COLUMN 2020年8月17日

「走りながら考えた」 中心教員が振り返る初期対応【検証:東大のオンライン授業②】

 

 東大にとって初の挑戦となった授業の全面オンライン化。3月18日に五神真総長の声明で授業オンライン化推奨の方針が打ち出されてから、学部によってはわずか2週間程度の準備期間を経ての開講だった。当時東京大学情報基盤センターと共にオンライン化対応の支援に当たった東京大学大学総合教育研究センター(大総)の教員は、一連の対応をどう振り返るのか。対応の裏に見えてきたのは、トップダウンではない中間レベルの迅速な意思決定と、学生の協力だった。

 

(取材・構成 高橋祐貴)

 

独自に動いた非公式チーム

 

 元々大学の授業のオンライン化やファカルティ・ディベロップメント(FD:教員の教育力等の向上支援)を担ってきた大総の教員が、東大の授業全面オンライン化に関わることになったのは、3月6日の福田裕穂理事・副学長からの問いかけがきっかけだった。この段階ではまだ大学として全面オンライン化の意思決定はしておらず、授業をオンライン化するにあたって何かできないかという相談だけだったが「個別に動いて準備をしておいた方がいいなと思いました」と大総の吉田塁特任講師は振り返る。

 

 話を受けた吉田特任講師と大総の栗田佳代子准教授は、まずオンライン化の中核を担うことが想定されていた情報基盤センターに連絡し、連携を模索した。週明け9日の朝には情報基盤センター長の田浦健次朗教授(情報理工学系研究科)らとミーティングを開き、週の半ばに授業オンライン化に関する情報を集約する「オンライン授業・Web会議 ポータルサイト@ 東京大学(以下ポータルサイト)」を開設。13日には「授業のオンライン化を念頭に置いたTV会議ツールと使い方説明会」を行うなど、急ピッチで準備を進めた。「18日に総長の声明が出る前から準備を進めていたことになりますね」と栗田准教授は語る。

 

 まずは東大でオンライン授業に活用できるシステムやツールにはどのようなものがあるかを伝えるところから始まり、個別のシステム・ツールの使い方の説明に移っていった。Zoomの需要が出そうだと見込み19日にZoom講座をオンラインで行ったところ、想定を大幅に超える1000人以上の参加者が集まった。

 

 こうした一連の動きは「一応福田理事・副学長に逐次報告してはいたが、情報基盤センター・情報システム本部・大総からなる非公式なチームで独自に学生・教員の需要を先読みし判断を行っていた」と栗田准教授は話す。ポータルサイトに記録が残っているものだけでなく、各部局のオンライン化対応支援や、学生相談のオンライン化の相談にも応じたという。

 

不足する人的リソース 学生の貢献も

 

 「各センターでバラバラに情報を出すという非効率な事態に陥らずに、オンライン化支援の情報を一元的にポータルサイトで提示でき、各部局がそれを参照する流れを作れたのは良かった」と吉田特任講師は一連の対応を評価する。一方、主要メンバーが限られ、人的リソース不足でやりたいことが十分できない部分もあった。「人を増やすとマネジメントにかかる労力も増えるので、難しいですね」

 

 リソース不足を補うために導入されたのが、4月16日に発表された各授業の簡易的なサポートを学生が行うクラスサポーター制度と、5月1日に開始したポータルサイトのチャットサポートの有人対応を学生が行うコモンサポーター制度だ。一見自動応答に見えるこのシステムの裏では、自動応答できない質問に対応する学生オペレーターが活躍しているという。こうした制度は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行下での学生のアルバイト減少への対策として学内アルバイトを増やす意味合いもあった。

 

オンライン授業・Web会議ポータルサイトでは、画面右に出てくるチャットサポートから、自分の問題に合った解決策を提示してもらえる

 

 「表に出てこないけど大変だったのは、メールでのトラブルサポートでした」と吉田特任講師。3、4月の準備期間には1日100件以上の問い合わせが常に来る状況で、通常業務はほぼ止めざるを得ない状況だった。初めは「ECCSクラウドメールのアカウントをアクティベート(有効化)できない」「Zoomの東大のアカウントをアクティベートできない」といった基本的な質問が大半を占め「メール対応で1日が終わることもありました」

 

 田浦情報基盤センター長ら非公式チームは、7月中旬までの時点で5200を超えるメールに対応してきたという。「東大のシステムは(複数のシステムに一つのアカウントで入ることができる)シングルサインオンではないため、各システム全てにサインインしてもらう部分を乗り越えてもらわなければならなかった」と栗田准教授。こうした状況を改善したのがコモンサポーター制度だった。チャットサポートのシステムが立ち上がってからはメールでの基本的な質問がなくなったと吉田特任講師は振り返る。「学生にも支えられてオンライン化が実現している部分はありますね」

 

 混乱の中急ピッチで進めた授業のオンライン化だったが、学生からの評判は上々だ。本紙が7月15〜19日に東大生250人に対して行ったアンケート調査では、3〜4月期の東大の対応を「非常に評価する」「まあ評価する」と答えた人が合わせて94.4%に上った。対応を評価する理由では「とにかく対応が早かった。ITC-LMSやUTASが重くて問題になった時なども復旧がすぐに終わった(文Ⅲ・1年)」「オンライン化が迅速であり、予定通り夏期休暇が取れるから(養・3年)」など、問題への逐次的な対応の速さと、学事歴を大きく変更せずに済んだことへの評価が目立つ。

 

 「走りながら考えて回していた」と当時のオンライン化対応を総括する栗田准教授。学期も終わり教員からの問い合わせも落ち着いたという今、来学期以降のオンライン授業の継続に向けて、きちんと時間を取ってオンライン授業の在り方を考える段階に差し掛かっている。

 

 

※次回は、今回話を聞いた大総の教員と共に、今後のオンライン授業をどのように改善していけばいいか考えます。

 

【連載 検証:オンライン授業】
  1. 回答者の7割「満足」も下級生は不満あり
  2. 「走りながら考えた」 中心教員が振り返る初期対応 <- 本記事
  3. 弱みは雑談のみ? オンライン授業の改善策は

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