。ただ「階層論研究の専門家として『強者の立場にいること』への自覚は、東大生には持ってもらいたい」。

 

 東大生の生活圏は意外と限定的。小中高大と進学するにつれ、周囲の同級生の保護者の職業が限定的になっていないか東大生に尋ねると、大半の学生は「確かにそうかもしれない」と納得するという。「東大生は自らが思う以上に恵まれた、誰もが簡単に手に入れられるわけではない環境に育ったことを忘れないでほしい。難関をくぐり抜けて高いポテンシャルを持って入学したからこそ、世の中の動きに敏感になり積極的に外の世界に飛び出してはどうか」。上野名誉教授からの祝辞の意味を謙虚に受け止め、自分と違う環境に置かれた人の立場を想像できる他者感覚を持つ学生になってほしいと願う。

 

 上野名誉教授が祝辞の中で触れた東大のジェンダー問題については、松木理事・副学長も白波瀬教授も「対策の効果はまだ見えず道半ば」だとうなずく。特に女子学生の比率向上については「女子学生への住まい支援、女子学生による母校訪問、女子中高生向けのイベントなどさまざまな施策を打っているが一向に結果につながらない。むしろいいアイデアがあれば東大新聞の読者に教えてもらいたいくらいだ」と松木理事・副学長。今後は在学生の母校以外にも東大の宣伝ポスターを送付する、女性卒業生の動向をより広範に把握してロールモデルの発信に努めるなどの施策を打とうかと議論しているという。

 

 五神真総長が役員層の女性比率30%を目指す「30%クラブ」に大学のトップとしていち早く加盟したのも、現状への危機感の表れだ。組織の上層部だけでなく、学生、研究者、職員等のダイバーシティの向上に向けて、改革の道のりはまだ長い。

 

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※東大の女子学生比率向上のためのいいアイデアがある方は、下記の意見送信フォームからぜひご提案いただけると幸いです。

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